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【忘備録】防衛産業概況


防衛産業概況

 2023年度の防衛関係費 (当初予算) は6兆6,001億円、前年比27.4%増加した (SACOと米軍再編関係経費等を含めると6兆8,219億円 (前年度比26.3%増))。過去10年間の平均CAGRが1.1%であることを踏まえると異例の伸びとなった。
 2012年までは厳しさを増す財政事情に配慮して長らく減少を続けてきたが、北朝鮮の核・ミサイル開発、中国による海洋進出および台湾への軍事侵攻懸念、ロシアのウクライナ侵攻など、近年の安全保障環境の不安定化を受けて11年連続で増額され、9年連続で過去最高を更新した。

防衛関係費の推移

 2022年12月には俗に言う防衛三文書 (国家安全保障戦略、国家防衛戦略 (旧防衛大綱)、防衛力整備計画) が閣議決定され、敵のミサイル発射拠点などを攻撃する「反撃能力」の保有に踏み切ることを容認し、戦後の安保政策を大きく転換する内容となった。
 これに伴い、射程の長い国産ミサイルの開発を進めるとともに、米国製巡航ミサイル「トマホーク」などの導入を進める。また、戦闘を継続するために必要な弾薬や部品などの調達費を倍増させる。これを受けて防衛費は大幅に増額。「防衛力整備計画」において2023~27年度の5年間で総額43兆円の予算規模が示され、前計画の1.5倍の規模となった。
 その初年度である2023 年度は、各費目ごとの増額は以下のとおりである。

  • 装備品の維持整備費: 20,355億円 (前年11,424億円 (+78.2%))

  • 弾薬の取得: 8,283億円 (前年2,480億円 (+234.0%))

  • 装備品の研究開発: 8,968 億円 (前年2,911億円 (+208.1%))

 さらに研究開発や公共インフラ整備にかかる費用を含めた防衛関連費については、歴代の目安である対GDP比率1%枠を撤廃し、2027年度に2%を目指す方針を決定。「令和5年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」(令和4年12月22日閣議了解)で示された令和4年度実績見込みにおけるGDP560.2兆円を基に計算すると、その2%は11兆円規模となることが推計できる。これは、専守防衛を維持するとしながらも、米国、中国、ロシアに次ぐ世界有数の規模となり、防衛関連への支出は一過性の特需ではないことが予想できる。また、「防衛装備移転三原則」を緩和し、攻撃型装備であっても輸出可能になったことにも触れておきたい。

 以上が概況となるが、具体的な国内企業への恩恵についてみてみたい。国内防衛産業にとっては、防衛費の大幅な増額や「防衛装備移転三原則」の緩和による米国や友好国との国際共同開発・生産に参画機会が増加することは追い風となる可能性はある。しかし、これまでの経緯をみると、防衛技術の高度化を背景に防衛費の増額分の多くが米国製の装備品の購入に充てられていること、また武器輸出が進まないことなどから、恩恵はそれほど大きくなかった。更に、日本の防衛事業は市場がほぼほぼ国内に限定されており、かつ参入企業の多いため採算性が低く、技術開発に多くの時間と資金を要する割にはビジネスとしてのうまみを欠く。このため参入企業の中には、防衛事業を「技術力を磨く場」あるいは「景気変動のリスクヘッジ」として位置づける企業もあり、主要な利益源とみなしている企業は少ない。
 こうした状況を反映し、防衛産業から全面あるいは一部撤退する企業が増えている。例えば、油圧機器大手のカヤバ (7242) が2022年2月に航空機器事業からの段階的な撤退を決定。また、横河電機 (6841) は2021年10月、航空機用計器事業を沖電気工業 (6703) に譲渡するなど、収益性の低さから採算を優先せざるをえなくなる企業が相次いでいる。
 しかしながら、直近では防衛産業全体に変化の兆しが見え始めており、防衛省は国産整備品の強化、サプライチェーンの強靱化、民生先端技術の取り込みを積極的に行おうとしていることが様々な防衛関係資料から読み解ける。

 なお、装備品の調達、研究開発、輸出、契約などは、防衛省の防衛装備庁が一元的に行っており、防衛装備庁は調達コストを抑えるとともに、防衛装備移転三原則に基づき輸出や共同開発を推進するなどの役割を担っている。

