最高にひっくり返った内臓(2)

前置きが長くなったが東京ドームの話。

別のpostで、リンリンはこれが最後のステージになる(する)つもりで臨んだのではないかと書いたが、モモコもそのつもりだったのではないかと思う。彼女の本質的なフィールドは音楽や踊りではないし、仮にもうちょっと歌ってみたいと思う気があったとしても(あったのかなあ)、ソロでは難しいことは自分でもわかっていたと思うし、BiSH以外の場所で歌いたいとは思っていなかったのではないかと思う。わかんないけど。

モモコのパフォーマンスに惹かれるのは、圧倒的な歌唱力とかテクニックではなく、必死さだと思う。それが如実に表れるのが「PAiNT it BLACK」の「約束を守りたいんだっ」と「FOR HiM」の「ひっくり返りそう内臓」だ。

「世界で一番綺麗なBiSH」の「内臓」はそんなモモコの真骨頂が出た。出たのだが。

オーケストレーションに包まれたこの日の「FOR HiM」はほんと全メンバーが持ち味を発揮した名演だったと思う。この日のチケットが取れなかったこともあり、この映像は少なく見積もって50回は見たはずだ。
「内臓」も感動したし、絶賛された。ただ、どこかもやもやした。

きれい過ぎたように思ったのだ。

この日のアレンジだと、この表現で正解だったとは思う。調和させるならこの歌い方が正解だ。裏声を使ってテクニカルに置きに行ったその歌い方は、あの口パク疑惑だった女の子の8年間の成長を見せつけるものではあった。
ただ、自分が惚れたのは、感情をぶちまけるモモコグミカンパニーだ。正解なんだけどそうじゃない、モモコの魂を浴びたいと思ったのだ。たぶんこの人の生き様は、こんなきれいにまとまったものではなく、もっと泥臭くて、いつもうまくいかなくて、それでも喰らいついていったボロボロの美しさではなかったか。

最後の日。
名曲揃いの中、セトリに入らないかなと思っていた「FOR HiM」が始まる。
イントロの時点で涙したが、この日のバンドスタイルのアレンジで、「内臓」がどう結実するのか気になり始めた。最後のステージ、最後の「内臓」。どうするモモコ。

そして…

ひどい歌唱だった。汚い歌声だった。
特にピッチがズレズレ。あれだけ上手くなってたモモコは、最後の最後に外した。リズムも怪しかった。横のピッチ、縦のリズムとも合わないとなると音楽的にはまあまあ致命的である
(20230723追記:Huluの配信見たらリズムは違和感ありませんでした。たぶん聴いてる自分がドキドキし過ぎて拍がまともにとれずに聴いてたんだと思う)
その代わり、過去イチ、腹の底の底から絞り出た、まさにひっくり返った内臓から生み出されたかのような「内臓」だった。
モモコに、BiSHに惹かれた必死さがそこにはあった。

上手いだけの歌手なら腐るほどいる。自分がBiSHに惹かれたのはそんなきれいさではなく、その生き様だった。うまくいかない現実にもがき、苦しみ、それでも立ち向かって、ぶち壊して進んでいく。劣等感に苛まれながらも諦めなかった8年間の結実を不器用に誠実にぶちまけたその絶唱は、最高に汚くて、最高にかっこよかった。

円盤になるときにいろんな修正が入るとは思う。が、ここだけは、この魂だけは、修正せずに入れてほしい。この絶唱こそが、不格好に真摯に走り続けたBiSHの象徴だと思うのだ。

モモコさんにもし会えたら、尋ねてみたいことがある。BiSHのモモコグミカンパニーは歌うことや踊ることを楽しめましたか?と。あなたの歌や踊りに勇気をもらった人がけっこういますよって。あまのじゃくはどう答えるのだろう。

最後のメッセージも含めて、BiSHのモモコグミカンパニーとしてもうこれ以上やりきれることがないほどやりきったこと、すなわち終焉を迎える決意と覚悟を表明されたように思ったし、それはもうこの人をステージで見る機会は当分なくなるんだろうなという喪失感を感じることでもあった。でも幸い、かたちは変われど、たまには姿を現すことを選んでくれたようだ。これからも、その聡明な文章と、ポンコツな頑張り屋さんぶりを応援したいと思うし、励まされたいと思う。

最後のMC。涙腺が決壊しました。


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