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がんかも!?

 身体のあちこちに不調がでていたにも関わらず、私は仕事を休むこともなければ、トレーニングもエステも休まなかった。身体のメンテナンスも仕事の一部だと思っていたから、休むという選択肢がなかったのだ。

 近所の胃腸内科で大腸カメラを入れ、腸は綺麗だと言われたことで、少し安心したところもあって、体調は悪かったけど働きながら次の休みを待った。

 いざ休みの朝を迎えたころには、お化粧をする元気もなく、すっぴんのまま、近くの総合病院に向かった。便秘の他にもいろいろな症状があったから、とりあえず内科に向かうことにした。

 4月半ばだったが寒かった。部屋の片隅には、洋服の山ができていた。ちょうど衣替えをしていて、娘が「もう、いらない」と言った長袖が積まれていたのだ。私は、その中から適当に1枚つかんで羽織り、運転席に乗り込んだ。身体が重くしんどくて、身なりに構う余裕ゼロ。休みを待ちつつ仕事を続けている間に、夜中痛みで目が覚めるようにもなっていて、寝不足だった。

 誰にも会いませんようにと思いながら向かった総合病院は、ガラガラ。コロナが怖くてみんな病院を避けている頃だった。よかった。知り合いにバッタリ会うことはなさそうだ。とか呑気に思ってるうちに、すぐに診察室からよばれた。

 胃腸内科では、他の病院で検査したほうがいいとも言われなかったから、紹介状はもっておらず、これまでの症状と、してきた検査と結果を口頭で伝えた。先生からは、すぐにCTと血をとってくるよう指示がでて、わたしは廊下に貼られたビニールテープの色分けに従って進み、ひととおりの検査を済ませた。

 体調不良の原因をはっきりさせたいとは思っていたけれど、ここでもまだ自分が『がん』だとは予想もしておらず、深刻に考えてはいなかった。

 再び診察室に入ると、白髪の先生は私の顔をみることなく、CT画像をじーっとみつめながら

「卵巣が腫れてるから、内科じゃなくて婦人科だねぇ。卵巣腫瘍は、5~6センチってところかな。来週婦人科で予約いれておこうか。」
と、ゆっくりとした口調で言ったあと

 さらっと

「腫瘍マーカーも高いから、がんかもねぇ」
と、続けた。

『え?こんなにサラリと、がん…って言われるもの?』

 内心かなりビックリしたが、

『これは告知じゃないよね、可能性があるということだよね』と、脳内で一生懸命、がんを否定しようとする自分がいた。

「帰り際に、同じ病院内の婦人科の予約をとっていってね。」
 直近でも1週間後になるという。

「もし、がんだった場合、そんなに先の日程で大丈夫なものですか?」
と、質問すると、先生は

「そんなに急を要するものじゃないよ」
と、変わらずゆっくりとした口調で言った。

 会計をすませ、駐車場にでると、外は土砂降りだった。

『あぁ、私の気持ちとおんなじだな』そう思った。
 暗い空の色を見て、よりいっそう気持ちが沈む感じがした。

 車に乗り込んですぐ、私はスマホで『婦人科』と検索した。急を要するものじゃないと言われたが、1週間なんて待てそうもない。

 『〇〇バースクリニック』など、あきらかにお産中心の個人病院の名前が並んだ。画面をスクロールしながら、産婦人科の4文字ではなく、婦人科の3文字を、目で探した。お腹の左側がしくしく痛い。このまま婦人科の先生に診てもらおう。。。

 うん、そうしよう。

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