フランツ・カフカ『断食芸人』を読んで


(青空文庫で無料で読めます!)
私は体調管理のために働きながら自炊を続けています。
自炊に関するZINEやネットに投稿したりすると、様々な人とお話しすることができて嬉しい限りです。仕事以外で話せる環境があるのは、とても楽しいです。それがきっかけになって、ここ数年は、あえて“食”にまつわる本を選んで読んでいます。
たまにはフィクションもバリバリ味わいたいなあと思ったのがフランツ・カフカ。
タイトル見て、よっしゃ断食きた! 食の分野の書籍でOKじゃね? というノリで読んでいきました。

特に、この部分が気になりましたね。決して男は芸人になりたくて、賞賛を浴びまくりたくて、食べなかったのではない。“そうするしかなかった”といった場面です。

「でも、みんなは感心してはいけないんだ」と、断食芸人はいった。
「そうか、それなら感心しないよ」と、監督はいった。「なぜ感心してはいけないんだね?」
「おれは断食しないではいられないだけの話だからだ。ほかのことはおれにはできないのだ」

フランツ・カフカ『断食芸人』

ほかのことはおれにはできない…
ほかのことはおれにはできない…

どうしてもカフカの残した言葉が突き刺さってしまい、コツンコツンと言葉が体当たりしてきます。
心地よいネガティブに浸って傷を癒している自分がいるというか、ネガティブユートピアっていうか…

私は体調管理のために、自分のための料理を続けています。「よく自炊できるよね」と言われても、「これしかできなかったんです」と返すしかありません。
腸の調子がすぐ異常をきたすので学校の昼休みがしんどかった(陰キャでランチタイムぼっちだったことも要因のひとつですが…)。働く会社員の外食中心の生活が難しかった。みなさん外食をとることに、全く抵抗がない。私はみんなと一緒の外食をとることに、とても恐怖を覚えているのに…食べることが怖い、ということを共感してもらえなかった。共通の話題に”おいしいごはん”の話をする。疲れた体は食を欲する。我慢できなくて”おいしいごはん”を食べにいったあとに、腸の調子が悪くて急いで家に帰ることもありました。おなかが空きすぎても困るので、買ったバナナの房をお昼休憩の時間に何本も何本も詰め込んだことがあった。ネットでバナナは低FODMAP食と指定されていたが、他の食材は高FODMAP食だから買えなかった。
しかし栄養満点のバナナでも、3本、4本、5本…と増えていくと気持ち悪くなってきた。オフィスワークは精神も身体ももたない、そう感じた私は仕事を辞めた。
食べなくて生活できるのであれば、食べたくなかった。でも食べないと死んじゃうと怒られたから、食べるしかなかった。

…といった過去の自分に、食を拒絶した経験が山ほどありますので、多少は主人公に投影してしまいましたね。国や県や地域によって”共通の食文化”というやつがありますけど、もし目の前の人と同じ食事がとれなかったとき「どうした!大丈夫か!! 」と思われますからね。心配してもらっているのがわかってしまうので、どう伝えたらいいか悩んでしまいますね。

他の人と同じように食べない、ということは奇異に映ります。作中の主人公はサーカスの見せ物として成り立っている(昔のヨーロッパで実際にあったらしい)わけなので、食べないことは”変わっている””おかしい”という対象物になってしまうのでしょう。

観客の移ろいやすい雰囲気も生々しいです。

断食の最大期間を興行主は四十日間ときめていて、それ以上は一度も断食させなかったし、大都会でもさせなかった。しかももっともな理由からだった。およそ四十日ぐらいのあいだは、経験からいうとだんだんと高まっていく宣伝によって一つの町の関心をいよいよそそることができたが、それからは観衆も受けつけなくなり、客の数がぐんと減るということがはっきりみとめられるのだった。

フランツ・カフカ『断食芸人』

どんな奇異なものでも40日たてば飽きてしまう。断食芸人が断食記録を抜きたくても、周りが飽きるから止められるというシーン。

飽きっぽい群衆の心理は、国を超えても共通みたいです。いくら奇異なものでも、やがては慣れていく。それってアレでしょ、みんな知ってるよ普通じゃん、みたいな。注目されないことや興味を失われていく、ということは救いなのか、絶望なのか、人それぞれな気がします。いまでいうと「トレンド」というやつですよね。私はトレンドを気にしていませんが、小説を書くカフカはトレンドが気になってしまっていたのかな?? と勘ぐってしまいますね。わかりませんけど。
断食芸人はというと、断食することで収入を得ていたので、飽きられてしまって、うわぁ困ったーとなっちゃってました……
断食芸人が他の仕事ができればいいんですけど、断食ばかりやってて、ほかのことができない。飽きられちゃったら、どうやって収入を得たらわからない。だんだん会社が倒産して失職した人みたいに思えてきます。さすがというか心理描写が古い感じがしませんね。


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