『ノーパンツ』


よし、決めた。
今日一日、ノーパンツで過ごしてみよう。

朝6時半、スマホのアラームによって、
目が覚めた瞬間に決意した。
昨日の夜から考えていたことなのだが、
結局結論が出ずに寝てしまったのだ。

しかし、もう決めた。ノーパンツで過ごす。
僕は、ベットから起き上がり、
着ていたパジャマを脱いで、
全身鏡の前でパンツ一丁になった。

「ごめんな。
 こんなことなら、昨日履かなきゃよかった」

果物がたくさんプリントされたパンツに謝りながら、僕は生まれたままの姿になった。
シャワーを浴びて、肌着を上だけ着て、スーツに着替えた。
ズボンのチャックを上げる時には、細心の注意が払われた。

よし、いくか。

8時ごろ、会社へ出社する。
最寄駅から15分ほどで着く。
この時間の電車は、サラリーマンでいっぱいだ。
僕は締め付けられるような車内に押し込まれた。
しかし、僕の心は何よりも自由だった。
いつもなら辛いこの朝の満員電車が、パンツを履いていないだけで、最近よくいく高級ラウンジのような居心地の良さを感じる。

僕は余裕の表情で会社に着いた。
受付の女の子が挨拶をしてくれた。

OL「おはようございます。」

僕 「おはようございます。」

OL「いつもより生き生きしてますね!」

僕 「ええ、今日はノーパ、
   おほん、あの、ノートパソコンをね、
   買い替えたんですよ。」

OL「なるほど!
  それはテンションが上がりますね!」

僕 「はははは。では。」

危なかった。
心は軽くしても、口まで軽くしちゃいけない。
僕は5階にある自分の席に着いた。
同僚の竹内が話しかけてくる。

竹内「よぉ。」

僕 「おはよう。」

竹内「今日の仕事終わりどうだ?」

僕 「ああ、飲み会?」

竹内「いや、すぐ近くにな。
   いいサウナができたらしいんだよ。」

僕 「へえ。」

竹内「お前好きだろ?サウナ。
   今日行こうぜ。」

僕 「ほんとに?絶対行きたい!
   あ、だめだめだめ。やっぱり無理!」

喜びのあまり我を忘れていた。

竹内「え、なんで?」

僕 「いや、ちょっと、
   18時から約束があって。」

嘘だ。ノーパンだからだ。

竹内「ああ、そっか。彼女?」

僕 「まあ、そんなところ。」

嘘だ。僕はノーパン嘘つきだ。

竹内「おいおい、
   三井さん一筋じゃなかったのかよ。
   まあわかった。じゃあ次の機会に。」

竹内は去っていった。
危なかったなぁ。
竹内とは同僚で仲はいいが、あいつは噂好きだ。
ノーパンであることをバレたら、社内で言いふらすに決まっている。
もしもこれが、広まって、経理の三井さん、
僕の憧れの女の人にバレたりしたら。。。
絶対ダメだ。
まあでも、危機は免れた。
ノーパンであることでこんなデメリットがあるとは、明日からちゃんと履くことにしよう。

竹内「おい!おい!」

僕 「え?なに?ちゃんと履いてるよ?」

竹内「何言ってんだよ!
   ちげえよ。
   社長がお前のこと呼んでるぞ」

僕 「え?」

竹内「なんかやらかしたのか?
   とにかく社長室に行け。」

僕は社長室に向かいながら、
とにかく色々考えた。
これと言ってミスはしてないはずだし、
何のようだろう。

まさか、会社の入り口に、パンツセンサーみたいなのがあって、それでノーパン社員を判別しているとか?
いや、ないか。

まさかまさか、
社長は実はいつもノーパンで、
ノーパン仲間を探し出して、
次期社長になって欲しいとか?
いや、ないか。

おそらく、このどちらかだろう。
ピンチか、チャンスか。

野球で言えば、
ツーアウト、ツーストライク、スリーボール、ノーパンティ。

腹を括るしかない。
僕は社長室をノックした。

僕 「失礼します。」

社長「入りたまえ。」

僕は恐る恐るドアを開いた。

僕 「ご用件はなんでしょうか?」

社長「あー。実は、気づいてしまってね。」

やっぱり。。。
社長ともなれば、常人でないものを、
一瞬で見抜けてしまうのか。

僕 「お気づきだったとは。」

社長「結構やってるのかい?」

僕 「いや、今回が初めてです!」

社長「初めてか。」

僕 「前からそういう願望はあったんですけど
   ついに決心しました。」

社長「なるほど、合点が言ったよ。
   あのな、、」

僕 「ですが、一言言わせてください!」

社長「なんだね。」

僕 「パンツを履かないことって、
   悪いことなんでしょうか?
   ズボンを履かないのは犯罪です。
   でもパンツは、パンツを履かないだけで
   誰かに迷惑がかかるんでしょうか!
   僕は、30年間毎日パンツを履いてきた。
   パンツは絶対に履くもの。
   そう思い込んで生きてきた。
   でも違ったんです!
   別に、パンツを履く必要なんてない!
   もっと自由に生きましょうよ!
   トランクス?ブリーフ?紐パンツ?
   ふざけんな!
   そんなんだから、心のパンツも履いて、
   人との交流が減っていくんですよ!」

社長「いや、お金の横領の件なんだけど。」

僕 「すみませんでした!」

社長「まあクビってことでいい?」

僕 「絶対にいやです。」

社長「大胆な発言だね。」

僕 「ノーパンですから。」

社長「まあ僕もいつもノーパンだけどね。」

僕 「そんなぁ。。」

社長「君とはノーパン歴が違うよ。」

僕 「人のふんどしとらないでくださいよ」

社長「ノーパンのふんどしって何?」

〜終わり〜

あとがき
勢いショートショート。
このくらいの気持ちで常に書いていきたい。

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