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「東京2021 美術展」に行ってきた話

今週の月曜日、「東京2021 美術展」に行ってきた。

本展は2021年の日本を、「祝祭(=オリンピックと万博)」と「災害(=東日本大震災)」を通して表現する展示であり、個人的に関心を惹くものであった。思考のログを残しておきたい。

「東京 2021」
https://www.tokyo2021.jp/bizyututen/

1.あいちトリエンナーレから考える

8月にあいちトリエンナーレを見に行った以降、アートに触れていなかった。表現の自由展は再開した後に開催を終えた訳だが、あの一件をめぐる各方面の様々な議論は、自分のようなアートに見識の無い人間が、一鑑賞者としての感想や見解を述べるのを難しくするのに十分過ぎるカーニヴァルであった。

あいちトリエンナーレは2010年から開催されているが、2回目が建築評論家の五十嵐太郎氏、3回目が写真家の港千尋氏と、アートでは無い業界から芸術監督を選び開催されてきた。そういう意味では、外側に開かれた芸術展である。そして今回芸術監督が津田大介氏であった。彼はジャーナリストの立場から「今回の表現の不自由展」も含めた作品のキュレーションを行ったと言える。

「あいちトリエンナーレの「平和の少女像」展示。芸術監督を務める津田大介氏がその意図を語る▼2019年8月2日(金)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」)」
https://www.tbsradio.jp/395979

そして今回話題の中心となった「表現の不自由展」の対する批判のロジックは、端的に言えば「税金を使って、天皇や国を批判する展示を行うことは、正当ではない」という内容であった。

「東京2021」において再考したいのは、アートがいかに社会にとって価値があるかということ、そして税金を使ってアート展をすべきでない、という言説の愚かさについてである。津田大介氏のTwitterに垂れ流されている「自費でやれ」というクソリプに対して、明確に反論を表明したい。

2.税金を使うこと

アートに税金を使う事について、という問題は、「一見役に立たないもの(役に立たないと思われているもの)に税金を使う事について」という普遍的な問題に接続すると言える。

東京2021においてのテーマは「慰霊のエンジニアリング」であり、震災による犠牲者の「慰霊」に税金を支払う必要があるのか、という議題設定となるだろう。
結論から言えば、ある。と思う。何故か。

震災後には税金を使って「復興」が行われる。津波に破壊された公共施設や設備を建て直し、防波堤を作る。これは言わば「ハード」の修復である。

ただ、被災者や、震災の犠牲になった方のご遺族達の精神は、ハードの修復で癒えることはない。街が元の形に戻ってもそこに犠牲者達の姿はないのだ。死者を弔い、彼らがいたことを忘れない様に「慰霊」する事は、言わば街の内容、すなわち「ソフト」の修復である。

「ハード」の修復は目に見えやすい。だから政府としても「やってる」感をアピールできる復興に注目が集まり、どうしても「ソフト」の修復(=慰霊)はないがしろにされがちである。だが、ハードとソフトはセットで修復されなければならず、どちらか一方だけでは成り立たない。

そしてソフトの修復という役割をアートが担う。死者の魂は作品の中に残り続け、鑑賞者に無言の訴えを続けていく。そこに税金を使う事に何ら疑義はない。

3.未来を生きたかった死者の視点

SNS上では、何度スワイプしても終わりがない感情の発露として文字列が並ぶ様になって久しい。あいちトリエンナーレのような「開かれた」国際芸術祭についても例外ではないどころか、より腰を据えて議論するのは困難であった。人間は理性より感情を優先し、100年後の人類の未来より今この瞬間のカタルシスと明日の生活に執着する弱い存在である。社会は弱い存在達によって形成されている。

弱い僕たちに必要なのは、この社会が今生きている人間達だけのものではなく、未来を生きたかった死者のものでもあるという視点だ。
死者を弔い、彼らの思いを作品にし、彼らが生きたかった社会について考えなければならない。死者と生き、死者とコミュニケーションしなければならないのではないか。その媒介としてアートがあり、作品がある。そしてアートの先に自分の死と、死後なお続く社会があるのだ。

「東京2021 美術展」の展示は税金とは直接関係ない。会場は京橋の戸田建設本社ビルだ。だが、復興を担うデベロッパーが、その本社ビルで「慰霊のエンジニアリング」という展示を開催するというのは示唆的であろう。
僕らが作る社会のためにアートがあり、アートに税金を使うべきでないという言説が流布した今、その価値を考え直すのに一度足を運んで欲しい。

※本展は10月20日まで開催しています。是非。

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