安倍元首相の暗殺

私は職場の同僚から「安倍さん撃たれた」と聞き、衝撃を受けた。
元警察官として、これが事実だとしたらどれだけ重大なことかと、鳥肌が立つほどだった。
Twitterでは事件当時の動画多く上がっており、どういう状況で撃たれたかは一目瞭然で、警察の警護体制の不備を指摘されても当然だと私自身も感じた。
今回は安倍元首相のご冥福をお祈りするとともに、手製の銃による殺人未遂(すでに殺人に切り替え)事件について、様々な角度から検証したいと思う。

  • 手製の銃に関して

私は警察官時代に銃砲の許認可担当の経験がある。
SNS上では当初犯人が使った銃はアメリカ製でも規制されている銃で日本では許可にならない、等という情報が出ていたが、実際は犯人が自身で作った銃であった。
ハーフライフル(散弾銃の半分くらい)のようなサイズで、銃口が二つあり、銃把(持つ部分)もあったので、これを把持し人に向ける=標的を狙っているという容易に想像できると思う。
元自衛官の犯人が照準を合わせる態勢は明らかに銃を構える姿勢だった。

  • 殺人未遂事件

安倍さんは、銃弾に倒れ心肺停止の状態で緊急搬送されました。
犯人はその場で殺人未遂の現行犯人として逮捕されました。
逮捕罪名と逮捕種別については争う余地はないでしょう。
警察官の面前で、銃口を被害者に合わせ銃弾を発射させそれが命中、被害者は倒れ心肺停止の状態→現に罪を行い終わった殺人未遂の犯人を、見失うことなく取り押さえ、逮捕した。
犯人が自身で殺意を認める供述をしており、また安倍さんの遊説予定を確認し、銃を試し撃ちした等、事件を立証できる秘密の暴露があるため、この被疑事実が覆ることはないと思う。

  • 安倍さんの警護に関して

今回警視庁のSP1名、奈良県警の応援数名で対応していたということだが、警護は完全に失敗、対象を死亡させるという最悪の結果を招いてしまった。
SNS上の動画を見ると警護体制の不備は指摘されて仕方ないと思う。
1発目の発砲の後に3秒程度時間があり、この時に対象に覆いかぶさるまたは飛びついて倒す等は間違いなくできた。
犯人の直近にいた背広姿の男性はおそらく奈良県警の警察官かと思うが、1発目の発砲後さらに照準を合わせる犯人に対して何もアクションをしていない。
この動きが全く理解できなくて、何度も見返したが、不作為(やるべきことはわかっているが何もしないこと)にしか見えなかった。
殺人の幇助罪が成立するのではというくらい、何もしていない。
※ちなみに幇助罪について、例えばスーパーの警備員が万引き犯人を発見したにも関わらず、見て見ぬふりして逃した、つまり捕まえるという行為をしない(不作為)も窃盗の幇助が成立すると考えられています。
あの直近の警察官が取り押さえていればと、本当に悔やまれます。

  • 警護経験の差が原因か?

警視庁と奈良県警では規模が違うので、警衛や警護の取扱い件数に差があることは明らかです。
私が所属していた警察署では月に一度は必ず天皇皇后両陛下の車列の警衛がありましたが、どの警察署に配属されても警視庁の警察官は誰もが必ず複数回警衛や警護を経験することになる。
しかしながら警護経験が少ないからとか、人員が少なかったからというのは言い訳でしかなく、元首相が来訪するのであれば、より綿密な計画と的確な人員を配置してほしかったと思う。
ただ私の個人的な考えとしてはどれだけ多くの経験豊富な人材を配置しても、事案が発生した際に個人で判断して動けるかどうかが重要だと思う。
1発目の大きな音を聞いた時に1人でも銃声だと判断でき、「伏せろ」と大声で叫べるか、安倍さんに飛びつけるか、最終的には個人個人がどれだけの強い思いを持って警護に入っているかそこに尽きるだろう。

  • 今後の展開

警察庁を始め、全国警察が今回の事件を重く受け止めて改善策を推進していくでしょう。
これだけ大きな事案が起こってしまったことで、上の人たちは警衛警護の訓練の大規模な見直しや配置人員の確保、全て刷新することが予測される。
しかしそうじゃないもっと基本的なことから見直す必要があると私は感じる。
私は警察官1人1人の判断力を養うトレーニングの推進と成果主義の導入が必要だと考える。
現職時代は同僚ともしこの犯罪が起きればどうやって犯人を特定するか、どうやって事件化して犯人を起訴までもっていくかをよく話し合ったものだ。
実際事件が起きた際、例えば「万引きの犯人を捕まえた」という110番がコンビニ店員から入った場合であれば、交番勤務の私が考えることはこうだ。
①万引き事件の事件送致必要な書類は何か②現場に1番に到着したら何をするか③では2番に着いたらどうするか④犯人が未成年だったら・・・等々、点で考えるのではなく線で考えて、⑤刑事課の担当係長は〇〇だから処理が早いから最終的に大体何時くらいまでかかるから家族にはこれくらいに帰るって連絡しよう、110番が入った瞬間に自分自身の着地点まで想像できることが重要である。
成果主義に関しては、いうだけ無駄かもしれないが、警察組織にも一定数働きアリとそうでないアリがいて、20%くらいの働きアリで運営している。
やってもやらなくても評価、つまり給料が変わらないのであれば、誰しもいつか腐ってしまう。
見える成果を出すのが難しい仕事ではあるし、その成果は1人で出せるものでもないので成果主義の導入は今後ないとは思うが、国民のために真面目に働く警察官をもっと大事にできる組織になってほしいと願う。

今回のような事案を想定した訓練を何百回実施したところで、警察官個人個人の意気込みがなければ全く無意味な自己満足の訓練になってしまうだろう。
回数をこなすことで「大きな音が鳴った場合は警護対象に飛びつく」「背後の警戒を怠らない」等の基本的な習慣は身に付くかもしれないが、根本的に個人の判断力を養えるOJTをもっと導入すべきで、判断できない人間は現場に出すべきではない。
今回安倍元首相が暗殺されるという事案で警察の失態が大きく取り上げられているが、警察官の判断が悪く発生している問題は無数にあるだろう。
警察官個人個人が成長する機会と捉えて組織が変革していくことに元警察官として期待している。


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