中央調達の推移
2023年度調達見込み

 また、今年においては部品不足を解消して保有装備品の可動数を向上するため、装備品の維持整備には前年度比1.8倍の2兆355億が計上されている。

主要装備品などの維持整備経費の推移

2022年度 中央調達契約相手方別契約高順位

$$
\begin{array}{|c|c|c|c|c|l|} \hline
順位 & 契約相手方 & 件数 & 金額 & 年間調達額に対する比率 & 主な調達品目 \\ \hline
1& 三菱重工業 & 121& 3,652& 21.2\% & 次期戦闘機(その3)(1)、護衛艦(3900トン型) \\
2& 川崎重工業 & 104& 1,692& 9.8\% & 潜水艦(8133)、スタンド・オフ電子戦機(その3) \\
3& 日本電気& 185& 944 & 5.5\% &宇宙状況把握レーザー測距装置、陸自業務システム基盤借上(04換装)\\
4& 三菱電機& 84& 752& 4.4\% & 03式中距離地対空誘導弾(改善型)、多機能レーダOPY-2\\
5& 富士通& 103& 652& 3.8\% & 03式中距離地対空誘導弾(改善型)、多機能レーダOPY-2\\
6& 東芝インフラシステムズ& 48 & 363 & 2.1\% & 電波監視装置3号機C(その1)、機上電波測定装置構成品\\
7& IHI& 19 & 291 & 1.7\% & 次期戦闘機(その3)(2)次期戦闘機用エンジンシステム(その2)、T-4用エンジン・オーバーホール(F3-IHI30B)\\
8& 小松製作所&  24 & 274 & 1.6\% & 120mmM、JM1りゅう弾、信管なし、120mmTKG、JM12A1対戦車りゅう弾\\
9& 日本製鋼所& 14& 254 & 1.5\% & 将来レールガン(その1)の研究試作、62口径5インチ砲\\
10& 藤倉航装& 45 & 249 & 1.4\% & F-15緊急射出装置用部品(国産・その3)、T-4緊急射出装置用部品(国産・その4)(初度費)\\
11& 沖電気工業 & 44& 224& 1.3\% & MSIIクローズ系システム用器材の借上(中枢拠点)(04延長)、ソーナー装置(ZQQ-8B)\\
12& 日立製作所 & 69& 218 & 1.3\% & 対機雷戦用ソーナーシステムOQQ-11-1、海洋情報処理サブシステム用器材(借上)(04換装)\\
13& 出光興産 & 79 & 185 & 1.1\% & 航空タービン燃料Jet A-1\\
14& 中川物産& 119 & 168 & 1.0\% & 軽油2号(艦船用)(免税)\\
15& ダイキン工業& 39 & 163 & 0.9\% & 00式120mm戦車砲用演習弾\\
16& 日本飛行機 & 9 & 137 & 0.8\% & C-130Rの機体維持等に係る包括契約、P-3C機体定期特別修理\\
17& ジーエス・ユアサテクノロジー & 7 & 131 & 0.8\% & 潜水艦用主蓄電池(SLH)(04SS用)、潜水艦用主蓄電池(SCG)\\
18& 日本無線 & 27 & 124 & 0.7\% & 高出力マイクロ波照射装置の研究試作、レーダOPS-28G\\
19& ジャパンマリンユナイテッド & 2 & 119 & 0.7\% & 掃海艦(208)、新型FFMに係る企画提案\\
20& 日立国際電気 & 43 & 119 & 0.7\% & 無線状況付与実験装置の研究試作、無線装置NORC-50F\\ \hline
\end{array}
$$

2022年度の主要調達品目は以下である。

関連銘柄

7011 三菱重工業
7012 川崎重工業
6701 日本電気
6503 三菱電機
6702 富士通
7013 IHI
6301 小松製作所
5631 日本製鋼所
6703 沖電気工業
6501 日立製作所
5019 出光興産
6367 ダイキン工業
6674 ジーエス・ユアサ
非上場 日本無線 (日清紡ホールディングス100%)
非上場 東芝インフラシステムズ (東芝100%)
非上場 藤倉航装 (フジクラN%)
非上場 中川物産 (NA)
非上場 日本飛行機 (川崎重工業100%)
非上場 日立国際電気 (日清紡HD80%、日立製作所20%)
非上場 ジャパンマリンユナイテッド (JFE HD32%、IHI32%、今治造船30%、日立造船6%)

参考文献

防衛省「令和5年版防衛白書」 (2023/8/31)
防衛装備庁「中央調達の概況 令和4年度版」 (2022/8/2)
防衛装備庁「中央調達における令和4年度調達実績及び令和5年度調達見込」
International Trade Administration「Japan - Defense Procurement」(2024/1/12)
Stockholm International Peace Research Institute「The proposed hike in Japan’s military expenditure」(2023/2/2)
AP News「Japan Cabinet OKs record military budget to speed up strike capability, eases lethal arms export ban」(2023/12/23)
Foreign Policy「Japan's Defense Plans Are Big, Popular, and Expensive」(2023/4/10)
USNI News「Japanese Cabinet Approves Largest Ever Defense Budget」(2023/12/22)

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