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ブルーアーカイブ 読み直す 時計じかけの花のパヴァーヌ編 一章


はじめに

 こんにちは、ずゆです。この記事ではブルーアーカイブの時計じかけの花のパヴァーヌ編第一章を読み直し、僕が思ったことを書き連ねていきます。既にメインストーリーやその他諸々のストーリーを読了している方向けに、詳細な振り返り、モチーフや元ネタの考察、イベントシナリオとの関係などに触れつつメインストーリーの面白さをさらに膨らませていくことを目的としています。
 またこの記事には作品の解釈を含みますが、それらはあくまで僕個人の読み方であり、作品の捉え方の一つに過ぎません。これが正しい解釈、というものではなく、そういう読み方も出来るもの、として楽しんで頂きたく思います。2024/2/29現在公開されている全てのストーリー、及び映画『時計じかけのオレンジ』のネタバレを含みます。

タイトルについて

 ストーリーを読む前から引っ掛かるのは「時計じかけの花のパヴァーヌ」という特徴的なタイトルです。基本的に直接的なタイトルが付けられているメインストーリーの中では異色と言えるでしょう。
 パヴァーヌとは16世紀から17世紀にかけてヨーロッパ宮廷で普及していた舞踏のことであり、元ネタを考慮せずに解釈すると機械じかけの女の舞踏となるのでしょうか。それではあまり納得感がないので、元ネタについても考えていきます。

 この元ネタは『時計じかけのオレンジ』『亡き王女のためのパヴァーヌ』の二つだと推測します。

 『時計じかけのオレンジ』とはアンソニー・ハージェスの小説を原作としたスタンリー・キューブリックの映画(小説版と映画版でニュアンスが異なるが、映画版の方が有名であるためこの記事では映画とする)です。
 あらすじをとても短くまとめると、逮捕された一人の非行少年アレックスが政府による実験治療を受け、それによって無理やりに非行への拒否反応を植え付けられたことから生じる様々な事件を描いた物語です。
 作中で実験治療によってアレックスがあらゆる乱暴への生理的拒否反応を起こすようになったが、本質的に拒否しているのは乱暴ではなく苦痛であり、それは人間の理性的な判断ではなく動物の本能的な判断であることを「時計じかけのオレンジ」だと言われます。
 この「時計じかけのオレンジ」とは、作者が暮らしていたマレーシアの労働者階級が使う「一見まともだが本質はおかしい」という意味のスラングです。マレーシアでは人間をorangと言い、そこから転じて洒落的にorangeになった言葉だとする見方もあります。

 『亡き王女のためのパヴァーヌ』とはモーリス・ラヴェルによるピアノ曲であり、その表題の由来は「小さな王女が躍ったようなパヴァーヌ」です。亡きとは亡くなった、という意味ではなく存在しない概念的な、という意味を持つ言葉であり、そのため『なき王女のためのパヴァーヌ』とも訳されます。

 この二つから取られたのであろう「時計じかけの花のパヴァーヌ」というタイトルは、リオから見たアリスを表した言葉であると僕は考察します。
 この記事では取り扱わない二章にて、ケイの存在理由がほとんどキヴォトスの滅亡と同義であることが明らかにされます。程度は違えど、これは『時計じかけのオレンジ』の主人公であるアレックスの本能的な暴力と一致します。AL-1Sの誕生から長い時間が経ったことでアリスとケイが表層心理と深層心理として分離して、一見すれば普通の生徒のように見えるようになりました。
 花の女子高校生の日常生活に見えるそれも、実は機械じかけで中身が伴っていないとても不気味なもの、とアリスの設定だけを見れば思うかもしれません。無論先生を含めアリスをよく知る生徒からすればアリスが紛れもなく生徒の一人であることは明らかですが、不気味の谷に落ちたリオからすれば、そうではなかったのでしょう。
 長くなりましたが、「時計じかけの花のパヴァーヌ」というタイトルにはそういった意味が込められているのかな、と思いました。

時計じかけの花のパヴァーヌ編

モモイからの手紙

 ゲーム開発部が廃部の危機に陥っているから助けて欲しい、と連絡を受けた先生がミレニアムサイエンススクールに向かうと、空から降ってきたプライステーションにぶつかり意識を失います。
 これはモモイが窓から放り投げたものが偶然当たったようで、ゲーム開発部の部室で目覚めた先生はいきなり廃墟に連れていかれそうになります。

