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働くことの意味を知った日の恥ずかしい思い出

noteのお題に目を通していると…

#一人じゃ気づけなかったこと

こんなお題があった。

いやいやいや、noteさんよ。なかなか恥ずかしいお題を出してくるじゃないか。SMBCグループさんとのタイアップ企画らしいけど。いやいや、ほんとやってくれるわ。

このお題を見て、すぐさま頭に浮かんだエピソードがある。しかし、これを語るにはちょっとばかり恥ずかしい。なぜなら、若い頃の未熟な自分を晒すことになるからだ。

でも、ぼくはこの経験が今の自分を作ってると思ってるし、この経験を誰かが読むことで何かの参考になるかもしれない。それならば書こう、恥をしのんで。そんな気持ちで書きます。

***

これはぼくが24歳のとき、社会人3年目の話。

地方のドラッグストアに就職したぼくは、1年10ヶ月で店長になった。これはかなり早いスピードである。

我の強かったぼくは、何かと不満があるたびに本部に「おかしくないですか?」「こうしたら良くないですか?」と、提案という名の暴言を吐いていたんだけど、「そんなに言うならお前がやってみろよ」という今では信じられない理由で店長になった。2000年初期の地方の中小企業は意外とそんなもんである。

なにわともあれ、若くして店長になったぼくは実績を作りたくて必死だった。若いと何かと舐められるというか、都合がよくないんですよね。なので、黙らせる実績がほしかった。

当時のドラッグストアには(今もあるのかもしれないけど)指定された商品を期間内でどれだけ売れるか?を競うキャンペーンがあった。もちろん、指定される商品は「自信を持って勧められるしっかりしたもの」である。売ることでお客さんからの信頼も得られる。

このキャンペーンで1位をとれば実績になる!そんな目論見でぼくはキャンペーンに全力を注いだ。

売り場を作ったり、トークスクリプトを作ったり。こういうとき1番大事なのは打席にどれだけ立てるか?である。いかに優れたトークでも、不要な人に売るわけにはいかない。なので、まずは必要としてる人を見つけることが重要で、そのためにはどれだけお客さんと話せるか?である。

もちろん、話しかけられることを嫌うお客さんもいるので、自然に話しかけれるように売り場も工夫する。日々、考えに考えアップデートを重ね、完璧な売場とトークスクリプトを完成させ、ぼくは「これが必要だな」という人を確実に見つけ、確実に商品の案内できるスキルを身につけた。

余談だが、大事なのは「お客さんの逃げ道」をしっかり用意することである。そう、絶対に売ろう!だと、お客さんから見て不要だったとき、変な空気になるのだ。ぼくは基本的に小心者なのでその空気が怖い。怖いので、すぐに思いつく。あ、そうか。ダメなときになんて言うかを用意しておけばいいのか、と。これさえあれば、変な空気にならずにお客さんにガンガン話しかけれて、嫌な気持ちにもならない。実績が欲しいがあまり、ぼくはそんな完璧な販売方法を作り上げたというわけだ。

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が、しかし!

どれだけがんばってもキャンペーンで2位までしかいかないのだ。いや、新人店長なので任されてるのは売上希望も客数も小さい店だった。なので、2位でもすごいよってみんなは言う。

けど、それじゃダメなんだ!「2位じゃダメなんでしょうか?」と言われたとしても、僕の答えは「1位になりたい!」これだけだった。というか蓮舫があのセリフを言ってニュースになったとき、「あぁ、ぼくも2位じゃダメだってときあったな…」と懐かしくなったのは全然関係ない話。

***

ここからなんですね、ぼくの恥は。

完璧な売り場と完璧なトークスクリプト。これを確立させて、自分で実践すると高確率で必要な人に違和感なく届けれるのに…なんで1位になれないのか。

答えはひとつしかない。そう、みんながやらないからだ!

未熟なぼくはこの結論に至った。そして、スタッフが指示通りに接客してるかを見張るようになった。

見張ってると、すぐにわかる。みんながそれほど積極的に接客していないことを。ぼくはそれを見つけると、逐一ダメ出しをした。

「今、売り場で足を止めてたお客さんいましたよね?なんで話しかけなかったんですか?」

「……」

「黙ってちゃわかりませんよ。いいですか?次は必ずお願いしますね」

「……はい」

何度もこんなやりとりを繰り返した。けど、一向に成果は上がってこない。なんでだ!ぼくは毎日イライラしていた。なんでお客さんのためにも、店のためにも完璧なトークスクリプトを作ってるのに、みんなやらないんだ!

