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差し出がましくも問わず語りに 〜メイウェザーvs朝倉未来 感動試合、極悪勝負

ボクシングをやったら喧嘩に強くなれる。
喧嘩に強くなりたかったら、やっぱボクシングだ。

プロボクサーで強くなったら君は格闘技界のスーパースター、斯界最高額を稼ぐ有名人。

真剣勝負のボクシング界に復帰して、並み居る強敵に絶対勝つと思えるほどの自信はない。「本気では闘えなくなった」
「これからは遊びでやる」と言いながら、メイウェザーは事実上引退して(強豪ボクサー相手アンドレ・ベルト戦まで)7年、既に45歳。その間に、本来非ボクシングの格闘家たちとボクシングに似たメイウェザー・ルールで闘い、不敗神話を継続してきた。「これは、オファーがあるから成立するビジネスだ。真剣勝負じゃない」

ボクシングこそ最強。他の格闘技より明らかに格上、技術レベルが圧倒的に違う。世界のトップクラスになるとアスリート並みの身体能力、無尽蔵なスタミナ。攻守に弱点のない選手同士が、多彩な技と絶え間ないミクロの駆け引きのなかで、一瞬の隙を狙って闘い続ける競技。

そんな幻想と事実を送り伝え続けてきたメイウェザーが、9月25日超RIZINのエキシで朝倉未来に完勝、2R終了間際だった。しかし、考えてみればエキシビジョン・マッチという名のスパーリングであり、朝倉が本格的に練習する前のボクシングの実力は、渡嘉敷勝男氏によると確か「8回戦まではいかない」とか。日本ランカーに届かないレベルの選手が2か月程度の特訓で、デビュー戦に、日本チャンピオンより遥かに上、世界王者たちの上、統一世界王者のなかで不敗の5階級制覇10年連続PFP。天文学的強さ。まさに TBE(=The Best Ever史上最高)と呼ぶしかない男と闘う訳だから、引退や年齢のことを割り引いても妥当な経過、天晴れな結末だ。

感動的なリアリティー・ファイトだった。
朝倉はMMAスタイルのボクシングで臨み、合わせてメイウェザーは力量を測りながら、次第に間合いを詰めてきた。足蹴りを警戒しなくてよい、コイツはホントのボクシングをするつもりだと分かると頭をかなり低く下げたダッキングやノーガード・スタイルも見せ、手の内が粗方読めた2R後半一気に仕留めに行った。TKOになった一撃は三半規管を狙ったようだ。
もし、オープン・フィンガー・グローブだったら、顔面ガードがまともにできないから結構白熱した試合になっただろうし、さらに足のフェイントが許されていたら勝ち目が出、賠償金を払って「蹴りの権利」を買えたら勝っていたと思う。次回書くけれども、相当の理由がある。

ルール契約条項が送られて来るまで朝倉は、反則ぎりぎりの戦法を考えていただろう。RIZINが契約書にサインを遅らせようにも、サインするまで試合はしないと言われたら抗うことはできない。天心戦と同じ、メイウェザー側が連れてきたといわれるケニー・ベイレス氏は、かのパッキャオ戦以外にも多くのボクシング世界戦を捌いた名レフェリー。介入がやや早めながら観戦者を納得させる、事故防止の達人であり、おそらく業界一の高額報酬で知られている。けれども、コミッションが決めたルールを対戦者に中立の立場から捌くのと異なり、日本での前回同様メイウェザーはワン・マッチ・コミッションの権能が事実上与えられているから、メイウェザー・ルールが厳密に適用されるはずだ。公正中立って何だろうか。
朝倉はRIZINビジネスを高く評価し、榊原氏の力量を認めているが、メイウェザーには勝てない人だと思ったことだろう。交渉途中、変な要求してきたら俺の方が試合を放棄するとか、そこまでして闘う必要は感じないとか、RIZINサイドにプレッシャーを掛けてきたが。かつてのシバターvs久保優太戦。八百長密約を事前に防げず、出場契約書発効前のこと、試合は台本破りだから八百長にあらず、真剣勝負と認めてシバターお咎めなし、に終わった。前田日明氏は自身のチャンネルで不祥事を批判し、「鈴を付けておけばいいんですよ」とアドバイス。う〜む「本物」だ。
伝説の名作YouTubeシバターvs朝倉戦は、シバターの八百長持ち掛けを裏切って開始早々フルボッコにした。シバターとしては勝っても負けても絵(面白い動画)にする二段構えだったとはいえ、朝倉の返しは見事だった。

メイウェザーは絶対負けない場を用意して、朝倉の待つリングへ向かった。朝倉は結局そうなると想像していたエキシへ、マジメに頑張る良い子ちゃんとしてリングへ上がる風に見えた。しかし手ぶらでは帰らない男。超一流のボクシング技術を持ち、結局ボクシングで勝つスタイルのMMA選手と純粋なボクシング・ルールで闘うシミュレーション・マッチ。アップ・ライトに構え、蹴りを出せる間合いを取ったから、メイウェザーは、逃げる必要はないが警戒して慎重に行った。2R。このまま調子で進めると「普通に良い」つまり素人目には凡戦に終わってしまい、盛り上げるためには自分の方から出て行くしかなかったかもしれない。挑戦者はクラウチング・スタイルで遮二無二突っ込んできてもらった方が自分の凄さを見せられる。勝てないと分かっていても朝倉は勝ちに行った。2R終了間際、このRも切り抜けたと思った瞬間、魔法の一打で平衡感覚を奪われて起き上がるもぼんやりと佇み、レフェリーストップ、TKOとなった。MMA選手として明日の糧となる経験し難い敗戦だった。朝倉未来ありがとう。

認められたエキシは勝負でなく、指導色の濃い強者側が手加減したスパーリングだ。トラッシュトークなど以っての外。勝負じゃないのだから挑戦者として笑顔で敬意を表し、殺気を出さずに真剣に向かう方がエキシらしい。JBCは非ボクシング選手との試合を認めない厳しさだけれど、ボクシングがスポーツである以上、競技で培われた品位を保つことが大切だ。コミッションに従わず、対戦相手を小馬鹿にし、他種格闘家たちのプライドを傷付ける。
ボクサーはボクシング流儀に権威付けられた真剣勝負=(公式)試合を、格闘家たちは権威機関がないとはいえ「命懸け」を宣言して真剣勝負に臨む。何れも「本気」で闘っている。それこそが彼らの「お金には代え難い誇り」なのだ。
朝倉とのエキシ後のインタビュー等々で、現役時代、「本気」の闘いがどれほど輝かしかったか滔々と語る。逆に読めば、今しているエキシは、衰えたとはいえ、ボクシング素人の、有名人や格闘家相手ならば往年の勇姿、名人芸を見せられる。「本気を出さなくても楽勝」なのでなく「本気を出せないから弱い相手と遊ぶ」のだ。それを「俺様は金儲けがうまい、賢い男」だと。自己演出にも程がある。

小さくトリミングし引き伸ばした衝撃画像の、原画を見ると騙されたことに気づく。
「THE MONEY」メイウェザー、マッチメイクからの「勝負」として眺めると許されないほど極悪なビジネスだ。

もし、ボクシング側が異種格闘技戦として妥当なルールを用意してくれたら面白かったのに、と思う。

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