 ユウカがやってきて、ゲーム開発部が廃部になるきっかけを教えてくれます。どうやら廃部の理由は部の規定人数を満たしていないことと、部としての実績がないことのようです。ユウカはセミナーの会計担当として実績のない部活は廃部にしてその分の部費を他に回した方が合理的であると理性的に解説します。
 しかしモモイとミドリは自身らが手掛けたゲーム『テイルズ・サガ・クロニクル』が賞を貰っていると反論しますが、それは「今年のクソゲーランキング1位」という不名誉な称号であり、どうやら部の存続は絶望的なようです。
 そこでモモイは次のミレイアムプライスにて『テイルズ・サガ・クロニクル2』で賞を取ることを高らかに宣言します。しかしユウカによるとそれは運動部のインターハイ出場よりも遥かに難しいようですが、温情としてミレニアムプライスまでの二週間だけ廃部を待つことを決めてくれました。

 ここまでの登場用語の元ネタは以下のものです。

・プライステーション
→プレイステーション

・テイルズ・サガ・クロニクル
→テイルズ・オブ・クロニクル

・今年のクソゲーランキング
→クソゲーオブザイヤー

廃墟へ

 一応モモイにも廃部になりたくない明確な理由があるようで、自身の大好きなゲームがガラクタではないことを証明したいと言います。そこで昔ミレニアムに在学していた伝説的ゲームクリエイターが作ったという、最高のゲームを作れる秘密の方法が入っているG.Bibleを手に入れるために廃墟へ行く必要があると説明し、先生とモモイとミドリは廃墟へと足を運びます。

 廃墟とはミレニアム近郊の地域の名称であり、そこは連邦生徒会長によって出入りが制限されていました。しかし連邦生徒会長の失踪後、連邦生徒会の警備が撤収し、手付かずの状態で放置されていたそうです。その廃墟に到着してから、モモイがここにG.Bibleがあると推理した理由を解説します。

 一つ目はヒマリの廃墟に関する言及「キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる、時代の下水道みたいな場所なのかもしれない」
 二つ目はヴェリタスに依頼したG.Bibleの最終起動位置の解析が通常の地図にはない場所を指していたこと。
 この二つからモモイは廃墟に辿り着いたと説明しました。こじ付けとも言えるくらい根拠の薄いこの推理にミドリも呆れている様子でしたが、そのとき廃墟を徘徊していたロボット群に見つかってしまいます。

 先生が見つけた工場に何とか逃げ込むと、追手のロボット群は工場に入る前に追跡をやめます。そして逃げ込んだ先の工場の中で全体に響き渡るように音声が流れ始めます。その音声は対象の身元を確認し、モモイとミドリには資格がないと言います。しかし最後に先生の身元を確認すると、今度は資格があると言い、同行者である二人にも資格を付与したことを伝えます。

 資格の確認が済むと、三人が経っていた床が抜けて別のフロアへ移動させられます。

 移動した先は、AL-1Sが休眠状態で安置されている部屋でした。

AL-1Sは何者か

 今後のストーリーで少しずつ明かされていくAL-1Sの正体は、Divi:sionによって名もなき神々の王女となるべくして作られた存在でした。あまりにブルアカ用語が多すぎるので、一つ一つ分解していきます。

 まずAL-1Sとは、このときアリスが座っていた台座に記されていた文字であり、アリスの名前はこれを受けてモモイが即興で決めたものです。
(時計じかけの花のパヴァーヌ編一章より)

 Divi:sionとは廃墟にある、現在は封鎖された軍需工場で無限の軍隊を生産していたシステムの名称です。後にデカグラマトンと接触し、現在のケセドへと変貌を遂げますが、アリスと関わったのはそれ以前だと考えるべきでしょう。
(アリスとDivi:sionの関係性は時計じかけの花のパヴァーヌ編、
Divi:sionと無名の司祭の関係性は最終編三章、
Divi:sionとデカグラマトンの関係性は総力戦ケセドの前語りより)

