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人を呪わなくても増える穴

あくる日、実家に帰ると父親が恋人と同棲していた。
もともと父子家庭とかではなくて、私が成人してまもなく母が突然他界し、
父は所謂男やもめというやつだった。

父とは仲良しだが地元に愛着がなく、
むしろいい思い出も家族以外の濃いつながりもなかったので、
大学を卒業してからは離れた場所から月一回くらい実家に帰る
という生活を続けていた。

ある日家に帰ろうと連絡をとると「友達が泊まりにきてるけど」と言われ、
まぁ自室に引きこもるからいいかと空気も行間も読めない私は
そのまま最寄駅に着き、迎えにきた父の車の後部座席には
中年の品のいい女性が乗っていた。
「仕事仲間の人だから、遠くから泊まりに来てるんよ」と言われて
あぁそうなのねとどこかばつの悪そうな父の様子は見ないフリして、
その時はまんま受け止めた。なんせ行間も空気も読めないので。

自分の方が長く居た家なのに身の置き所が分からなくなって、
適当に理由をつけてその時は近所の祖父母宅へ身を寄せ
ひたすら眠り込んでいた。
こころがどこか晴れないで、気持ちの処理の仕方もわからなくなった。

側に居ないとと思っていたのが自分だけだったのかという一方的な失望。
そして、相手がどことなくは母に似ていたこと。
翌日に帰宅し夫へ話すと「それ彼女では…」と言われたけど、

まさかでしょーとその日は笑っていた。
半年ほどして妹夫婦とご飯を食べていた時に
「彼女ができました」
そして追い討ちをかけるかのように
「もうそろそろいいでしょ」と。
なんだよもうそろそろって。まじかーって。

からの、久々の帰省で実家の扉をあけると例の女性がいて
「お前には言うタイミング逃してたんだが…」
と冒頭の展開に至るわけです。そんなサプライズいらん。

家族がみんなめちゃめちゃに仲が良かったわけではないのだけど、
これまでの我が家の思い出に一滴黒いものを混ぜられたような、
不純物入りの思い出ができたような気がした。
父がは母のことを何年も話題に上げてきていた
のにも関わらずというのもある。
私はもともと無愛想だけど大人になってそれなりに
社会経験もしてその場で取り繕えるようにはなったけど、
さすがに親族の食事にいきなりくるとなるとまた話が違うわけですよ。

時間が経てば、来るべき時に出会うことができれば
考え方なんでいくらでも変わる。
家族といえども、1人の人間だしずっと十字架を背負う必要なんてない。


なんて綺麗事はいくらでもかけますが、
まぁ子どもからしたらなんとも言えない気持ちになるんですわ。

”お父さんにも人生があるから”
”あなたも家を出て寂しくさせてたじゃない”とか
言いたいことはわかるけど、
センシティブな状況の相手に正論は本当にダメ。

片親の子達をこれまで見てきて大変そうだなくらいしかなかった。

まさか自分の人生に結婚相手以外で
義理のお母さんなるものが出来るとは思ってなかった。
人生はまさかの繰り返しで、そのまさかとやらは
自分の生活の一寸先にある。
ショックの大きさは彼女がいる時の方が大きかったけど、
今回は今回で色々と思い返すことがある。
にしても相手が兄妹と一字違いで、
部屋は私も途中まで使っていた場所が使われていたのは
さすがに胃のあたりがしばらくきりきりしてしまった。

派手な色にそめたことも入れ墨をいれることも
ピアス穴あけることも全部したことないけど、
三十路目前にしてどれかやってやろうかな、
なんて非行に走ろうとしている。
心底馬鹿にしていた中学生時代のヤンキーたち全員が
家庭に色々あったわけではないだろうけど、
時代を超えて彼らの気持ちが少しだけ分かったような気がした。

同じような境遇の大人達はもちろん、身の置き所がわからなくて居場所をずっと探している子ども達にどうか届きますように。

#心を大切に #ピアス # #非行 #遅れてきた反抗期
#眠れない夜に

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