十九世紀の終わり、アメリカ合衆国は最後のフロンティア・西部を開拓しつつありました。
下記の図は一八九二年に、そのアメリカで大ブームを巻き起こした新聞連載SF小説『フランクリード・ライブラリー』の表紙です。

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当時の人々に夢と希望を与えた『フランクリード・ライブラリー』は世界最初の新聞連載SF小説といわれています。
「来るべき二十世紀は科学と技術の栄光に満ちあふれている」
その巻頭で『フランクリード・ライブラリー』は高らかに宣言しました。しかし、その来るべき未来の予測は今の目で見ると、とても奇妙なものだったのです。
まず主人公の少年フランクが発明したのは未来の馬車(!)でした。
高性能の蒸気機関で駆動されるこの科学と技術の奇跡「スチームホース」は、本物の馬の代わりにフランクを乗せた鋼鉄製の馬車を引っ張る、疲れず眠らず食べない理想の馬なのです。
フランク少年は西部の正義を守るために次々と新発明をしました。スチームホースの改良型、スチームマン(頭にかぶったシルクハットが煙突の役割)、蒸気機関の潜水艦、荒野仕様の大型馬車。
現実の世界では、蒸気機関のロボットや馬は結局、実現しませんでした。でも、当時のアメリカ人が科学や技術に対して持っていた夢や無条件の尊敬が読みとれて、微笑ましいといえます。

時は流れて一九〇〇年初頭。当時流行の科学雑誌には、こんな特集がよく掲載されていました。
「夢の機械化住宅——一九四〇年までにはすべての住宅にはエンジンが取り付けられ、主婦の仕事は編み物だけになる」
特集の中を見ると、まず派手なイラスト。
住宅の隣に設置された、その家よりも巨大なエンジンのイラストです。もちろん巨大なエンジンからは真っ黒な煙がモクモクと(!)噴き出し、一家の主と息子がその煙を頼もしそうに見つめている。
エンジンから伸びた巨大なシャフトが家庭の各部屋を貫き、高速で回転。シャフトに接続された複雑な歯車装置が、各部屋ごとの機械(掃除機とか皿洗い機、洗濯機、全自動編み物機)を動かす、という仕組みです。
で、すべての家事と編み物からも解放された主婦は、暖炉の隣の長椅子で小型エンジン付きタイプライターで母親に手紙を書いている。
「ねえ、お母様。最新型の機械化住宅って、とっても素敵よ」

この記事も確かに、微笑ましいといえば微笑ましいですよね。私が大学の講義でこれらの資料を見せた時には、けっこうウケました。もちろんそれは、大変好意的な笑いだったのです。
しかしその時から、消し去ることのできない疑問が生じました。
私たち自身も、こんなヘンなことを言っていないだろうか。
ひょっとしたら数十年後の人々から見たら、大笑いされるようなことを平気で言いふらしたり、そんな本を読んで感心してはいないだろうか。

支援していただけるなんてチョー嬉しいんですけど^^笑