 名もなき神とは、キヴォトスの旧支配者です。太古の昔から自然を模った形で顕現する神秘や恐怖であり、それを崇拝しているのが無名の司祭らです。名もなき神は遥か昔になんらかのきっかけで忘れられた神々(これはおそらく生徒たちのこと)に敗れ、キヴォトスから追い出されたものの、今もキヴォトスの支配者に返り咲くことを目論んでいるようです。
(時計じかけの花のパヴァーヌ編二章、最終編四章より)

 名もなき神々の王女とは、無名の司祭の意志に基づいて動く、忘れられた神々に対抗するための戦闘兵器です。しかし実際にAL-1Sを作ったのは名もなき神でなく、それを崇拝する無名の司祭のようです。
(時計じかけの花のパヴァーヌ編二章より)

 これらの話を総合すると、AL-1Sの誕生理由は名もなき神が忘れられた神々を淘汰するために、無名の司祭によって作り上げられた戦闘兵器でしょう。さらに分かりやすく言えば、生徒を倒すための力の一つでした。

 しかし、二つの人格を有していたAL-1Sはその片方のみがその事実を覚えているという状態になっていました。これ以降その二つの人格を、アリスケイと呼びます。
 どうして二つの人格を有していたのかは後から考察するとして、それ自体は元からの仕様だったようです。時計じかけの花のパヴァーヌ編二章にてケイが「(自身は)彼女が頂冠する玉座を継ぐ鍵」だと発言している等、元々〈王女〉アリスと〈鍵〉ケイに分かれていることは前提とする言い方をしているためです。

 ではなぜAL-1Sという入れ物にアリスとケイの二つの人格を入れたのか、ということについて考えていきます。
 〈王女〉と〈鍵〉という二つのピースが必要だった、ということが前提にあるでしょう。作中でケイが掘り下げられていないため実際の鍵の機能が確認出来ませんが、役割を分担しているということは必須なのでしょう。
 ではなぜアリスとケイで二体用意しなかったのか、あるいはなぜ〈王女〉と〈鍵〉の役割をひとまとまりにしなかったのか、という疑問が生まれます。答えは出来なかった、だと思います。

 以下はさらに根拠の薄い考察になりますが、素体アリスの自己破壊プログラムがケイだから、とすると全てに辻褄が合います。
 AL-1Sはゼロから生まれた機械人形ではなく、元々生徒だったものを素体とし、忘れられた神々を倒すように改造することで戦闘兵器に仕立て上げることで生まれた存在だと考えてみます。使い終えた後は暴走を防ぐために自己破壊するプログラムを施すが、これを実行するのが素体と同一の人格であった場合「死への恐怖」が芽生えて離反する可能性を考慮し、普段は表層化しない人格に忍ばせておくことで確実に自己破壊させる。
 もしもこれが全て合っていれば、アリスとケイで二体用意しなかったこと、〈王女〉と〈鍵〉の役割をひとまとまりにしなかったことに説明が付きます。あくまで全て、根拠の薄い妄想ではありますが。

AL-1Sはなぜここに居たのか

 次に疑問になるのは、どうしてAL-1Sがこの工場内に安置されていたか、という点になります。結論から言えば、それは連邦生徒会長の差し金であることがほぼ確定していると僕は考えています。

 連邦生徒会長が失踪以前から立ち入りが制限されていたにも関わらず、AL-1Sの部屋に通ずる認証システムは生徒だけでなく先生まで判別していました。連邦生徒会長失踪以前に先生を知っているのは連邦生徒会長だけであるはずなので、連邦生徒会長が先生とAL-1Sを接触させるためにここに安置していた、と考えるのが妥当でしょう。

 どうしてそれを狙っていたかは定かではありませんが、結果的にアリスは最終編にてアトラ・ハシースの箱舟攻略にて重要な役割を担うことになります。彼女の言う「また別の結果」に必要な存在だと考えていたのかもしれません。

