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【レポート】コロナで残業代が減り収入減が定着。消費の二極化が進み「減収増益」時代に

Zaikology Newsを運営するフルカイテン株式会社は、新型コロナウイルス感染拡大の影響が広がった2020年3月から21年2月まで1年間における消費者の収入と支出の変化をまとめ、小売企業の「減収増益」のビジネスモデルについて考察する考察するレポートを作成しました。本稿では、このレポート全文をご紹介します。

↓レポートのPDF版は下記からダウンロードできます(無料)↓
https://full-kaiten.com/news/report/3226

1. 残業代落ち込みで定期給与が減少

グラフ1は、厚生労働省の毎月勤労統計調査(対象:常時5人以上の労働者を雇用する事業所)を基に、一般労働者とパートタイム労働者に支払われた「きまって支給する給与」の対前年増減率の推移を表したものだ。

決まって支給する給与1

「きまって支給する給与」とは、基本給等の「所定内給与」と残業代等に相当する「所定外給与」の合計を指し、賞与(ボーナス)等の「特別に支払われる給与」を含まない。


コロナ禍の影響が出始めた2020年3月以降、一般労働者は一貫して前年同月を下回っていることが分かる。パートタイム労働者は増減率の上下が一般労働者と比べて大きく、4月と5月は4.0%減、4.8%減と落ち込んだ一方、7月と10月は前年同月を上回っている。
これは、小売業や飲食業等のサービス業において、最初の緊急事態宣言(20年4~5月)や感染第2波後の小康状態(10~11月)の時期に非正規労働者が雇用の“調整弁”として扱われた証左とみることができる。


一般労働者、パートタイム労働者いずれも所定外給与の減少が大きく収入減に影響している。コロナ禍による企業業績の低迷や営業時間の短縮で残業時間や残業代が減ったことが原因であるのは明らかだ。収束の兆しすら見えないコロナ禍と各種の働き方改革によって残業代の減少は継続するとみられ、
今後の所定外給与の回復は見込みづらいと云えるだろう。

2. ファッションにかかる支出は2ケタ減が継続

次に消費者の支出行動について見てみる。グラフ2は、総務省の家計調査(2人以上の世帯)から、勤労者世帯の消費支出を月ごとに前年と比較した実質増減率の推移を表している。支出額全体とファッションにかかる支出(被服及び履物)を取り上げた。

勤労者世帯の消費支出1

支出全体は、10月と11月を除いて前年を下回り続けている。10~11月のプラスは、比較対象である2019年10~11月が消費税率の引き上げ(8%→10%)によって個人消費が落ち込んでいたことが原因とみられ、この要因を差し引けばコロナ下の12ヵ月間、一貫して消費は前年を下回ったことになる。

ファッションにかかる支出を見ても、10月以外は前年から大きく減少している。さらに“自粛疲れ”からの反動があった6月と年末商戦があった12月を除き、減少幅は2桁に上る。

ただ、消費支出全体に占める「被服及び履物」の割合に、コロナ前後で有意な変動はみられなかった(表1)。緊急事態宣言の発令で店舗の休業が相次いだ4月と5月、1月が、前年同月から0.6~1.8ポイント低下したのを除き、変動は小幅だった(なお、9月の0.7ポイント低下は消費税率引き上げ前の駆け
込み需要の影響とみられる)。

被服及び履物の割合

このため、仮にコロナ禍が収束に向かったとしても、ファッションにかかる支出がコロナ前の水準に戻る公算は小さいと捉えるのが妥当だろう。ただ、ファッションにお金をかけなくなるという訳ではなく、「中途半端なもの」が売れなくなると本稿はみる。

つまり安価でそれなりに品質・機能も良いという「商品価値」が高い商品と、消費に「意味」を見出せるモノ・コトの二極化が加速するということだ。

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3. 「減収増益」が解決策の1つに

小売業や飲食業ではコロナ禍により需要と顧客が消滅し、経済が短期間でコロナ前の姿を取り戻す可能性は低くなっている。マーケティングコンサルタントの小阪裕司氏は「時代はもう元には戻らない」とまで断言している(「『顧客消滅』時代のマーケティング」・PHPビジネス新書・2021年)。

何年も前から徐々に進行していた変化が、コロナ禍によって加速された結果であろう。それは、、下記のような要因で顧客消滅、需要消失の時代はコロナの有る無しにかかわらず到来していたと捉えることができる。

・小売市場規模(小売業販売額)は2018年に実質的に頭打ち
・2025年以降、毎年100万人前後の人口減少が50年程度続く
・2025年以降は社会保障給付費の急増が避けられず、個人消費が減退する公算大
・最も消費額が多くなるべき世代(40歳代後半)の消費支出は過去15年間で月額6万円あまり、率にして約16%減少

こうした縮小市場(成熟市場)では、売上規模を追求すると過度な価格競争が起こる。価格競争では規模が大きい事業者が圧倒的に有利となるうえ、2020年晩夏からギャップジャパンやジーユー、良品計画、ユニクロなど大手企業が相次いで定価の値下げに踏み切っている。顧客の奪い合いのステージが1段も2段も上がっている。

対照的に、アパレル業界では大手企業でも売上高ではなく「利益」を重視するケースが出てきている。いわば前述の値下げ組との差別化を図る動きだ。ナルミヤ・インターナショナルは2021年2月期第3四半期決算で売上高が前年同期比微増ながら、営業損益は30%超の増益で、TSIホールディングスも減収ながら営業増益を計上した。

象徴的なのは、両社のトップが株価にも影響する有力業界紙のインタビューで、売上高ではなく利益の改善に対する手応えを口にしていたことだ。消化率が9割程度に達していた約30年前までは欠品を避け数量を売って売上高を追う経営は正しかったが、供給過多となっている現在、価値の基準を売上規
模から採算性(利益率)へ移行させるのは当然であると本稿はみている。売上高の最大化が利益最大化とならない環境であるからだ。

価格競争を避けるためにはどれだけ商品原価(製造コスト)を⾼くかけられるかの勝負になる。商品原価をやみくもに下げようとすると、販売⼒を超過するような⼤量発注や他社との商品の同質化を招き、結局は値引き販売や評価減(商品評価損)によって粗利が削られてしまうためだ。

このため、粗利を確保するために適量を発注し、値引きと評価減を抑えるビジネスモデルへの変⾰が求められている。それはつまり、無理につくる売上を捨て、しっかりと利益を取れる売上を追うビジネスモデルということであり、利益を重視した結果、減収増益となったのであれば、誇るべきことではないだろうか。

本稿は経営環境が変わったのだから経営指標も変わって然るべきだという考え方が広がることを期待する。

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