白表紙について

1 白表紙とは

白表紙(「しらびょうし」と読みます)とは、司法研修所から修習生に配布されるテキストの俗称を指します(修習生だけでなく、司法研修所の教官もこの用語を用いることから、事実上公式用語として扱われているといって過言ではないでしょう)。

導入修習が始まる1ヶ月前くらいに白表紙のセットがどっと自宅に届きます。大量の白表紙の中から、導入修習開始までに優先的に読むべき白表紙について明示的に指定されるわけではありません。
そこで、第75期司法修習で配布された教材をもとに、導入修習までに優先的に読むべき白表紙をお伝えしたいと思います。

なお、本稿では、「通読すべき」という意味で、「読むべき」という表現を用いています。

(2022年10月16日追記)
全ての白表紙にあてはまることですが、白表紙の電子データ化は禁止されているのでご注意ください(「修習記録,教材・資料等の紙媒体の配布物等の電子データ化は,司法修習生が取り扱う修習関連の情報をあらゆる脅威から守り,必要な情報セキュリティを確保するための対策として,情報の流出・拡散を防止する観点から禁止されている」(https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2019/03/310325-理由説明書(修習教材のPDF化禁止).pdf))。

2 導入修習までに優先的に読むべき白表紙

第75期司法修習生に対し配布された白表紙については、次のブログの通りです(山中先生のブログを挙げさせていただきます。なお、山中先生のブログには、白表紙の情報以外にも、修習に関する多数の情報が掲載されていますので、ぜひ参考になさってください)。

https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2021/11/送付教材等目録(第75期).pdf

見ての通り、合計で44もの白表紙等が配布されています。
これらのうち導入修習までに優先的に読んでおくべき白表紙は以下の通りです。
なお、第76期司法修習では、新たな白表紙が追加されたり、既存の白表紙が改訂又は絶版になったりする可能性があります。

(民事裁判)
・事例で考える民事事実認定 ★

(民事弁護)
・八訂 民事弁護の手引(増訂版)

(刑事裁判)
・刑事事実認定ガイド(令和2年12月版) ★

(検察)
・検察終局処分起案の考え方(令和元年度版) ★

(刑事弁護)
・刑事弁護の手引き(令和2年10月)

ひとまずこの5冊を読み込めば導入修習の事前対策としては最低限十分だと思います(導入修習前に与えられる課題に取り組むときにも役立ちます)。
次項からは、それぞれの白表紙について見ていきたいと思います。

*「どうしても時間がないよ!」という方には、★をつけたものは絶対に読んでいただきたいと思います。

3 事例で考える民事事実認定

民事事実認定の基礎的な手法について、架空事例を題材に解説がなされているものです。通称「ジレカン」です(教官もこのように読んでいます)。
「民事事実認定の勉強は、ジレカンに始まり、ジレカンに終わる」と言っても過言ではないほど、修習全体を通じて何度も読むことになります。
民事裁判で課される起案の攻略には不可欠な1冊です。
架空事例を題材として、裁判官・修習生2名の対話形式で解説が進みます(『事例演習刑事訴訟法』のようなテイストです)。

最初の読み方としては、次のような方法が一番取り組みやすいのではないかと思います。
 ①事例編のうち当事者の主張が記載された箇所を読む。
 ②当事者の主張から、訴訟物、要件事実(請求原因、抗弁以下)を導く。
 ③争点(争いのある主要事実)を見つける。
 ④事例編のうち証拠に目を通す。
 ⑤解説編(1頁以降)を読んでいく。
*要件事実については、白表紙のうち『新問題研究』『紛争類型別の要件事実』や、各自これまでお使いの書籍を読めば足りると思います。

1回読んだだけでは、事実認定の方法がいまいち何のことやらわからないかもしれません。
一読目は、
 当事者の主張整理(訴訟物、要件事実の検討)
 →争点の抽出
 →争点に対する判断枠組みの設定
 →動かし難い事実の抽出
 →事実認定の視点の設定
 →設定した視点に沿った事実の振り分け・振り分けた事実に対する評価
 →総合評価
 →結論
という大まかな流れを掴めればよいと思います。

「ジレカンは読んだけど、実際にどう起案すればいいのかわからない」ということになったときには、白表紙のうち、『学修用記録1号』(主張整理の起案例)、『学修用記録2号』(事実認定の起案例)が非常に参考になります。

4 八訂 民事弁護の手引(増訂版)