新入部員アリス

 AL-1Sに持ってきていた服を着せて、そのまま部室に連れてきます。モモイがAL-1Sをもじってアリスと名付け、新入部員に仕立て上げることに決めました。

 日本語版ではそれほど違和感のないAL-1S→アリスのもじりですが、グローバル版の綴りはAliceでもAlisでもなくArisとなっています。Alisという綴りが人名として一般的でなかったり、忌避されるような理由もないため、Arisとしている理由は不明です。モチーフとも噂される天動説のアリストテレス(Aristotelēs)に由来するものなのかもしれませんが、この辺りを掘っても憶測の域を出ないと思ったのでこれくらいに留めておきます。

 モモイはヴェリタスにハッキングして偽造学生証を入手して貰うよう頼みに行き、その間にミドリは機械的な話し方をするアリスに話し方を教えることになります。

 生徒たちの親に準ずる概念の存在は否定も肯定もされていませんが、こういった部分で露骨に言及を避けられているためかなり否定寄りな描き方をされています。

 アリスが目についた『テイルズ・サガ・クロニクル』をミドリに尋ねたことで、プレイすることになります。残念ながらTSCはクソゲーランキング一位を取れたことすら奇跡的なクソゲーだったのですが、モモイとミドリに教えて貰いながらゲームを進めることで、アリスの話し方は機械的なものからRPGの登場人物的なものへと変化していきました。
 TSCの非常識的な要素に戸惑いつつも、アリスはゲーム自体への興味を持ち、面白かったと言います。

 その言葉を受けてロッカーに隠れていたユズが姿を現します。ユズは初対面のアリスに人見知りしており、またゲームを酷評されるのではないかと怯えていたようですが、面白かったというアリスの言葉に喜び、アリスをゲーム開発部に歓迎します。

 その後、日が暮れてきてモモイとミドリは寮に戻ります。ユズは寮に居場所がないようで、この部室で寝泊まりしているようです。その間アリスは夜通し部室のゲームをプレイし続け、翌朝にはかなりNPC的な話し方をするようになっていました。

光の剣:スーパーノヴァ

 武装を持たないアリスの武器を用意するために、エンジニア部を訪れます。後のイベント「とある科学の青春記録」にて、キヴォトスを武装なしで歩くことは裸よりも珍しいと言われていました。

 戦闘経験が少なそうなアリスは扱いやすい武器を勧められますが、アリスが心惹かれたのは巨大なレールガンでした。しかしエンジニア部の下半期の予算70%を使って製作されたこの武装は個人用ではなく宇宙戦艦に取り付けることを想定して作られたものであり、個人が扱うには大きくて重すぎるとウタハが進言します。

 しかしアリスはそれを難なく使いこなし、エンジニア部が設けた試練を突破します。元々宇宙戦艦を開発する予算が存在しないため無用の長物と化していた光の剣:スーパーノヴァはアリスに無償で譲られました。

 帰り際にウタハは、アリスが普通の人間ではないことを見抜き、またその目的が戦闘であることを推察します。アリスの正体について疑問を覚えはしたものの、それを尋ねることはありませんでした。

今学期は部活存続

 一通りの情操教育をアリスに施した後、ユウカが新入部員の資格審査にやってきます。部の存続規定は「4人以上の部員」もしくは「部としての成果」のどちらかを満たすことなので、アリスの加入によってゲーム開発部は安泰のはずでした。

 ユウカの審査はかなり甘く、アリスの言動には所々怪しいものもあれ、ゲームが好きだという真っ直ぐな気持ちが伝わったとのことで部の規定人数を満たしたことを認めます。
 しかし少し前の部長会議で部活の存続条件が「4人以上の部員」かつ「部としての成果」のどちらも必要という規定に変更されたとユウカの口から告げられます。この会議に本来参加すべきだったモモイがゲームのドロップ率2倍キャンペーンを優先して参加していなかったせいで通達されておらず、アリスの加入は部活の存続を二週間からさらに一か月伸ばしただけになりました。

 紆余曲折ありつつ結局は成果を出さなければならない、という点は理解し、ゲーム開発部一同TSC2の制作を決意します。そのためにはG.bibleが必要だとし、今度はユズも一緒にもう一度廃墟に行くことになります。

再び廃墟へ

 先生の指揮もあり、G.Bibleの座標の発信元の工場へ再び辿り着きます。工場内部に辿り着くと、アリスが記憶にあると言ってどこかへと向かおうとします。アリス自身も自身がどこへ向かっているかは判然としないが、行くべき場所は分かる奇妙な感覚だと言い、「まるでセーブデータがあるよう」と表現します。

