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リーガルテックが目指す士業向けプロンプト開発市場

【士業向けのChatGPTサポート業】

 ChatGPTは法的文書の扱いを得意とするため、法律専門家(士業)との相性も良い。弁護士の業界では、法務書類の作成補助などを行う「パラリーガル」の役割があるが、それに近いことをChatGPTに担当させることができる。

国内の士業事務所は、資格保有者が1人と数名のスタッフで行う個人経営の割合が7割近くを占めているため、ChatGPTは使い方によっては、強力なツールになる。しかし、士業の平均年齢は50~60代と高いため、彼らにChatGPTの活用アイデアや操作方法を指導するビジネスにも商機が見込める。

ChatGPT活用方法では、汎用性の高いプロンプトを士業の業務に活用していくことと、弁護士、税理士などの専門業務向けに開発されたプロンプトを活用する2種類がある。市場調査や資料の分析などは前者のプロンプトを使うが、顧客のプライバシーや機密情報を含む資料の作成などには、情報流出防止への対策がされた後者のプロントを使うのが一般的である。

前者の例として、世界の研究者や専門家の中で活用されているのが、PDFファイルの要約ができる「ChatPDF」というプロンプトだ。PDFファイルで配布された学術論文、法律文書、契約書などを、ChatPDFのフォームにドロップすると、ファイルの中身をAIが要約して、難しい専門用語の解説もしてくれる。英語の資料を日本語で要約することにも対応しているため、海外の法的文書に書かれている内容を、短時間で把握することにも役立つ。

ChatPDFの利用体系には、120ページ以内のPDFファイルを1日2つまで要約できる無料プランがあるが、月額1800円の有料プランにアップグレードすると、最大2000ページ、32MBまでのPDFファイルを無制限で要約できるようになる。

■ChatPDF
https://www.chatpdf.com/

【リーガルテックの士業プロント開発】

さらに後者のタイプで、法的な専門文書の作成支援をするAIプロンプト開発については、リーガルテック系スタートアップの有望テーマとなっている。

2017年に大手法律事務所出身の弁護士2名によって創業された株式会社LegalOn Technologiesが開発するAI契約審査プラットフォーム「LegalForce」では、ChatGPTの基本機能をベースとして、契約書に記載されている内容に、必要な条文の記載漏れが無いか、現行の法律に違反した契約になっていないか、リスクの見落としなどを、AIが瞬時にチェックすることができる。たとえば、業務委託契約の内容が下請法に違反する文言になっている場合にも、AIが問題点を指摘する。

契約書のリーガルチェックは弁護士の主要な仕事だが、頻繁に改正される法律に照らし合わせて問題点をあぶり出していく必要がある。弁護士とはいえ、人間には見落としやミスはあるため、AI修正機能を通すことにより、作業時間の短縮と訴訟リスクの軽減ができる。

■AI契約審査プラットフォーム「LegalForce」
https://legalforce-cloud.com/
■条文修正アシスト機能
https://youtu.be/FwA57Tu5oHw

LegalOn Technologies社に対しては、ソフトバンク、Sequoia China、Goldman Sachs、WiL,LLCなど、複数のベンチャーキャピタルや投資銀行が出資を行っており、総額で137億円を調達している。

契約書類におけるAIチェックの潜在項目は広く、「LegalForce」のプラットフォーム上では、従業員の賃金の取り扱いについて定めた賃金規定のAIチェックができる機能も追加されている。具体的なチェック例として、法定労働時間を超えて社員に残業させる場合には、割増賃金を支払う必要がある。割増額は法令で決まっている。それを下回る時間外手当を決めている賃金規定の文書は、AIがアラートを出す仕様になっている。

このようなチェック項目の掘り起こしは、就業規則全体に当てはまり、社会保険労務士の業務とも重なってくる。法令では、常時10名以上の従業員を使用している企業は、就業規則を作成して、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられている。就業規則の作成は、社労士の独占業務となっており、弁護士事務所とは別の市場となるため、AIリーガルテックが士業向けに開拓できる顧客層は広いのだ。

AIの普及は、労働者の仕事を奪うという意見もあるが、自動化できる業務が増えることで解雇される労働者は、海外でも今のことは少なく、新たな仕事内容への転換が行われているケースが大半である。2000年以降のネット革命にしても、大量失業者は出していない。しかし、非正社員率の増加にみられるような「働き方の変化」は急速に進んでおり、新しい時代に適応した職務へのリスキリング(学び直し)ができるか、否かにより年収の格差は広がることになる。生成AIの普及はここ1年程度の出来事であり、まだ専門スキルを習得している人材は少ないだけに、そのスペシャリストを目指すことには大きなチャンスがある。

JNEWS LETTER 2024.3.18 より一部引用

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