『天才が解決』

庶民が言う。

「世の中に食べ物がなくなり、死にそうです。」

天才は、
空気と電気で、パンを作る機械を発明した。

「これで、問題は解決するだろう。」

人々はパンを食べ、飢える人は消えた。
そして、誰も食糧を作る人がいなくなった。

庶民が言う。

「電気を生むエネルギーがなくなりそうです。
 どうにかしてください。」

天才は、
空気から電気を作る装置を開発した。

人々は電気を無限に使えるようになった。

庶民が言う。

「酸素がなくなりそうです。
 息が出来ずに死んでしまいます。
 あなたのせいですよ。」

天才は、すぐに生える植物を生み出した。
光合成に伴い酸素も増えていった。

「戦争がなくなりません。助けてください。」

天才は、
他の武器とは比べ物にならない威力の兵器を作った
その兵器とそれを作動させるボタンを、
各国に送った。

「これで、問題は解決するだろう。」

この武器は、
使うだけで世界が滅びる威力を持っている。
各国がこれを持つと、停戦が始まった。
使っても使われても、最悪の結末しかないことを、想像できたからだ。
そして、それ以外の武器は、壊されて、
車や飛行機などの部品になった。

人々は、感謝をし、平和を祝い、
愛する人や友人と喜びを分かち合った。

だが、A国とB国で争いが起き、
その兵器が使われそうになった。

庶民が言う。

「お前の作った兵器のせいで世界が破滅しそうだ」

天才は、言った。

「大丈夫だ。」

緊張はいよいよ高まり、
兵器のボタンの膨らみも張り詰めていく。

そして、ついにその日がやってきた。

ボタンは押されてしまった。各国の党首の手によって。

天才は言った。
「これで、諸悪の根源は消えた。」

ボタンは、その押した者ごと、木端微塵に爆発した。
兵器の中身は、空っぽだった。

やがて天才は病で死んだ。
この病気を治そうとはしなかった。
今まで博士が作った発明品は、
植物を産み続け、酸素を増やしつづけ、発電し続けた。
他の生き物が住む場所がなくなり、二酸化炭素がなくなり、夜がなくなった。

そして、誰も何も言わなくなった。

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