 向かった先には電源の付いた一台のコンピューターがあり、自身をDivi:sion systemと表示していました。アリスがそのコンピューターにG.Bibleと入力すると、表示がおかしくなり、その後に「あなたはAL-1Sですか?」という表示に切り替わります。ミドリが危険を察知しアリスに入力をやめさせますが、コンピューターは音声認識でAL-1Sを判別します。
 アリスがあなたはAL-1Sについて知っているのかと尋ねると、少しの遅延の後で再び表示がおかしくなってしまいます。そして直後、電力限界に達したため消失すると言い、そのカウントダウンを始めます。

 焦りつつモモイがG.Bibleについて尋ねると、G.Bibleは自身の中に保存されていると言います。データの消失を防ぐための移行媒体に、モモイが咄嗟に「ゲームガールズアドバンスSP」のメモリーカードを提案すると、かなり嫌そうに可能だと答えます。

 ゲームガールズアドバンスSPの元ネタは、言わずもがなGBAです。

 容量不足のためモモイのセーブデータが消えたものの、G.Bibleは.exeファイルとして転送が完了します。起動にはパスワードが必要と言われその場で確かめることは出来ないものの、ヴェリタスをあてにすることにして廃墟から帰ることになります。

 ヴェリタスに依頼したG.Bibleのパスワード解析にはというツールが必要だが、その鏡は少し前に生徒会、つまりセミナーに押収されたということを説明されます。

 紆余曲折ありつつも、セミナーに押収されたツールを奪還する必要があるという結論に達したゲーム開発部とヴェリタスは、面白そうだからという理由で手を貸してくれるエンジニア部と共にセミナーを襲撃することを決意します。
 時を同じくしてセミナー側は、ゲーム開発部達が鏡を奪還することを企てているとヴェリタスの部長・ヒマリからの情報で知り、C&Cと共に迎え撃とうとします。

 かなり後の時計じかけの花のパヴァーヌ編第二章の冒頭にて、この一連の騒ぎはセミナーのトップであるリオとヴェリタスの部長であるヒマリが共謀して起こしたものだった、ということが明らかになります。

 ヒマリが鏡を開発し、それをリオ率いるセミナーが押収してC&Cに守らせることでアリスが戦闘するように仕組まれていたのでした。その目的はアリスの観察だと言っており、結果としてアリスの解釈はリオとヒマリとで別れることになります(この辺りの話は二章を読み直す際に)

 ミレニアムプライスを過ぎれば、ゲーム開発部は危険を冒してG.Bibleを奪還する必要がありません。セミナーがC&Cに依頼したのはその期日までG.Bible守ることでしたが、C&Cのリーダーであるネルが個人的な用事でいないと告げられます。

 しかしネルの不在についてアカネ曰く、リーダーは守ることよりも壊すことに特化しているから護衛任務では大きな問題ではないそうです。

ゲーム開発部vsC&C

 ハレがセミナー側のセキュリティについて解説すると共に、作戦を整理します。かなり複雑なので箇条書きにまとめます。

【部屋の位置情報について】
・セミナーはミレニアムタワーの最上階を活動拠点としている
・鏡のある差押品保管所は最上階西側
・入口から差押品保管所までは監視カメラ×442、三種の警備ロボ×計52等の高度なセキュリティ

【エレベーターについて】
・差押品保管所まで行くにはエレベーターを使う必要がある
・エレベーターには指紋認証が付いている
・エレベーターに無理やり乗り込もうとすると、全てのセクションにシャッターが下りる

【セクションについて】
・最上階は部屋ごとにセクションに分けられている
・緊急時はセクションごとにシャッターが下せる
・下りたシャッターの解除にも指紋認証が必要

【一段階認証失敗時について】
・指紋認証失敗等の超緊急時にはより強固なチタン製シャッターが下りる
・チタン製シャッターの解除には指紋認証+虹彩認証が必要

 これらの情報を知り得たのは、セミナーのセキュリティ構築に携わったのがエンジニア部だったためです。監視カメラについては隙をついてハッキング出来るようですが、指紋認証システムはオフライン管理であるため手が出せないとのことです。

