『過去の真実』


無重力訓練を終えた田口と海野が、
宇宙飛行士だけが使える
リラクゼーションルームで話し込んでいた。

田口「ええと、つまりだね。
   君はあの星が見えるか。」

田口は、大きな窓から見える、
輝く星を指差した。

海野「さそり座の一等星、アンタレスだろ?」

田口「あの星とこの地球は、
   550光年の距離がある。
   光が届くまで550年かかるって意味だ。
   つまり僕たちが今見ている、
   あのアンタレスの光は、
   550年前のものってことになる。」

海野「そうだな。」

田口「では、ここで話の本題。
   逆に、アンタレス側からは、
   今、何が見えてると思う?」

海野「550年前の光が届いてるから、
   西暦1473年の地球が見えている。
   おお、ちょっと面白いな。」

田口はにやりとした。

田口「じゃああの星は見えるか?」

天の川のそばにある、小さな星を指差した。

海野「あれは、カシオペヤ座か。
   1万6000光年離れてるから、
   あっちからは、えーと。
   俺、歴史とか知らないんだよ。
   宇宙のことばっかりでさ。」

田口「縄文時代が始まったばっかりさ。」

海野「へえ!あっ!話が見えてきたぞ。
   じゃあ今開発している、
   ブラックホールを応用した
   ワープ航法が完成すれば、
   一瞬でカシオペヤ座まで行けるから、
   そこから地球を観測すれば、
   縄文時代の真実がわかるってことか!」

田口「もっとすごいぞ。」

海野「どういうことだよ。」

田口「縄文時代だけじゃない。
   さっき言ったアンタレス座にいけば、
   550年前の、
   安土桃山時代の歴史が全て見れる。
   他の星に行けば、
   他の年代の地球が見れる。
   つまりだ、
   今までの地球で行われてきた活動の、
   その全てが見えてしまうんだよ!」

海野「すごいな!」

田口「そうだろ。
   ワープ航法は資源確保や人口拡大問題
   を解決するだけじゃない。
   歴史の真実さえ全て解明してしまう。
   素晴らしい研究なのさ。
   だからお前も、次の予算案会議で、
   もっとワープ航法にお金が降りるように
   協力してくれよ。」

海野「うん。でも、質問していいか?」

田口「なに?」

海野「これって、面白くないんじゃないか?」

田口「え、どういうこと?」

海野「いや、土掘って化石見つけたり、
   遺跡発見したり、
   蔵から古文書が出てきたり。
   そういうのが面白いんじゃないのか?」

田口「まあ、ロマンはないな。」

海野「大河ドラマは?
   どんな偽物を作っても、
   ワープ航法で撮った本物があるんだ。
   面白くないだろ?」
 
田口「そうだな。」  

海野「おれ、ワープ航法、
   開発して欲しくないな。」

田口「この映像をみろ。」 

田口は海野に、スマホの動画を見せた。

海野「なんだよこれ。」

田口「ワープ航法のテスト映像。
   まだ1年前の映像しかないけど。」

スマホの動画には、
海野が、浮気をしている動画があった。

海野「....」

田口「投票したら消してやるよ。」

海野「はい。」

結局、真実は何も解明されなかった。
だが、誰かはうまく使ったのだろう。



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