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絵本探求講座第4期第2回を受講して

2023年10月1日東洋大学文学部国際文化コミュニケーション学科准教授竹内美紀先生の絵本探求講座第4期第2回を受講しました。
第2回を受講し行動したこと考えたことを振り返ってみたいと思います。


1、絵本翻訳について

講座のあと、改めて絵本を翻訳するってどういうことだろうと、図書館に行き講義資料の参考文献を集めて翻訳というキーワードで資料に目を通してみました。

『ベーシック絵本入門』pp93‐95に藤本朝巳さんの「絵本と翻訳-翻訳の現場から」というコラム、やはり石井桃子さん、瀬田貞二さん、松岡享子さんの翻訳を原書とじっくり比べて読んでみたいと思う。
『絵本をひらく』pp45-47、コラム絵本の翻訳、”cry”一言でも一筋縄ではいかない。
『絵本翻訳教室へようこそ』奥が深く難しい。。。

困ってしまって、図書館の児童文学研究の棚を見ていたら、松居直さんの『翻訳絵本と海外児童文学との出会い』が目に留まる。恐ろしいことに松居直さんの名前は聞いたことがあったが本を読んだことはなかった。翻訳絵本というワードに惹かれて手に取ってみる。
福音館書店の創立に参画され、昨年亡くなられたが日本の児童文学界になくてはならない方だった。

2、『翻訳絵本と海外児童文学との出会い』松居 直著 ミネルヴァ書房

カバーには

戦後の児童文学の変遷を背景として、「編集職人」松居直がたずさわった翻訳絵本を年代順にたどりつつ、今日のベストセラー誕生の秘密を明かす。また海外の出版関係者・団体との交流や子どもの本を取り巻く状況についても分かりやすく語る。

と書かれてある。
翻訳をキーワードに読んでみる。
松居さんが海外の絵本を出版するはじまりは石井桃子さんだったようで、石井桃子さんの翻訳について

 石井さんは、言葉づかいがとっても豊かなんです。英語を読んで、それを自分の中に取り込んで、見事に日本語で表現されていました。その言葉が、子どもたちにちゃんと入っていくように語られるのが石井さんのすばらしいところです。石井さんの日本語は、生活感と人情に富んだものでした。子どもの本は、そうした言葉で書かれなければならないのです。
 翻訳の勝負は日本語です。どんなに原書が良くても翻訳の日本語が良くなければ生きてこない。言葉というものはいろいろなものをいかすんです。私をいかしてくれているのも言葉です。P26

 石井桃子さんは読者を非常によく知っていらっしゃいました。子どもたちがどういうことに興味を持つかということを、原書を訳しながら子どもに読み聞かせをするなかで、子どもたちの反応を見て、勉強されていましたね。そして、日本語に対する本当に豊かな感覚をもっていらっしゃったと思います。 P32

 大人はどうしても、子どもに説明しようという発想になりがちですが、そういうところが石井さんにはありません。すーっと語りかけるように訳されます。p40

と書かれている。
また、瀬田貞二さんについても『ねむりひめ』の翻訳の秘話の中で

昔話の翻訳は、ただ翻訳ができるだけでなく、本質がわかっている人でないとだめです。この絵本の場合は、絵が非常に重要です。この絵の良さがわかり、日本語が抜群にできる方は瀬田さんしかいませんでした。瀬田さんは平凡社で『児童百科事典』の編集をやっていらっしゃいましたから、出版ということがわかっていらっしゃる。編集ということが本質的にわかっていらっしゃる方でした。そういう点では珍しい翻訳者です。P57

石井桃子さんや瀬田貞二さんらとの交わりが、松居直さんの「子どもと本をどうつなぐか」というテーマの原点であったようです。
絵本全体を見て、日本語の豊かさ、耳で聞く言葉、子どもの興味・反応、本質がわかること、絵を見る力などが翻訳に求められているのだと感じました。
翻訳について学ぼうと手に取った本でしたが、1961年の『100まんびきのねこ』から始まり、松居さんが編集者として直接携わった43冊の翻訳絵本の制作秘話が掲載されています。どんな絵本を出版するか、翻訳者はどなたがいいか、どんな文化を紹介するか、編集や印刷へのこだわり、海外の版権やら海外の作家、海外の編集者との交流など絵本、子どもの本への思いがあふれていました。
今まで編集者、出版社という視点がありませんでしたが翻訳というキーワードで手にした本で基本に触れたように思います。
絵本の世界は国際交流、国際平和にもつながる奥の深い世界でした。

3、『しろいうさぎとくろいうさぎ』

『しろいうさぎとくろいうさぎ』 "THE RABBITS' WEDDING"
ガース・ウィリアムズ ぶん・え まつおかきょうこ やく
1965年6月1日発行 福音館書店

アメリカでは1958年に発行されています。

今回、翻訳本で選んだ絵本です。
タイトルが、原題と邦訳で違うので翻訳に興味を持ったきっかけとなった絵本でもあります。

まず全体の絵を見渡してみました。
最初の見開きでくろいうさぎがしろいうさぎを遠くから見つめている絵でキュンとなります。
告白する場面のうさぎたちの表情が可愛すぎる。
そして、みんなで踊っているハッピーエンドです。

タイトルを”うさぎの結婚”としていないところ、
"I wish you were all mine "said the little black rabbit.
「あなたが私のものだったらいいのに」といいました。
の直訳ではなく、
そして、こころをこめて いいました。
「これからさき、いつも きみといっしょにいられますように!」

となっているところにアメリカの文化と日本の文化の違い、直接的でないやんわりとした表現の違いが出るのかなと思いました。翻訳には文化の違いも考慮しつつ子どもたちに分かりやすい言葉を選ぶ必要もあるのだと感じました。


4、最後に

松居直さんの『翻訳絵本と海外児童文学との出会い』を読み始めた時に絵本探求ゼミのメンバーでいらっしゃるかこさんの家庭文庫“チューリップ文庫”に伺う機会があり、玄関を入ったところ、松居直さんの『私のことば体験』と絵本学会2023年度Book Endが飾ってあったのです。かこさんはBook Endに『私のことば体験』の紹介文を書いていらっしゃいました。びっくりして思わずお借りして帰りました。
 
また、改めてミッキー先生の『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか』の終章を読んでみたら石井桃子さんの翻訳の魔法の秘密は幼年時代にあると書かれていました。訳者の幼年時代が影響するとすれば読み手の幼年時代の影響もあるのかなとか、大人に絵本を読んで感想をシェアすると、すっかり忘れていたのだけど、そういえばこういうこともあったというフレーズが出てくるのは、絵本の読み聞かせが子どもの五感に働きかけ潜在意識に残っていくように、大人の五感や潜在意識に働きかける力があるのかなと考えたりもしました。

今後、松居直さんの著作、石井桃子さんの『幼なものがたり』なども読んでみたいと思います。
また、今までこんなに図書館に通ったことはなく、図書館のありがたみを痛感しています。

読んだ本、読みたい本

翻訳という課題から話がそれてしまいましたがこれからも深い深い絵本探求の旅を続けていきたいと思います。

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