 それらを突破するためのゲーム開発部達の作戦を順に追っていきます。

 まず、アリスが単身で突撃します。当然捕らえられてしまいますが、このときのアリスの目的はエレベーターのセキュリティシステムを壊すことでした。修理には時間が掛かるため、新しいものを取り付けるようセミナーのモブが進言し、目論見通りユウカは新しいセキュリティを購入するよう指示します。しかしアリスの武器がエンジニア部製だと見抜いたユウカは、この件にエンジニア部が関わっている可能性を考慮し、エンジニア部製ではないものを買うようにと付け加えます。
 ところがゲーム開発部達はさらに一枚上手であり、セミナーが新しく取り付けたセキュリティはエンジニア部が偽名で出品した罠付きのセキュリティでした。

 監視カメラがモモイとミドリを捉えたという報告で向かったアカネが見つけたのは、マキとコトリでした。ユウカが確認していた監視カメラの映像はハッキング済みのもので、アカネが接触したことでそれに気が付きます。

 どうしてハッキングしてわざと見つけさせたのか(平和な状態の映像を流しておかなかったか)についてはモモイの口から「頻繁に人が通る場所だからかえって怪しまれる」「C&Cのメンバーを分散させておきたかった」という理由と目的が語られます。

 その間に潜入していたモモイとミドリがエレベーターまで侵入します。エレベーターに乗り込んだことで各セクションにシャッターが下りますが、これらを制御するセキュリティはエンジニア部製の罠付きであり、アカネをマキ、コトリと共に閉じ込めることに成功します。

 アスナの行方が分からないという懸念点を残しつつ、計画通りに事が進んでいきます。後のイベント「船上のバニーチェイサー」にて、アスナはその方が上手くいくという理由で任務中は基本的に単独行動だということが明かされました。

 順調に差押品保管所まで歩みを進める二人の頭上をカリンのライフルが掠めます。しかしウタハとヒビキがカリンを妨害することで、追撃されることなく差押品保管所に入ることが出来ました。

 差押品保管所ではアスナが待ち構えていました。時を同じくしてウタハはカリンによって拘束され、ユウカとアカネも集まり、ゲーム開発部は窮地に陥ります。

 しかしゲーム開発部達は計画が失敗した場合のことも想定しており、電力遮断を起こした隙にアリスが脱出し、モモイとミドリの元へ駆けつけます。

 ユウカ、アカネ、アスナの背後からアリスの光の剣:スーパーノヴァの一撃が放たれます。直撃したアスナと警備ロボットの半数を行動不能にします。

 屋上では拘束されたウタハに被害が及ばない閃光弾を使ってヒビキが援護します。ここで自己中な問題児にどうして手を貸すのか、というカリンの問いに対して、同じ部活の仲間を大切に思う気持ちに共感したからだとウタハが答えていました。

 その後、モモイとミドリに合流したアリスは残ったユウカとアカネと戦いつつ、G.Bibleの保管されている場所へ逃げ込みます。セミナー側の視点ではアリスが姿を見せた時点で鏡はアリスの手の内にあると考えるのが妥当であるため、追手は出口の方へ向かうはずだとモモイが言います。

 突如、アリスが足音を補足し、それと同時にハレから慌てた様子で逃げろ、隠れろといった連絡が届きます。アリスが近づいてきたのをネルだと判断するや否や、三人と先生は物陰に隠れようとします。

 いないはずのネルの出現に戸惑いつつも、アリスは戦闘に発展した場合勝てないと判断します。

 物音に気が付いてネルがモモイ達を発見しかけた直前、ユズが表れてネルを止めます。

 自らをセミナーのユズキだと偽り、別の場所が警備ロボットの暴走によって大変なことになっているから加勢して欲しいと言い、ネルをその場から引き離すことに成功します。

 そのままゲーム開発部はG.Bibleを手に入れて逃走に成功。自身が怖がられているという自覚のある自分に話しかけてきた下級生であるユズの勇気はネルも褒めていました。

G.Bible入手後

おそらくリオの名前はここが初出

 一件が落ち着いた後、ネルがミレニアムに戻ってきた次点でリオから依頼の取り消しがあったことをC&Cに周知します。一連の依頼に一貫性がないように感じたアカネが何故かと問うと、ネルはアリスを確かめたかったのではないか、と見抜きます。

