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35.今日本で流行っている、昔の世界の資産運用

⬜︎資産運用に「リスク」はつきもの
 
リスクというのは損する可能性を表す言葉ではなく、予測可能性を表す言葉で、平たく言えば「ブレ幅」のことを言います。リスクが低いというのは予測可能性が高く、リスクが高いというのは予測可能性が低い事を表します。
 
つまり、リスクが低いというのは儲かる可能性も低く、リスクが高ければ儲かる可能性も高いという事です。
リスク必ずしも損をするという意味ではなく、儲かったり損したりする可能性を言うのです。
 
 
⬜︎3人の「ノーベル経済学者」
 
残念ながら、日本人のノーベル経済学賞受賞者は存在しないのですが、投資を学ぶ上で重要な3人のノーベル経済学者をご紹介します。
 
1952年、シカゴ大学の大学生ハリー・マーコウィッツは、博士論文として『モダンポートフォリオ理論』を発表しました。彼は、個々の株にはそれぞれにリスクが存在しており、正反対のリスク特性を持つ銘柄同士を保有する事で、打ち消し合う波のようにリスクを軽減させながら、期待リターンは高く維持出来るのではないかと考え「分散投資」の効用を数学的に証明しました。
 
マーコウィッツの発見は、リスクが低い銘柄とリスクが高い銘柄を組み合わせる事で、たった一つの銘柄に全額投資するよりも低いリスクで高いリターンを得られるというものでした。
 
それに反し、イェール大学で教鞭を執っていたジェームズ・トービンは、大事なのは銘柄ではなく、各々のリスク許容度に合わせて株式と国債の割合を決める事だと主張したのです。これは『効率的ポートフォリオ』と呼ばれています。
 
さらにその後、ウィリアム・F・シャープが『資本資産価格モデル:CAPM(キャップエム)』という理論を提唱します。シャープは値動きの要素は 
①銘柄固有の動きα ②株式市場の銘柄が感応する動きβ③予測不可能な出来事 の3つであり、「分散投資」は3を消し去る効果がある。ならば値動きは1と2で決まるが①のαは一定であり、リターンは最終的にβで決定される事になると主張したのです。
 
その上効率的ポートフォリオは世界に一つしかなく、それは世界の株式をそのままの割合で自分の財産で買える規模に縮小することだと結論付けました。
 
 
⬜︎価値の増大を期待する運用は、「森を育てる」ようなもの
 
 私は、ノーベル経済学者のように理論立てて資産運用を語ることはできませんが、キャピタル・ゲインは森を育てるイメージだと思っています。
 
 キャピタル・ゲイン(一時所得・譲渡所得・雑所得・退職所得など)の最大の特徴は、インカム・ゲイン(利子所得・配当所得・不動産所得・給与所得・事業所得)が「元金据え置き、利払いのみ」という仕組みであるのに対し、「元利取り崩し」であるため「森の木々を伐採して利益を得る」イメージなのです。
 
 先述の3人のノーベル経済学者をはじめ、あらゆる資産運用ビジネスに係わる方々は、「キャピタル・ゲイン」前提で資産運用を勧めてきます。
そこには「損」と「益」が共存するのですが、次章で述べる「インカム・ゲイン」はゼロ以上しかないことを記憶に止めて、以降のステップを確認していただけると幸いです。

⬜︎キャピタル・ゲインの「所得発生(出口)」までのステップ
 
子供のころに「あさがお」などの植物を育てたことがあると思います。
 
まずは、①種をまき、芽が出たときに偏りがあれば②間引き、枝葉がついたころには、日差しが隅々まで当たるように③枝を剪定し、日照りに備えて④溜池を活用し、⑤伐採して利益を得ます。
 