***

ある日、出勤すると人事の人が店舗にいた。

「あれ?」と一瞬思ったけど、なんとなく察しはついた。スタッフがぐるりと輪をかいて、ぼくを取り囲んでる。そして人事の人は口を開いた。

「本部に苦情が入っているんだけど…」

言い終わらないうちに、あるスタッフさんが食い気味にこう言った。

「わたし、横山店長とは働きたくないです」

目の前が真っ暗になった。そうか、ぼくはこんなにも嫌われてるんだな、と。

面と向かって嫌悪を口にされ、人事という権力も居合わせている。さすがのぼくも震えた。怖かったし、情けなくて恥ずかしかった。

けど、ここで黙ったら負けだ。

なんでこうなったんだっけ?ぼくはぼくなりに信念があった。実績がほしくてはじめたキャンペーンだったけど、自分が考えたトークスクリプトで接客するとお客さんが喜んでくれることがたくさんあった。いつしか、これをみんなでやればすごくいい店になるんじゃないかってワクワクしてた。けど、そう思ってるのは自分だけで、みんなはそうは思ってなくて…だから無理やりやらせようとして、結果こうなった。ぼくは、自分の想いや意図を何ひとつ伝えてなかった。

何か言わなければならない。「違うんです、ぼくはこんなにもがんばっていい店にしようとしてたんです」いや、違う。そうじゃない。今、ぼくが言うべきことはそれじゃない。ガクガク震えながらも口から出た言葉は、これだった。

「すいませんでした、ぼくが未熟でした」

その後は人事の人と話し、その日はそれで家に帰った。次に出勤すると、「横山店長と一緒に働きたくない」と言ったスタッフさんは辞めることになったと聞いた。そうか、ぼくのせいで職場を奪ってしまったんだな、と目の前が真っ白になった。

残ったスタッフさん達には改めて謝罪の意を伝え、ぼくがやりたかったことも丁寧に伝えた。みんな怒ってたのか許してくれたのかはわからないけど、「まぁ横山店長も若いけぇねぇ」と苦笑いしてくれてた。そこでこんな話を聞いた。


「私たちは、仕事に給料だけを求めとるんじゃないけぇねぇ。正直、家では主婦としてご飯作ったり掃除したり…それが当たり前みたいになって感謝されることが少なくなってる。けど、働きにくるとお客さんや店長(前の)から感謝されることもある。それが給料もらうより嬉しかったりすることもあるんよ」


ぼくは、ひとりでは気づかなかった大事なことを知った。そうか、ぼくに働く理由があったように、みんなにもそれぞれ働く理由があったんだ。

店長としてマネジメントするからには、みんなの理想と会社の理想が一致するマネジメントをしなければならないんだ。働くって…そういうことなんだな。

この視点を持つことで、少なからず成長した気がする。次の店ではキャンペーンで1位をとることができた。もちろんスタッフさんからの不満など出ていない。むしろ、充実感を感じるとさえ言われた。全ては「働く意味」を尊重できるようになったからだと思う。これは今でもぼくの財産である。

***

最後に。

ぼくに「横山店長と働きたくない」と言って辞めたパートさんだが、最後に制服を返しにきたとき、ぼくはたまたま休憩室にいて顔を合わせた。

めちゃくちゃ気まずかったけど…まずはもう一度謝った。

すると、ほかのスタッフさんからぼくが反省してること、それを活かしてがんばってまた働いてることを聞いてると言ってくれた。正直、もう怒ってないと。

店長も若いんだから、失敗もあるだろうと。わたしもキツいこと言ってごめんなさい、と。

最後に笑顔で話せてよかった。それなら辞めなくてもいいんじゃ…と思ったが、どうやらもう次の仕事が決まってるらしい。

ハキハキと働くひとだったので、次の職場でも頼りになる存在になってくれたらいいな、と思ってそう言いかけて…やっぱりもう一度「本当にすいませんでした」と謝って「もう、謝らないでくださいよ(笑)」と言われて見送った。

ほんと恥ずかしい話だけど、 #一人じゃ気づけなかったこと のタグが思い出させてしまったんだから仕方ない。

***

これ以降、ぼくは人間関係で失敗することはなくなった…なんてことは言えません。

まだまだ全然失敗します。わかってるつもりでも、つい自分の我を通そうとして、相手を尊重できてないことはある。

ただ、その度にこの時の経験を思い出します。

一人じゃ気づかなかったこと。

それは、間違ったと感じたら正面から正々堂々と謝ること。これなんですね。

実はこの時も本当はわかってた。店の雰囲気もどんどん悪くなるし、これじゃうまくいかないんだろうなぁって。けど、土壇場まで自分から「間違ってました」が言えなかったわけで。

ただ、最後の最後にはキチンと謝れてよかった。それを受け入れてくるスタッフさん達でよかった。いい経験をしたな、としみじみ思う。

これがぼくの一人じゃ気づかなかったことです。誰かの何かの参考になれば24歳のぼくが成仏します。読んでくれてありがとうございました。

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