◆社会自身の「理系離れ」

たとえば学生の理系離れ、といった現象。
一昔前は成績の良い者、数学のできる者は当然のように理系の学部に進学しました。理系の学部を卒業して企業に入り、技術畑で成績を上げるのがなんといっても出世コースだったのです。

しかし今では理系を出て企業に就職しても、かえって不利だったりします。おまけに学生は、出世よりももっと自分らしさや自分の可能性を伸ばせる、おもしろそうな仕事を望んでいるのです。
原子力発電所問題も面倒です。
「夢のエネルギー??原子力」という宣伝文句で登場した原発。でも実は、廃棄物を他の国にまでこっそり捨てに行かなくてはならない。おまけに、それも返されてしまうという超環境破壊システムだ、なんて私たちは聞かされていませんでした。
科学者と役人と企業のサギに引っかかった、と思った人も多いでしょう。
やめようと思っても、向こう数万年は厳重な監視を必要とし、核融合にいたっては現実的なめどは全く立っていない、ということ。
これらのことをみんな、何となく気づいてしまいました。
「科学科学と浮かれていたら、えらいことになった」
「何も考えずに科学だ発展だ開発だと言ったら、あとで大変な目に遭うのは自分たちだ」
という気持ちがみんなの中に生まれてしまったのです。
科学の力で造った原子力発電所が科学の力ではどうしようもなく、政治的解決を待っている、ということは科学に対する巨大なマイナスイメージになりました。
だからといって科学を捨ててオカルトに走っても、放射性廃棄物をクリーンにする白魔術なんて、あるはずがありません。やっぱり解決も科学に頼らざるを得ないのです。みんな、そのリクツは分かっているのですが、何かタチの悪いヤクザに引っかかったような気がしてなりません。

今、注目されている無農薬野菜や、自然食品ブーム。
昔は人畜無害の表示を信じて殺虫剤をまきすぎ、子供を死なせてしまう母親もいました。しかし今は「害虫は殺すけど、人間には無害な薬品」などこの世に存在しない、ということをみんな感じています。
そのリスクをどれぐらいに見るかは、個々人で差はあります。でも、もし同じ値段、同じ条件で普通の野菜と無農薬野菜が売られていたら、どちらが売れるかなどは考えるまでもありません。化学肥料も同じです。
みんな仕方なく薬品など「不自然な物」を使っています。しかし本当は自然(それもまた、イメージの中の自然なのだけど)がいいと考えているんです。
農薬などを開発する人たちが、どんなに頑張って素晴らしい農薬を造っても無駄です。消費者たちは「いーや、科学なんかより、自然の恵みの方が素晴らしいに決まってる」と、海原雄山の受け売りみたいなことを言って拒否するだけですから。

また、花粉症やアトピーといった、現代医学でもなかなか解決できないといわれている病気があります。
どちらも環境汚染や食品公害といった問題を抱え、エイズやガンなどのように死者が出ないので、医学界も本気になって研究していないようです。患者たちは症状をやわらげるために、体には良くないと知りつつステロイド剤などを使用しています。
そう、彼らにとって科学は救済ではなく、加害者なのです。
そのため、医者を見捨てて、民間療法に切り替える者も多い。
科学的に効果が実証されていなくても、とにかく効くという噂を聞けば試してみる、という態度が普通になりました。鍼(はり)や怪しげな整体に行く人も大勢います。現代医療に対する不信感は相当大きくなっているのです。

このように「科学は私たちを幸福にしてくれる」という信頼感は、すっかり下火になりました。『フランクリード・ライブラリー』に謳(うた)われた、輝ける科学と技術の二十世紀のイメージは今や見る影もありません。
というわけで、科学主義はすごい勢いで終わりつつあります。
特に、今の若者たちの間では、もはや終わってしまったと言ってもいいでしょうか。

支援していただけるなんてチョー嬉しいんですけど^^笑