 また一連の事件を通してゲーム開発部に興味を持ったというネルが、アカネに調べるように命令します。

G.Bibleの中身

 鏡を手に入れ、G.Bibleのパスワードを解析したゲーム開発部はいよいよその中身を確認します。しかし現れたのは具体的なゲーム制作のノウハウではなく、「ゲームを愛しなさい」という哲学的な回答でした。

 モモイは心の奥底では見ただけで神ゲーを作れるようになるような魔法は無いとは理解しつつも縋っていたのだと自身の内心を吐露します。希望が絶たれて暗雲が漂い始めるゲーム開発部の流れを変えたのは、アリスの言葉でした。

 アリスがTSCを遊んで思った素直な気持ちを話す姿を見て、ユズは批判ばかりのTSCデモ版発表直後に純粋に面白いと言ってくれた才羽姉妹の姿を思い出します。

 G.Bibleなしでもゲームを作ろうというユズの提案に少しずつ希望を取り戻したゲーム開発部は、本格的にTSC2の開発に取り掛かります。

一難去ってまた一難

 ミレニアムプライスの受付ギリギリまで開発して、TSC2は何とかミレニアムプライスへ申請されます。ミレニアムプライスの選考は三日間あるらしく、それまで何もせずに待つのではなく、TSC2をWeb版でアップロードしようとモモイが提案します。
 そしてアップロードの後、プレイヤーの反応を待っていると、C&Cがカチコミに来ます。

 ネルがカチコミを掛けてきた理由は、C&Cが任務失敗したことの報復などではなく、興味が沸いたから戦いたいというだけのものでした。これ以前の会話からもアリスの正体について疑っているようで、その確認をしたいという意味があるようです。
 ネルは戦って負けたら大人しく引き下がる、と宣言した後に戦闘を仕掛けてきます。アリスは最初から光の剣:スーパーノヴァの一撃を放ちますが、それは火力があるだけだと一蹴、距離を詰めて砲撃を封じつつ接近戦に持ち込みます。盾として使いつつ、アリスは床に向けて砲撃を放ちます。床の崩壊と土埃に紛れてゲーム開発部はその場を脱出に成功します。

 おそらく数ある保健室のどこかへ逃げたのだろう、とアカネが推測したものの、ネルはこれ以上追わなくていいと言います。逃げられた時点で負けたと解釈したのか、確認は終わったから当初の目的は果たしたのか、あるいはそのどちらかでしょう。

ミレニアムプライス

 アリスが床を崩壊させた一件はC&Cが処理してくれたようです。

 時はミレニアムプライス発表まで進み、一位までゲーム開発部の名前は出てくることなく、部室内には緊迫した空気が張り詰めます。

 そして一位の発表が新素材開発部のものだと分かるや否や、モモイがテレビを銃で撃って破壊してしまいます。どうせ部室の退去と共に捨てられるのだからとヤケになっていた所にユウカが走ってきて、おめでとうと口にします。

 実は一位の発表の後、特別賞として設けられた枠にTSC2が入選していたのでした。特別賞が設けられた理由は、実用性に焦点を当てて評価するミレニアムプライスの選考基準において娯楽であるゲームが表彰されることは相応しくないが、ノスタルジーや面白さを感じさせるTSC2が表彰されないのもまた相応しくない、とのことでした。
 Web版の評価も上々であり、成果を出したゲーム開発部は晴れて部の存続を許された、という形で時計じかけの花のパヴァーヌ編一章は幕を閉じます。

伏線

 一章内では回収されない伏線であったため、振り返りの中では触れなかった要素について触れていきます。まずエピローグの最後にモモイのGGASPにDivi:Sionと映し出されたカットで話が終わります。

 モモイのGGASPはG.Bibleを緊急保存した媒体ですが、そのパスワード解析の際にマキがG.Bibleの中に<key>というフォルダがあった、と言っていました。G.Bibleの中身は閲覧出来たものの、<key>については解読できない、信じられない構成と語っており、異質さを際立たせています。

