血友病vs川崎病vsダークライ 8日目

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洗濯機の蓋が閉まっておらず、エラーで予約運転ができていなかった。洗剤を入れたところまでは記憶にあるので、完全に私の失敗だ。今から回しても40分以上かかってしまう。
疲れていると、普段から散漫な注意力が更に下がって、こういう小さなミスが増える。そして結構引きずる。後悔しても洗濯機は急いでくれないのだから、すぐ切り替えるに越したことはないのだが、この歳になっても「見直し」「確認」の弱い自分に嫌気がさしてしまう。苦手なら対策を考えろと思わなくもないが、まさかto doリストに洗濯機を回す手順の全てを書いておくわけにもいくまい。

洗濯物が干せない分、夕飯分のなめこの味噌汁とキノコのマリネを作り置きし、親子丼の玉ねぎ人参椎茸をカットしておいた。キノコばっかり使うやん(下準備が楽)。

この日は、わたこもまめこも比較的すんなり起きてきた。昨日プレゼントでもらったワンピースを着たがったが、残念ながら保育園はスカート不可である。ついでにいうと、気温10°C前後の日に半袖も無理がある。いや、あのね、苺の刺繍があるからと言って春の洋服とは限らないのよ。えーっと、暦の上で春だとしても、今日は冬寄りのお天気だからね。…全く理屈っぽいなあこの娘は、誰に似たんだか




行きの道をノーミスでクリア出来たため、洗濯機で落ちた気分は回復した。たんたも問題なく元気であった。月曜日、もう入院から丸一週間経ってしまった。予定では今日から折り返しである。



月曜日になって久々の回診があり、入院中に血友病の管理を担当している先生が部屋にきた。明日、2回目のヘムライブラがあることについての説明と、先生自身がお休みで立ち会えない旨を聞いた。主治医より大変若い先生で、申し訳なさそうにしていたので、「いえいえ、お休みは労働者の権利なので…」と変な受け答えをしてしまった。

ところで、私は目に見えないヘムライブラの効果が出ているのか、具体的にどの程度止血への作用を期待していいのか気になっていた。採血の後の内出血はかなり順調に消えていっているように思う。しかし、これが薬の効果を受けてのものなのか、そもそもこの程度の内出血なら自然に治まるものなのか、比較対象がないので分からないのだ。


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血友病における「出血」について

たんたは血友病の中でも、凝固因子(第Ⅷ因子)の活性が1%未満、つまりほとんど作られていないといってもいい、「重症」に分類される患者だ。しかし、それでも出血したときに全く止まらないというわけではない。ヒトの身体の中で血を固める役割をするものは他にもあり、例えば有名なもので「血小板」は、たんたの体の中にも一般的な人と変わらない割合で存在している。

血小板は一次止血といって、血管が破れると傷口に集まり、フォン・ヴィレブランド(VW)因子というたんぱく質を仲介し、血栓をつくって血を止める働きを担う(このVWが不足して止血に問題が生じるVW病という病名もある)。血友病には一次止血を阻害する要因はなく、赤ちゃんが顔を引っかいたりしてできるような小さな傷なら血小板の作用ですぐに出血は止まり、治るのに時間もかからない。
その後の二次止血では、フィブリンと呼ばれる網の膜が、不安定な血小板血栓をおおい固めることでより強固な「フィブリン血栓」をつくり、止血を完了する。しかし、そこに至るまでには実に12種類ものたんぱく質=凝固因子が順番に反応する必要がある。そのうちたったひとつの因子が欠けているだけで、致命的なことにもなりかねない難病が血友病だ。

以前にも書いたが、血友病は半世紀前は10歳まで生きられない病気とされていた。
圧迫や冷却といった怪我をしたときの一般的な応急処置は、効果の差はあれど血友病にも有効だ。だが、頭の中や臓器などで出血が起きた場合、薬のない時代には手の施しようがなかったものと思われる(父の幼少期には輸血が唯一の手段とされ、体内で止められない出血の疑いがある度に、父の母である祖母が血を与え続けたとのことである)。

