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誰よりも「コトに向かう」意志を持っていたオーベルシュタイン

DeNA南場智子さんの言葉に「人や自分に向かわずに、コトに向かう」というのがあるそうです。初めて聞いたとき、思い浮かんだのが『銀河英雄伝説』のオーベルシュタインでした。

人(皇帝)ではなくコト(銀河帝国)に向かっていたオーベルシュタイン

オーベルシュタインは、銀河帝国における謀略担当と同時に、「嫌われることを恐れず正論をいう」という役割があります。他の提督はラインハルトを崇拝するあまり、ラインハルトの考えにNoといわない(いいづらい)のですが、オーベルシュタインはラインハルトに嫌われることも平然といいます。

例えば、キルヒアイスの死後、ラインハルトに立ち直ってもらうよう、姉のアンネローゼにお願いするシーンがあります。他の提督は「キルヒアイスの死をアンネローゼに報告したらラインハルトに恨まれる」という理由で報告を嫌がるのですが、オーベルシュタインはこれを平然と引き受けます。

さらには、キルヒアイス暗殺の冤罪をリヒテンラーデ侯に着せて、後の政敵を排除することを提案します。「銀河帝国(後のローエングラム王朝)のために何をなすべきか」を見据えているから、ラインハルトの指示が無くてもこういう発想が出てくるのだと思います。

これ以外にも、オーベルシュタインがラインハルトにNoというシーンはいくつもあります。「ヤン・ウェンリーを倒したい」というラインハルトの私情から発生した回廊の戦いを批判したり、「ヤン・ウェンリーを臣下に迎えたい」というラインハルトの考えに対して、ヤン・ウェンリーが臣従するはずがないと否定したりです。

これだけだと、オーベルシュタインがただの否定だけする人に見えますが、そうではありません。オーベルシュタインの判断基準は、「ラインハルトが満足できるかどうか」ではなく、「銀河帝国にとってプラスになるかどうか」なので、前者の場合は否定するというだけの話です。

革命家のためではなく、革命のために戦うオーベルシュタイン

「人よりもコトに向かう」というのは、いうのは簡単ですが、実際には難しいことです。「何をやるかより誰とやるか」という言葉があるように、コトよりも人に向かう比重のほうが重くなりやすいからです。

地球教のテロでヤン・ウェンリーが死んだ後、アッテンボローがこんな台詞をいっています。

人間は主義だの思想だののためには戦わないんだよ! 主義や思想を体現した人のために戦うんだ。革命のためにではなく、革命家のために戦うんだ。

つまり、人はコト(革命)ではなく人(革命家)に向かうということです。事実、自由惑星同盟(特にイゼルローン要塞)の人たちはヤンのために、銀河帝国の提督たちはラインハルトのために戦っていたでしょう。そのヤンにもユリアンやフレデリカ、ラインハルトにもキルヒアイスやアンネローゼという「向かう人」が存在します。

一方、オーベルシュタインには家族や愛する人が全く描かれていません(執事と犬だけ)。遺言でも執事と犬にしか言及していないので、そもそもいなかったのでしょうし、いたとしても、家族や愛する人のために戦うタイプではなかったでしょう。銀河帝国内では非常に嫌われ者の彼ですが、作中では誰よりもコト(革命)に向かっていたキャラクターだと思います。

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