 G.Bible関連とは別に、アリスが単独でセミナーを襲撃した際にアカネが六番目のエージェントとして育てたいと言及しています。五番目のエージェントであるトキの初登場はこれから約二年先の二章でした。

話を整理していく

 大筋としては、廃部の危機に陥ったゲーム開発部が紆余曲折ありつつも自分たちの力で成果物を作り出して部を存続させるという話ですが、最終編やその後に繋がる要素も数多く登場したのでその辺りを整理していきます。

結局G.Bibleとは何だったのか

 G.Bibleと<key>が全く別種のものであることを理解するために必要な前提知識について書き連ねていきます。

 キヴォトスという世界の歴史はプレイヤーの観測内で大きく二つに分けることができ、それが名もなき神が主権を握っていた時代と、忘れられた神々が主権を握っている時代の二つです。今後の話を分かりやすくするために便宜上前者を旧キヴォトス、後者を現キヴォトスとします。この辺りの話は最終編で抽象的に触れられました。

 作中で登場するオーパーツやAL-1S、アトラ・ハシースの箱舟やウトゥナピシュティムの本船などは旧キヴォトスに生まれて現キヴォトスに残っている遺産であり、その技術基盤は現キヴォトスの物と全く異なるとされています。それらのオーパーツについて研究しているのがリオです。

 G.Bibleは現キヴォトスで作られたものでありながら、その中には旧キヴォトスの技術で作られたデータである<key>が保存されている、というのがG.Bibleが分かりにくくなっている要因です。

 この場合、論点はオリジナルのG.Bibleが<key>を保存していたのか、<key>は後付けなのか、でしょう。そしてその答えはほぼ後者だと思います。

 ヴェリタスはG.Bilbeを作成者と転送履歴からオリジナルだと判断していましたが、ゲーム開発のマニュアルに旧キヴォトスのデータを仕組むとは考えにくく、何らかの意図があって後付けされたと考えるのが自然です。旧キヴォトスの技術を保存出来るだけの技術的優位があれば、複製ファイルのオリジナル偽装程度なら簡単でしょう。

 ではどうしてG.Bibleに<key>を後付けしたのか、その理由はG.Bibleを手に入れた人にAL-1Sを出会わせたかったから、だと推測します。僕はこの世界が二周目かそれに準ずるものだ、とする説を支持しているので、G.Bibleを巡る一件はループ前に準備された連邦生徒会長の思い描いたシナリオではないか、と思っています。これ以上は妄想が過ぎるのでここまでに留めますが、つまりはG.Bibleは噂が先行していることを連邦生徒会長が利用した便利な舞台装置だった、とするのが僕の考えです。

ケイはどこにいるのか

 G.Bibleの中に<key>が保存されていますが、二章や最終編ではアリスの表層人格を乗っ取る形でケイが表れています。AL-1Sの中のkeyとG.Bibleの中の<key>の二つが存在することになってしまいますが、これについてはAL-1Sにいるのがケイの本体であり、G.Bibleの中の<key>はそのバックアップである、と解釈しています。これは最終編のエピローグでGGAPSの中のファイルがケイのセーブデータに書き換わったことを根拠とする予想ですが、これに関しては情報が少なく断定は出来ませんでした。

相関図を整理する

 相関図として表すとこんな感じになると解釈しています。連邦生徒会長が関与していることや、keyの分離についてはかなり個人的な解釈なので、この図に絶対的な正しさはなく、解釈の幅として問題ない範囲に収まっているものと捉えて頂きたく思います。

おわりに

 ここまで時計じかけの花のパヴァーヌ編一章の流れを振り返りつつ、モチーフの考察や他ストーリーとの関連性を解説していきました。
 繰り返しになりますが、記事での作品の解釈はあくまで僕個人の読み方であり、答えを定める目的ではありません。この記事を読んでストーリーの読み方の幅を少しでも広げられたなら幸いです。

 次回はこのストーリー読み直し記事を書くきっかけでもあった、エデン条約編を順に振り返っていこうと思います。

 最後に僕の自己紹介をさせて下さい。ずゆです。普段はpixivでブルーアーカイブの二次創作小説を書いています。そちらの方もよろしければぜひ。
 またどこかで見かけたらその時はよろしくお願いします。それでは。


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