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ビーチサイドマガジン

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鎌倉を拠点に活動をしているデザイナーが、ビーチライフから得られた経験や感覚を綴ります。
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嵐のち晴れ

昼になると予報どおり 昨晩から吹き荒れた雨がぱたっと止んだ。 強風は吹き続けていて まともに歩くことはできないけれども 海岸の景色は一瞬で明転して まぶしく輝きはじめた。 外に出てみると 観光客が風にもめげずに海沿いの道を往来していた。 海はというと まだ波乗りができるという状況では当然ない。 夜には風の音はおさまって 代わりに波が割れる音が轟いていた。 僕は月に照らされる波を眺めながら家へ帰った。 翌日は土曜日だった。 テレビのニュースが桜の開花時期をしきりに話してい

嵐の中を往く

夜遅くに仕事場をでたときには 既に南風が強く吹いていた。 低気圧が東の海上を通りすぎようとしていた。 海岸は、歩くことすら怖いくらいに 強いオンショアが吹き荒れている。 朝になって 強い雨が吹き付けたり弱まったり また急に雨が強くなってが続くなか 僕は雨雲レーダーを睨みつけながら 濃い雨雲の間隙をねらって 自転車を走らせた。 首尾よく雨雲は薄く それほど気にならない程度の雨だったけれども 南風は地鳴りのような音をごうごうと鳴らしながら好き放題に暴れていた。 いつもは海沿い

海の春

オンショアの日が続いている。 鼻と喉と頭が重い。 海の上をウィンドサーファーが行ったり来たりしているけれども サーファーはほとんどいない。 いつものビーチには一人もいない。 今日もオンショアだ。 でもそれほど強くはない。 波をしばらくのあいだ観察する。 すこし走れそうに見えた。 晴れた空にトンビが数匹。 暑いので上着は脱いだ。 風が変わる夕方にはいろうかとも考えたけれども やるなら今がいいと思った。 年度末に向けて仕事が山積みだ。 さっさと支度をしてビーチへ降りる。 いつも

unleash

潮が引いてきて うねりがはっきりと見えてきた。 ウェットスーツに着替えてビーチに降りる。 キリっと降り注ぐ陽光。 温かくなった砂。 きらきらと輝くショアブレイクをかき分けるようにして 海の中へ入っていく。 冷たい水はオフショアのおかげで透明で ゆらめきの底にはっきりとリーフが見える。 沖からうねりが近づいてきた。 うねりに乗るタイミングを計りながらパドルをする。 波に乗る。 18日ぶりのテイクオフ。 体が重い。 うねりが大きくなってくる。 繰り返し波に乗ってまたパドルして。

いつもの隣

最後にトランクスで入ったのはいつだったか 弱い陽射し はっきりしないうねり ウェットスーツに着替えるに至らない静かな心 気づけば潮気のないまま10日が経った 晴れた日 今日もほとんどないうねり 暖かな午前 10日ぶりのウェットに袖を通して 裸足でビーチへ向かう うねりはほとんどなく いつものポイントではテイクオフができない サーフボードを抱えたまま普段は行かないポイントを目指す 荒いアスファルトの路面が裸足に痛い 平滑を探しながら歩いていく 目的地に

SWELL

そろそろ台風からのうねりが届く 朝からすこしそわそわしている タイドグラフを見る 昼に干潮だ 風は 昼までゆるいオフショア 午後はゆるいオンショア 半袖だと少し肌寒い 仕事をしながら 1時間おきに窓の外を見る たまに 外に出て海を観察する 太陽が出てきた プラス1ポイント セット間隔が長い マイナス1ポイント 人が多い マイナス1ポイント もう少し仕事をしよう 落ち着かない気持ちに言い聞かせるように 昼を越した また外に出る 思った通り 人が減っていた うねりも強くなってきた

スコール

今日も蒸し暑い夏の日。 おもむろに吹き込む強い風。 明らかに異質な空気。 不穏の気配。 空を見上げると案の定 忍び寄る黒い雲。 雲から微かに届く低い太鼓の音。 ひと粒。 ふた粒。 顔に落ちる水滴。 その一瞬後には 大粒の雨。 大粒の雨はほどなく容赦なく 無防備な人々の頭の上に 灼熱の砂の上に 海の水面の上に 蹂躙しつくして あっさりと過ぎ去る。 和らいだ灼熱。 微かに残る爽風。 陽射しだけが何もなかったかのように。 そしてふと誰かが気付く。 空に虹。

