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コロナと寿司屋


大好きな寿司屋がある。
そこは地元の回転寿司で、値段も150〜600円くらいの普通のお店だ。(100円寿司ではない)
でも旨い。しぬほど旨い。確か私が小学生から中学生くらいの頃から家族で今日はお寿司食べちゃおうかとなった時にたまに通っていた。
地元は回転寿司でも本当にレベルが高くて、そこまでお金を払わなくても十分に美味しいお寿司が食べられる。
こういうことを言うと未だに「北から目線」とかいう一昔前に流行ったネット語で揶揄われたりするけど、北以外を馬鹿にしてるならまだしも北を自慢しただけでこんなこと言われるのは北から目線ハラスメントじゃないだろうか。普通にムカつくのでこの言葉を軽々しく使ってウケた気になってる奴は今すぐやめろ。

取り乱しました。
そんなお寿司が美味しい北海道で、悲しい事に毎日十数人のコロナ羅漢者が出てきた2020年2月末頃、私は前の会社を辞めて有給消化期間をぬくぬくと実家で過ごしていた。犬を撫でながら酒を飲んでるのに給料が出る人生で一番素晴らしい期間である。
実家を出て東京で1人頑張っている可愛い娘(と思っている)に甘いうちの父親は、本格的な自粛が始まり地元の友達にも会えず、毎日ガラガラの市営運動場の走路で暴れ回っている私を可哀想に思い、東京へ帰るその日のお昼に寿司を食べに連れて行ってくれた。
その時の北海道は外出禁止とまでは行かないけど、小中学校は休校、ゲーセンやカラオケなどは閉まっている。って感じだった。
ネットで調べたら寿司屋はやっていたので、店内もかなり広いし、ちゃっと食べに行って空港に行こうということになった。
11時の開店時間丁度くらいに着くと、駐車場に車が3台くらい止まっていた。緊急休業の張り紙とかも特になかったので、安心して入店すると、
誰もいねぇ。
いや店員さんは居るけど客がいねぇ。

このお寿司屋は結構な人気店で、いつも家族で来てた時も基本的に1時間か2時間くらい待つので、昔はオセロとか本が置いてある座敷で待ってから食事ができていたんだけど、ここ最近は順番が来たら電話が来るサービスが始まっていたので、常にそれを利用して近くの本屋で時間を潰したりしていた。
あの寿司屋が、あの大人気の寿司屋が、完全に貸切状態である。
2人なのでカウンターに着くと、10年近くずっとここで寿司を握っているザキヤマ似のお馴染みの職人が元気よくいらっしゃい!!!と言ってくれた。
寿司屋でいつも流れているあの曲とザキヤマさんの声だけが広い店内に響いていた。
この人はいつも半端なく元気で、マグロ一丁ウェーーー!みたいなよく聞き取れないけどなんか楽しそうな注文の受け方をしたりしている。店内には子供のお客が描いたこの人の似顔絵が沢山飾ってあるくらいの名物店員だ。
客が私たち以外居ないので、いつも激しくレーンの内側を動き回って握りまくっているザキヤマさんが私たちの前に着き専属の職人となってしまった。こんなことあるか?
コロナの影響でレーンにはフダしか回っていないので、殆どカウンターの寿司屋みたいに一つ一つ注文して握ってもらう。

私「イカください」
ザ 「イカ入りましたァーーーーーーー↑↑↑ッ!!」

この状況でもザキヤマさんはブレなかった。
ていうか人に伝えるんじゃなく自分で握る時にも言うんだ。彼なりのルーティンなんだろうか。
5皿くらい好きなものを食べてから父親と茶を飲みながら話していると、暇になったザキヤマさんは鼻歌を歌ったりタッパーに入ったワサビの山をヘラで鋭利に尖らせていた。こんなに暇してるザキヤマさん見たことなかった。
私達のレーンを挟んだ前方にはザキヤマさんが着いていて、椅子の後ろには常にもう1人店員さんが待機していた。暇なんだろうけどここまでマークされるとめちゃくちゃ落ち着かない。いつもは10皿くらい食べられるけど、この後苦手な飛行機に乗らなきゃいけないということもあり本調子が出ずに結局6皿くらいしか食べられなかった。

コロナでも客が自分達だけでもやっぱり寿司は美味しかったけど、寿司屋ってワイワイガヤガヤしてた方が楽しいんだなって思った。コロナも収まったらガッツリお腹空かせてまた行きたいな。

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