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【オリジナル曲#9】雪原


瞳を開けると、そこは真っ白な雪原せつげんだった。




どこまでもどこまでも、真っ直ぐに伸びる雪景色。

空も灰色だから、どこまでが空でどこまでが地面なのか、そのうちわからなくなってくる。
頭がくらくらして、目が痛くなってくる。

歩いても、
歩いても、
歩いても、
何一つ景色は変わらない。

はっとして振り返った。
そこにあるはずのわたしの足跡はなかった。
消えていた。
いや、最初から足跡なんてなかったのかもしれない。
前も後ろも右も左も上も下も——どちらに顔を向けても、真っ白な景色しかなかった。


くちびるが震えた。
吐く息が白かった。
胸に何かを刺されたような痛みを感じた。
頭ががんがん鳴っていた。

深呼吸をしながら、目を閉じた。耳を押さえた。
大丈夫、大丈夫だ。きっとこれはただの夢だ。
目を開けたら、何事もなかったかのようにベッドの上で寝返りをうって、スマホの画面に映る4:32の文字にため息をついてまたそのうち眠りにつくんだ。
大丈夫、大丈夫だから。

そう思って、恐る恐るまぶたを開いた。

頭のどこかで、何かが崩れる音がした。
足元に降り積もった雪も、前後左右に広がる雪の平原も、震えるくちびるも白い吐息も頭の痛みも手足の痺れも——何ひとつ変わっていなかった。

顔がゆがむ。
泣いたところで何も変わらない。
知ってたけれど。



膝をついた手の甲は霜焼けでほのかに赤くなっていた。
そこに雪が降り注ぎ、霜焼けの色は見えなくなっていった。

動くことが、できなかった。




音のない世界で、どこかの誰かの咽び声だけが、こだましていた。