人の体というのは、実は激しい運動をすることで知らないうちに出血が起きていたりする。通常は勝手に止まってしまうので気付かないが、血友病だとそうもいかない。特に多いのが関節内の出血で、繰り返すと骨が変形し、身体の動きに支障が出る。父は私が物心着いた頃には車椅子での生活だった。
今でこそ良い薬がたくさん開発され、治療も小さい頃から「補充」と呼ばれる「血友病でないのと同等な状態を保つ」方法が取られるため、かなり一般的な生活が送れるようになっているが、昔の製剤は怪我をしたら打つ、症状が出たら打つ、といった対処療法的な使い方だったのだ。

ちなみに、私がたんたの出産で帝王切開を選んだのは、男児の場合遺伝的に血友病の可能性があり、経膣分娩での頭蓋内出血のリスクを避けるためであった。先人たちが病気のメカニズムを研究してきてくれたが故にできた選択である。
当時の医療では、血友病だったかどうかも明らかではないが、祖母の2人目の子は産まれてすぐに亡くなっている。


※医師の説明や実際の血友病患者である父の話を元に書いています。専門家ではないので、分かりづらさには目を瞑っていただき、参考程度にお願いいたします。何か、「ここはおかしいぞ」という点がありましたらご教示いただけますと幸いです。
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ここで取り上げた「止血」のように、ヒトの体の働きに興味があり、まだの方はぜひ、「はたらく細胞」を観てほしい

また、父の半生が気になる方は、父がブログにあれこれ綴っているので別途ご紹介する。お声かけいただきたい。


翌日は、ヘムライブラの投与と同時に、川崎病の経過を確認する血液検査も予定されていた。そこで、
担当医に「検査のとき、一緒にヘムライブラの効きも数値でみられたりするものですか?」と尋ねた。
すると担当医は、「以前の診察の際に○○先生(主治医)の方で…インヒビターはなくヘムライブラは問題なく効くことがわかっていますし…、2回目を打ってしばらくしないと安定しないもので、何回も数値を測る意味もないので…」となんだか歯切れの悪い説明をした。


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インヒビターとは


血友病の患者の体内では、免疫系が凝固因子製剤を異物と判断し、その働きを阻害する働きをする抗体ができてしまうことがある。これを、インヒビターと呼ぶ。インヒビターを持つ患者は、止血に凝固因子製剤を使うことができなくなる。

ヘムライブラは、以前書いたように凝固因子“機能代替”製剤なので、凝固因子製剤に対するインヒビターを持つ患者でも使える画期的な薬として、日本の会社が開発し、世界110カ国以上で承認されている。

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以前の診察の際に?インヒビターはなく?たんたはまだ製剤を使ったことはないし、インヒビターって血液検査でわかるもの?いや、そもそもヘムライブラにインヒビターの恐れはないはず…

単に先生の言い回しで誤解している線が強いようだ。以前の診察が云々は置いておいて、最初から「ヘムライブラはインヒビターの可能性ももないですし、」と言うのであれば話はわかる。「以前主治医が説明したと思いますが、」と言いたかったのかもしれないと、今、この文章を書きながら思い至った。
何故か遠慮がちな様子だったが、とにかく不安になるからはっきり喋ってほしい。分からないなら分からないで全然大丈夫なので。
「みることもできます、ね…みることにしましょうか?」と打診される感じだったので、いや、みるべきときにみて頂ければ、と断った。

症例数を考えれば当然だが、血友病の専門医というのは少ないらしい。若い先生にとっては、私のように最初から色々知っていて、血友病と確定する前から自ら帝王切開を選ぶような患者家族を相手にするのは大層やりづらいだろうなと思った。
この大きな小児専門病院でも、血友病の新規患者は年に5人に満たないほどなのである。




続いて、川崎病の方の担当医が明日の血液検査について説明にきた。「数値がよければ、退院が見えますね」と笑顔で言ってくれたので、ああ、入院の日はこの先生の肩越しに「絶対救命」の文字を見たんだよなと思い出す。ほんの一週間前が遠い昔のようだった。「退院」という単語を聞いて、肝心の検査は明日なのになんだかほっとしてしまった。



この日は特に目立った治療もなく、いつものように授乳やオムツやお風呂のお世話をして終わっていった。気づいたら鉄剤のシロップも嫌がらずに飲めるようになっていて、順応性が高くて何より、と思った。

