『タイムカプセル』
20年ぶりに5人が集まった。
イケメンだった池田はハゲて太ったし、
お調子者だった小島はピシッとスーツを着ている。
女軍団ボスのハナは、
あの頃より化粧を覚えたみたいだ。
でも、相変わらず、
クラスのアイドルのミキちゃんは、
綺麗なままだった。
僕は、みんなからどう見えているんだろう。
気弱で臆病で、
いじられキャラのトオルのままだろうか。
そんなことを考えていたら、
4人の会話を聞きそびれていた。
小島「なー、トオルは何にしたの?」
僕 「え?何が?」
池田「なにを埋めたんだよ。タイムカプセルにさ」
ハナ「そうよ。教えなさいよ。」
僕 「ああ、うん。色々と。」
小島「どうせ拾ったエロ本とかだろ。
お前興味津々だったもんな。」
ハナ「ちょっと、やだ。最低。」
僕 「違うよ!」
池田「あー、怪しいぞこれは。なぁ、ミキ。」
ミキ「トオルくんはそんな人じゃないと思うな。
それに、掘り出したらすぐにわかるよ。」
20年前の話だ。
小学校6年生だった僕らは、
学校の校庭にタイムカプセルを埋めた。
それぞれの一番大切なものを入れた。
お互いに秘密にしようと、
包みや袋に入れて隠し合ったので
何を埋めたのかはわからない。
それを今日の同窓会で思い出した僕たちは、
夜の10時に学校に忍び込むことにしたのだ。
島田「でも、意外だよな。
俺たちの中で一番出世したのが、
トオルだなんてさ。」
池田「ほんとほんと。
小学校の時はあんなに弱かったのにさ。
体もデカくなって、
これは相当筋トレしたな?」
ハナ「彼女とかいないの?
だったら私、付き合ってあげてもいいわよ」
僕 「はは、やめてよ。
別に出世なんかしてないよ。」
ミキ「いやほんとにすごいよ。
私は馬鹿だからわかんないけど、
錆びない金属の発明だっけ。
ニュースになってたよ。」
僕 「正確には、錆びても自己修復する金属だね。
原理自体はとても簡単だし、
あんなの、小学生でも作れるよ。」
島田「お、言うようになったな。
あの頃のお前がこんな生意気なこと
言ってたら、俺はお前のこと殴ってたね。」
竹田「おい、島田。
お前まだそんなこと。」
島田「あ、ごめん。
つい、昔に戻った感じがして。」
ハナ「人を殴るなんてダメに決まってるじゃない」
島田「お前が一番暴力ふるってただろ!」
ハナ「ふん。昔のことじゃない。
もうとっくに忘れてるわよね。
トオルくん。」
僕 「そうだね。別に気にしてないよ。」
ミキ「みんなやめなって。
ごめんね、トオルくん。
嫌なこと思い出させちゃって。」
僕 「いいよ。
あっ、この木の下じゃないかな?
タイムカプセルを埋めたのって。」
竹田「よく覚えてるな。さて、掘るか。」
島田「おい、素手で掘るのかよ!
嫌だよ!
スコップとか買ってこようぜ。」
ハナ「開いてるわけないでしょ。この時間に。」
僕 「僕、手袋持ってるよ。人数分。」
ミキ「用意いいね!トオルくん。」
僕 「実験で使ったりするから持ち歩いてるんだ」
僕たちは手袋をはめて、木の下を掘り始めた。
島田「マジでタイミングよかったな。」
ハナ「覚えてたみたいね。」
竹田「そりゃトオルは覚えてるだろ〜。
普通ならありえないぜ。
お前みたいなクラスの5軍が、
俺たち1軍と混ざってタイムカプセル
埋めれるなんてさ。」
島田「今じゃお前の方が5軍だけどな。
ハゲてるし太ってるし。」
竹田「うるせえな!
もうモテ飽きたんだよ。」
ハナ「島田も、変わったんじゃない?
そんな立派なスーツ着ちゃってさ。
あの頃のあんたは、
シャツも出しっぱなしで、
とんでもなくだらしなかったじゃない。」
島田「20年前とは違うんだよ。
お前だって、
化粧なんてガラじゃなかっただろ。」
ミキ「みんな変わったよ。
あの頃の私たちとは全然違う。」
僕 「そうだね。
みんなはもう、
誰かをいじめたりなんかしないもんね。」
竹田「おいおい。」
島田「人聞きが悪いこと言うなよ。
俺たちは、お前をいじってたんだよ。
いじめとはちがうだろ〜。」
ハナ「そうよ。
あんた、調子に乗りすぎ。
もういいじゃない。
今こうして、
思い出を掘り返そうとしてるんだから。」
ミキ「いいわけない。」
島田「ミキ?」
ミキ「タイムカプセル埋めたのだって、
私たちが先生にいじめがばれそうになって、
それで、それを隠すために。」
僕 「僕も仲良しのフリをさせられたよね。
タイムカプセル埋めるほど仲良しだって。
先生は騙されて、
君たちの罪が、裁かれることはなかった。」
竹田「いや、俺たちだって、悪いと思ってるよ。
でもさ、子供の頃の話じゃん。」
島田「そうそう、子供だったんだよ俺たち。
たまに反省するときあるんだぜ。
トオルには悪いことしたなーって。」
ミキ「みんな、そんな程度じゃ済まされないよ。
子供の頃の、ほんのいたずら心でやったかも
しれないけど、それでも、
私たちがやったことにはかわらない。
トオルくん、
今までちゃんと言えなかったけど、
あの時は、本当にごめん。
ごめんなさい。」
僕 「ミキちゃん、もういいんだ。
ほんとに気にしてないから。」
ミキ「そんなわけないじゃない。
だって、だって、」
島田「もういいじゃん。
トオルがそう言ってるんだから。」
竹田「そうだよー。
それに一番トオルに率先してやってたのは、
ミキじゃないか。」
ハナ「そう、うちらも引いたもんね。
トオルが野良猫にエサあげてるの、
見つけてさー。
そしたらミキが、その野良猫を...」
ミキ「うん、本当に最低だった。
こうしてトオルくんと一緒にいるのも、
おこがましいし。」
僕 「だから気にしてないって。
あ、見えてきたよ。箱。」
20年ぶりに出てきたその箱は、
20年ぶりとは思えないほど、綺麗だった。
竹田「思ったより綺麗だな。
土はついてるけど。
ちょっと払ったらほら、
ピカピカだぜ。」
島田「だいぶ掘ったな。
スーツが汚れちまったよ。」
ハナ「もうヘトヘトよ。
昔みたいに体力ないわ。」
僕 「早速開けてみようよ。」
僕は箱を開けて、
自分の名前の書いた細長い木の箱を出した。
みんなも箱を出そうとする。
僕はみんなの後ろに回った。
ミキ「ちょっと待って。
綺麗すぎじゃない?
金属で出来た箱なんだから、
錆びてるははずよ。」
僕 「言っただろ。
小学生でも簡単に作れるって。」
竹田と島田とハナは、
それぞれの箱に入れた、
自分の小学生の頃の大切なものに
夢中になっている。
僕も自分の箱から取り出した。
20年埋まっていたナイフと殺意は、
あの頃のまま鈍い光を放っていた。
〜終わり〜
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