花火

日がすっかり沈んでから 砂浜に降りると もう、ちらほらと人がいた。 国道を走る車のヘッドライトの光が断続的に砂浜を照らす。 光が届かない場所まで歩いて行って 西の方を向いて 砂の上に座る。 時間を確認する。 あと5分。 肩の力を抜いてゆるやかな風を感じる。 おもむろに 西の海の上から花火が打ちあがった。 花火はしばらく続いて 始まってからきっかり3分後 きらびやかに終わった。 空に残った煙がゆっくりと流れていく。 今年は3分の花火が3回。 1回目は天気のせいで中止に

斜陽

午前の海が好きだ。 午後の海はすこし寂しく感じてしまう。 午前のしゃきっと新鮮な海が好きだ。 午後のまったりと靄のかかった空気が 僕の気持ちの動きを重くする。 8月の終わり。 夏は続いている。 陸は相変わらず蒸し暑く 僕はまだトランクス1枚で波乗りをしていて 海の中は溜め息が出てしまうくらい気持ちがいい。 けれども 8月の終わりは午後のよう。 期待も熱も過ぎ去った。 街からも。 僕の心からも。

夏道

午前8時30分。 自転車にまたがって海の方へ。 深い緑のトンネル。 まだ咲き続けている紫陽花越しに 弧を描くビーチを見おろす。 海沿いの道に出る。 夏の陽射し。 脱いだシャツを鞄につっこむ。 全身に潮風を感じる。 まっすぐの道を行く。 左手を流れていく柵と緑。 その向こうに碧い海。 道の先に広がる蒼い空。 橙のカンナの花。 赤い梯梧(でいご)の花。 切り通しで縁取られた海の景色。 どこまでも続く夏で全身が充ちる。 海へ飛び込む。 じゅっ 湯気を立てるようにして一

ひとりめ

土砂降りの雨があがって すこし雲が薄くなってきた 海を見る 誰もいない海にうねりが届いてる ひとりめのパドルアウト 海風でまとまりのない波は どこで割れるか読みづらい 誰にも邪魔されずに 海と向き合う 波のリズムと同期する 陽が差してきた 増えてくるサーファー 交わす挨拶 それでも一番波が見えているのは自分だ 絶え間なく波に乗り続けて 疲れ果てて 大きめの波に乗って海からあがった サーファーが続々とやってくる 僕はもう満足している もう幸

Sunset Surf

今日はもう波がないと思っていた。 用事があって外に出たら、波が見えた。 たまに、でも、遊べそう。 用事はあとだ。 回れ右。 サーフボードを抱えて裸足のまま行く。 すこし緩んだ暑さ。 陽が傾いているから、もうビーチサンダルは要らない。 キャップもTシャツもなしだ。 海風が吹いている。 でも強すぎるほどではない。 ビーチに降りる。 砂は灼熱の名残のやさしい温もり。 すこし荒々しいショアブレイクに立ち向かう。 タイミングを見てパドルアウトする。 波をくぐって沖へ

夕浜

日が沈むころに外に出る 風が気持ち良い 砂浜に降りたら裸足になる ビーチサンダルは階段のふもとに置いていく 温もりが残る砂浜が足の裏に気持ちいい 夕焼けにカメラを向けて何枚かシャッターを切る 潮があげて割れづらくなって それでもまだ遊べる波に 数名のサーファー 人のいない方へ歩いていって 笛を吹く 明日は祭り 砂の上を歩きながら、笛を吹く

素晴らしい瞬間はいつも話の中

朝は波の気配すらなかった。 昼ちかくにふと外を見てみると サーファーの影がちらりと見えた。 波を見に表に出てみると ちょうど入ってきた波にサーファーが乗っていた。 板を抱えて急いでビーチへ行く。 ポイントにいるサーファーはひとりだけで さっき見た波も見えない。 かろうじて乗れるかどうか。 と思っていたら ふと波がやってきた。 結構いい。 快晴。 オフショアで水も透き通っている。 貸切。 こんな時 この瞬間を共有したいと いつも思うのだけれども 叶わない。 素