ケータリングの意義

芸歴を重ねていると全然売れてない僕のような者でも有名番組に出させていただいた経験がある。
その番組は出演者は10人くらい。僕以外は全員が主要な何かしらの賞レースで決勝に残っているような猛者芸人たちであった。
収録はもちろん東京。子供のころにブラウン管の中で売れっ子たちが歩くのをみたあの廊下、あのエントランスを通り抜けた先にある有名スタジオだ。
そしてその番組に出るにあたって打ち合わせがあり、その為だけに新幹線とホテルを取ってもらった。
あ、ありえない…!!普段松竹ライブ一本の為に夜行バスに喜んで飛び乗る森田GMに新幹線とホテルと朝から電車しんどいやろうからという雑魚芸人の理解をこえた理由でタクシーチケットまで!それも本番じゃない!打ち合わせで だ!
その時の率直な感想としては
「パフォーマンスのためとはいえやっぱりテレビってまだまだお金あるんやなぁ」
くらいのものであった。

そして迎えた本番当日。
その日も前乗りのホテルからタクシーでスタジオ入り。
売れてる人って毎日こんな感じの生活なんや~
などとぼぅっと考えつつ到着。
共演者さんに挨拶していたらあっという間に全体打ち合わせ。
流れるようにそのままADさんの「別室にケータリングのご用意ありまーす!」の号令に従い別室へ。
芸人以外の皆さんにももうずいぶん浸透している言葉だとは思うがケータリングとは楽屋に置いてあるお弁当や飲み物を指す言葉で、ありがたいことに昼食どき・夕食どきを超えてのお仕事の場合かなりの確率で用意されているものである。
そのとき売れてる人たちの雑談になんとか混ざっとかないと浮いてると思われる!などと学生以来の2.5軍マインドに気を取られていた僕は 別室 の違和感に気付けなかった。
別室に移動するとそこは”お肉屋さん”であった。
正確には技術さんによりスタジオにセットとして作られたステーキの出張屋台であったがそのクオリティはもうお店といって遜色ないレベルであった。
スタッフさんたちが我々演者に「お先にどうぞ」してくれあれよあれよと注文口に立つ。そこで更に衝撃。

「スタッフさんは注文できない演者さん限定の希少部位ありますけどどうしましょう?」

あかんあかん。調子乗ってまうて。囚人の実験とかで証明されてる調子乗ってもしょうがないヤツやん。どうしましょうってなんやねん。聞かずに焼いとけ。大阪から来たおのぼり貧乏は絶対それいくやろ!!

この辺の時には僕はテンションは上がっていたもののもうなんかちょっと引いていた。
「テレビってお金あるんやな~」
くらいから
「無駄遣いでは…?」
くらいに。

お弁当や水、打ち合わせに呼ぶための新幹線代ホテル代は”必要”だろう。
パフォーマンスに直結する。
ただ出張ステーキ(演者限定部位あり)は完全に”贅沢品”の域に入ってはいないだろうか。もちろん僕以外の出演者さんが豪華であったからという見方もできるだろうがファイナリストとはいえ 芸能界の大御所 というわけでもない。
普通にちょっといいとこのお弁当出しときゃ文句をいうような人たちではないのだからこの扱いはすこし過度な気がしていた。

しかしこのケータリングの時間を終えて各々が収録で話す練習をブツブツとしだしたころ、僕はその意味が徐々に分かってきた。

あんなにしてもらったのにミスっていいわけがない

この思いに駆られるのである。
もちろんもとより僕にとっては芸人人生最大の正念場であったし最大のシュミレーションをもって臨んでいるのだが、もしあの待遇がなかったら100回の練習は99回目で終わっていたかもしれない。
戻ってからの演者たちはあと10分楽屋トークに花を咲かせていたかもしれない。
もちろんこの過ごし方が悪いというわけではない。
ただ待遇が、腹の中のケータリングが、「その過ごし方が本当にベストなの?」と問いかけてくる。
これに意味があるのだ。そう合点がいった。

これはあくまで売れてない人間がたった一度の経験で書いているので全くすっきょんとうなことを書いているかもしれない。
単に偉い人が会社の経費で美味いもん食うたろ うひょーな可能性もあるが似たような感覚は僕の周りの人間も持っている。

とあるライブを主催している人と話していた際コロナの影響で座席数が制限され、満席になってようやくちょっとの利益、8割の入りなら赤字という状況があった。
その人は出演芸人にお客さんの入りに関わらず定額のギャラを払っており、見かねた僕は「状況が状況ですし落ち着くまではギャラさげてもいいんじゃないですか?芸人誰もそれで文句言わないですよ!」と問うてみた。
答えは絶対に下げないとの事。
理由は

芸人ってアホやから下げたら荒い状態の新ネタとかおろしよるやろ!?このライブでは勝負ネタやってほしいねん!ギャラを下げちゃうとここまでやってきたライブのブランドイメージが変わってまう!やから下げずにコロナあけるまでは赤も覚悟やねん!(森田がだいぶ雑に要約しているので実際はもっと丁寧で優しい)

これには驚いた。採算度外視のクオリティのためのギャラ。
そこには”必要”じゃないからこその言葉にしない思いがある。

ここまでずいぶん実生活とかけ離れた話で進めてしまったが、一見無駄に見えても思いを伝えるために使うお金というのは身の回りにも多くあると思う。
例えばすごく面白いアニメに出会ったとき、こんなの無料で見れて申し訳ない!とグッズを買ったりすることもそうだ。
生活で使える必要なものを買う感覚の時もあるが「お金を落としたい!」とお金を使う事に重点を置いて買うこともあるだろう。
あとNOTEのサポートとかね😉

そしてこの感覚を大事に、商品に必要経費以上のお金を払える人、おもしろいと思う芸人仲間・すごいと思えるコンテンツ にお金を払える人間になりたいものである。
まずはその余裕を持たねば。
みんなの単独を映像をもらって観るのじゃなくお金を払って観たい。
好きなアニメの2期に繋がるグッズ購入がしたい。

早く売れたいものです。


今回はケータリングにスポットを当てたので流れるように書いてしまいましたが東京収録は刺激的でめちゃくちゃ勉強になったし本当はめちゃくちゃ自慢したい経験だったので最後に自慢をひとつだけ。








別収録の佐藤隆太の隣でおしっこしたよーーー✌🏻✌🏻!!!!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?