帰りがけに、病棟保育士さんに話しかけられた。
「お母さん、初節句だったのに、飾り付けも何も間に合わないで、ごめんなさいねぇ」
どうやら3月3日のことを言っているらしい。感染対応が解除された日に、画用紙でつくった可愛い雛飾りをいただいていたので、その旨を伝えると、あれは入院している子全員がもらえるもので、初節句を迎える子には特別にもう少し華やかに飾りつけとお祝いをするんだと教えてくれた。
しかし、なんかちょっと変だなと思ったので、「あのー、あの子、男の子なんですが」と伝えてみた。保育士さんは目を丸くして、「あらっ!?いやだ、そうなの」と私の肩を強めに叩いた。どうやら、お姉ちゃんズのお下がりの服+中性的な名前によって女の子だと思われていたらしい。赤ちゃんの性別は見た目ではなかなか分からない。そういえば、わたこはよく男の子に間違えられていた。
「入ってくる子の情報は目を通すんだけどね、お母さんがよく一緒にいて下さるとお世話の機会もないから、ごめんなさいねぇ」と保育士さんはコロコロ笑っていた。

なるほど、たんたはこのタイミングでの入院だったから私が毎日一緒にいられるが、もう少し大きくなって、私が仕事に復帰していたら難しかっただろう。あるいは、わたこかまめこが入院だった場合、たんたを抱えている私は、きょうだい児を連れて行けない面会をどうこなせただろう。
常に誰かの泣き声が聞こえている病棟。家族にも生活があり、離れざるを得ない時間も多い。看護師さんももちろん子どもたちに寄り添ってはいるが、その仕事はあくまで「看護」であるし、時には子どもがどんなに嫌がってもやらなければならない対応や処置がある。そんな中で、病棟保育士さんの担う役割は大きいように感じた。

実は、私は長いこと院内学級の教員として働きたいと思っていたが、今回の件で病棟保育士の仕事にも興味が高まった。



駐車場の階まで降りて、スタッフさんに駐車券を渡した。
この病院の駐車場には、かなりの数の車を停められるようになっている。車だけを格納するタイプの立体駐車場で、スタッフさんが駐在して出し入れをしてくれている。スタッフさんは、年配の男性が多く、皆さん丁寧に挨拶をしてくださる。
私が面会を終えて帰るのはいつも遅い時間になり、車を出す人ももう少ないため、大体1人で対応してくださっていた。

ところが、この日は面会の保護者が何組か詰まっていて、スタッフさんは5つもある車庫の扉と精算機とを忙しそうに行ったり来たりしていた。
私の番になり、扉を開けようと急いでこちらへ向かう姿が見えたので「ゆっくりで大丈夫です!」と叫んだが、結局スタッフさんは走ってやってきた。そして、

健康のためですから!お気を付けて!」
と、爽やかな笑顔で開閉ボタンを押した。

なんだか素敵な気持ちにさせてもらった。
ああいう歳の重ね方をしたいものだ。



家に帰ると、食事を終えた家族が昨日余ったケーキをまさに食べようとしているところだったので、滑り込みセーフで一口もらった。疲れた体に甘いものは沁みる。

そういえば、甘いものを食べるときは食事の前にした方がカロリーが吸収されにくく太りにくいという話を聞いた。しかし今の私は、やや多めにカロリーを吸収した方がいいかもしれない。

女性が出産後に体型を戻すのに苦労する話はよく聞くが、その逆も意外と多いことをご存知だろうか。私は、わたこを産んでから半年ほど、食べても食べても体重の減少が止まらず、疲れやすい、重いものが運べないなど、とにかく力が出なくなってしんどい体験をした。母乳によりエネルギーが物理的に奪われている分と、産後のストレスやホルモンバランスの乱れによるものと思われた。
産後4ヶ月目の現時点で、非妊娠時より2kg少なくなっており、わたこのときと同じ臭いがするので、気をつけなければいけない。抜け毛も酷く、一日に失う髪の量は首の振りすぎで後頭部ハゲができているたんたといい勝負である

鉄分の件といい、自身の栄養について何か対策をしたほうがよさそうである。どうやらそろそろオロナミンCではまかないきれない段階にきている



閑話休題。

あれこれ片付けた後、まめこがパパにもらった絵本をみんなで読んで、眠りについた。



9日目へ続く

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