 
⬜︎「種まき」
 
 種を一つだけ巻いた場合、その種が芽を出さなければ成果はゼロです。それに対して、幅広くまいておけば、芽が出ない種があったとしても、トータルでは成果があります。
 
また、松の木を一種類だけの種では、その年に松くい虫などの被害にあったり病気になったりして、その種類が全滅する恐れがありますが、異なる種類の種をまくことで、全滅を逃れることができます。
 
 これをキャピタル・ゲインに応用すると、異なるアセット・クラス(預金・債券・株式・不動産など)を分散して保有することで、それぞれの成長を待つ運用が可能になります。
 
これをアセット・アロケーション(アセット・クラスの組み合わせ)といい、更に、そのクラスの中の具体的な金融用品を組み合わせることがポートフォリオを組むと言うことです。
 
また、一時金でポートフォリオを組むこともありますが、定時定額購入(ドルコスト平均法)により月々の積立を行う際にも購入割合を設定することによって、安い商品はたくさん購入でき、高い商品はあまり購入しないという「低価格商品多数購入」の効果が発揮できます。
 
 
⬜︎「間引き(まびき)」
 

マネジメントとは、正しいことをするという意味であり、コントロールとは、ことを正しくするという意味です。
 
ポートフォリオをマネジメントする過程(常に財産の割合を一定に保つ)において、同じアセット・クラス(例えば国内株式)のなかでも、運用実績が極端に芳しくない投資先があったと仮定します。
 
その場合、いつまでもその苗を持っていては、そのアセット・クラス全体の実績に悪影響が出てくるため、同じ市場(今回は国内株式)の他の投資先との比較を行い「間引くこと」もコントロールとして必要となります。
 
あくまでも、同じアセット・クラス、同じ市場、同じ分野、同じ業種ということが前提です(例えば、国内株式投資信託で割安株を投資先とする商品同士の比較)。
 
 
⬜︎「剪定(せんてい)」
 
 伸びすぎた枝葉は、他の枝葉の日当たりを悪くします。
 
初期設定において、債券40%・株式30%・不動産30%というアセット・アロケーション(資産クラスの割合)で投資を始めた財産が、数年後全体の評価額は上昇しているが、債券30%・株式40%不動産30%と割合が変化した場合、株式の上昇が大きく、枝葉が生い茂ったと言えます。
 
そのため、「元の割合に戻す=リ・バランス」を行うために、株式を10%売却して債券を10%購入するという枝葉の剪定を行います。
こうすることによって、値上がりしたアセット・クラスを売却し、値ごろ感のある債券を購入できるため、高いものを売り、安いものを買うというキャピタル・ゲイン運用の原則に沿った行動が容易にできるのです。
 
 ちなみに、貸借対照表のことをバランス・シートと呼び、その中身をもとの割合に戻すことを「リ・バランス」、財産を取り崩すことを「オフ・バランス(バランス・シートからの離脱)」と呼びます。
 
 
⬜︎「溜池」の活用
 
 情報が一瞬にして世界を駆け巡るネット社会の現代においては、価格上昇要因や反対に価格下落要因が起こると、投資家全体が必要以上に過剰反応を起こしバブルを引き起こしたり、その逆にショックを起こしたりします。
 
ウィリアム・F・シャープが値動きの要素は ①銘柄固有の動きα ②株式市場の銘柄が感応する動きβ ③予測不可能な出来事と唱えた中の「②と③」が過剰な反応を示すということです。
 
価格の騰落率と実態経済が大きくかけ離れているため、各国のGDP(国内総生産)や企業のROE(株主資本利益率)と大きくかけ離れた数値が現れます。

これは、先述のノーベル経済学者の時代とは違い情報のスピードが速く、誰もがその情報を容易に得ることができるために起こる現代特有の状況です。
 
 対策としては、極度の上昇局面においては運用しない手元資金にプールし、極度の下落局面においてはバーゲンセールさながらに購入することで、より安く仕入れ、より高く売却することが可能となります。これは、日照りに備えた溜池の活用だと言えます。
 

 

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