民事弁護全般について解説したものです。
導入修習開始前に全部読む必要はありません。弁護修習に入るまでに読めば足ります。
導入修習開始前段階では、訴状、答弁書、準備書面の各記載例を読めば足りると思います。
導入修習中の起案だけでなく、弁護修習中の起案にも役立つかと思います。

5 刑事事実認定ガイド

刑事事実認定の基礎的な手法について、架空事例を題材に解説がなされているものです。
民事裁判におけるジレカンと同様、刑事事実認定の勉強では刑事事実認定ガイドを修習中何度も読むことになります。
刑事事実認定ガイドは、ジレカンのように会話形式ではなく、普通の教科書のように淡々と解説がなされていく形式で書かれています。

最初の読み方としては、次のような読み方が取り組みやすいのではないでしょうか。
 ①記録編の1、2頁を読む。
 ②事案の争点(検察官と被告人が対立している点=要証事実)を把握する。
 ③記録編の証拠に目を通す。
 ④解説編を頭から順に読んでいく。
*刑事事実認定においては、要証事実を具体的に捉える必要があります。具体的に捉えるためには、実体法の解釈を押さえておく必要があるので、余力があれば構成要件の解釈を復習しておきましょう。

民事裁判と同様、一読しただけでは、刑事事実認定も何だかよくわからないという感想を持たれることになるかと思います。
一読目は、
 争点(=要証事実)の把握
 →要証事実の有無の判断にあたり、証拠構造は直接証拠型か間接証拠型かの把握
 →直接証拠型:その直接証拠の信用性の検討
 →間接証拠型:証拠による間接事実の認定、要証事実の推認力の検討、総合評価
 →結論
 要証事実が規範的要件(例:共同正犯における正犯性)の場合、積極的事実・消極的事実を証拠から認定し、総合評価を経て結論を導く
ということを押さえられればいいのではと思います。

なお、刑事事実認定に関しては記載例が教材として存在しません。とりあえず起案の型がほしいというのであれば、後記『検察終局起案の考え方』の項目立てを参考にするとよいと思います。

6 検察終局処分起案の考え方

検察起案で求められる形式及び内容について解説したものです。
検察起案では、この本で説明されている通りに起案をしなければ評価されません。
どの項目をいかなる順序で書くかというところまで細かく決まっているので、起案の構成はこの本に記載されている通りに暗記してしまいましょう。
修習全般を通じて、白表紙の中で最も読み返すことになるものです。

起案のエッセンスは第2章に詰まっていますので、重点的に読みましょう。
至れり尽くせりということで、記載例も複数掲載されています。
解説を読んだ上でこれらの記載例を写経することが、検察起案の勉強の始まりです。
なお、記載例のうち共犯型は応用型なので、導入修習段階では、ひとまず置いておきましょう。

実務修習においても、現場の検察官は、この本に記載されている検討順序に基づき実際の事件を処理しているので、実務修習でも役に立ちます。

起案すべき項目のうち、公訴事実の部分に関しては、白表紙のうち『検察講義案』に記載例があります。『検察講義案』は起案時に持込み可能なので、記載例を参照して公訴事実を書きましょう。

7 刑事弁護の手引き

起訴前の弁護、起訴後の弁護(公判弁護-否認事件・量刑事件)について解説がなされたものです。
刑事弁護のエッセンスが詰まっていますので、修習中何度も読むことになると思います。
とりわけ、刑事弁護で課される起案のうち、想定弁論の起案のルールが書いてある箇所についてはよく読んでおきましょう。

8 まとめ

白表紙のうち導入修習開始前に優先的に読むべきものについて見てきました。
ここまで挙げてきたものは、民事弁護の手引を除いては、どれも頁数が少なく、わかりやすく書かれているため、通読しやすいと思います。ですので、白表紙のセットが届き次第、読みたいものから読んでいってください。

なお、各科目のエッセンスが凝縮されているため、高度なことがサラッと書かれていたりします(高橋宏志『民事訴訟法概論』、山口厚『刑法』のように)。これらに関しては、実務修習や集合修習での起案を通じて理解するものなので、導入修習開始前の時点では深く立ち入る必要はないでしょう。

ひとまず優先的に読むべき白表紙の紹介は以上とさせていただきます。

司法修習では勉強すべきことがたくさんありますが、修習生という立場で様々なものを見ることができます(中には、修習生でなければ今後一生見ることができないものもあったりします)。実務家の方もたくさん修習生に目をかけてくださいますので、ぜひ楽しんでいってください。
特に、76期司法修習では、導入修習が和光の司法研修所で対面で行われるということなので、教官や他の修習地の修習生とも交流を深めていってもらえればと思います。


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