二年前の日記 4/24

2017/04/24

 フランスの大統領選挙は事前にマスコミ各社が報道していたように、マクロン氏とルペン氏の2人が勝ち抜けたようである。余程特別なことが起きない限り、決選投票もマスコミの予想通り、マクロン氏が勝利することだろう。

 アメリカのトランプ現象を例に出して、まだルペン氏の可能性もあるという人もいるが、マクロン氏とルペン氏の勢力はトランプ氏とクリントン氏のように拮抗してはいない。一次投票で敗北した候補者の支持者の大部分がマクロン氏に投票するであろうことを考えると、ルペン氏には既に勝ち目はない。決選投票までにパリでもう1つ2つテロが起きたとしても、おそらくマクロン氏優勢は変わらない。市場はそれを理解しているので、株価は上がり、「有事の円買い」も起きずに円は安くなっている。今頃EUもさぞかし安堵していることだと思う。そして何より、トランプショックで面目に傷がつけられた報道各社は、予想が当たってホッとしているに違いない。

 ところでその報道に、ちょっと気になるところがあった。今回決選投票には進めなかったが、おそらく3位か4位の得票を獲得した候補に、メランション氏がいる。このメランション氏、急進左派と言われているのだが、自分には急進左派と極左の違いがわからない。ルペン氏率いる国民戦線のことは極右と呼ぶのに、メランション氏のことは各マスコミ揃って急進左派と呼んでいる。何故だ。極左と呼んではならない理由でもあるのか。

 マスコミ大手でメランション氏の陣営に極左という言葉を使っているのは、ざっと見たところロイターのコラムくらいしか見つからなかったのだが(ロイターも記事では急進左派と書いている)これは印象操作ではないのか。それとも急進左派と極左の間には明確な違いがあるのか。Wikipedia によれば極左も急進左派も同じということなのだが、まあWikipedia がいつも正しい訳ではない。マスコミの解釈の方が正しいという場合もあろう。しかしその解釈がよくわからない。何が基準なのだ。どこがどうなれば極左になり、急進左派になるのか。

 報道によれば、メランション氏はキューバの故カストロ氏やベネズエラの故チャベス氏らを信奉し、ロシアに憧れているという。本当に極左ではないのか。ていうか、これフランス大統領にしちゃいけないタイプの人間にしか思えないのだが。

 ミッテラン氏は社会党だったが、ここまで左に寄ってはいなかったと思う。何事もバランスというものがある。ルペン氏も右に寄りすぎているきらいはあるが、メランション氏ほどぶっちぎってはいないのではないか。繰り返すが、彼はフランスの大統領にはしてはいけないタイプである。

 EUの、西側ヨーロッパの屋台骨たるフランスの大統領がこんなのでは、国際社会に与える悪影響が計り知れない。ルペン氏はEUからの脱退を訴えているが、メランション氏はNATOからの脱退を叫んでいる。非常に危険な人物であると思われる。まあ、今回メランション氏は一次投票で敗北した。フランスの有権者も馬鹿ではないということであろう。

 ただ、メランション氏の大統領選挙はまだ終わっていない。5月7日の決選投票において、彼の支持者が誰に投票するかは、メランション氏の一言で決まると言われている。それほど忠誠心の強い支持者――信者というべきか――を彼は抱えているのだ。本当に極左と呼ばなくて大丈夫なのだろうか。まあ、メランション氏が正反対の思想を持つルペン氏を支持するとは考えにくい。普通に考えればマクロン氏への投票を呼びかけるだろう。それで一件落着である。

 とにかくこれで、一旦フランスは落ち着いた。次は6月のフランス国民議会選挙、そして9月のドイツの連邦議会選挙である。一部報道では、もうドイツの選挙に向けてロシアが偽ニュースを流し始めているという。本当かどうかは知らないが、怖い話ではある。日本にとっては、EUがしっちゃかめっちゃかになるのは困る。なるべく安定してくれることを祈るだけだ。


 ローマ法王が難民キャンプのことを『強制収容所』と言い表したことが波紋を呼んでいるという。例によってユダヤ人団体が抗議しているらしい。しかし強制収容所に入れられたのは歴史上ユダヤ人だけではない。アメリカでは日系人だって収容されているし、他国の歴史を探せば、同様のことはいくらでも見つかるのではなかろうか。確かにナチスがユダヤ人を強制収容所に押し込めて虐殺したのは歴史上の悲劇である。しかし、「それに並ぶ悲劇は存在しない」と主張するのはいい加減どうかと思う。

 ユダヤ教では唯一絶対神を奉じている。それはキリスト教の『主』や、イスラム教の『アッラー』と同じ神であるという。つまりユダヤ人とは、唯一の正しい神を信仰し、なおかつ人類史上最大の悲劇を体験した民族である、と彼らは言いたいのだ。それって自らを神格化していないか。神に対して不敬ではないのか。

 確かにローマ法王は公人中の公人である。その言葉に対し慎重さが求められるというのはわかる。しかし法王にも言論表現の自由はあろう。難民キャンプを見て、強制収容所としか思えなかったのだとしたら、それを口にして何が悪いというのか。世界中の人々が自分たちに同情しないのはけしからんとでも言うのか。

 別に自分はナチスのユダヤ人虐殺を否定したい訳ではない。だが人間個人にとって何が悲劇かというのは人によって変わる。歴史上の100万人の死より身内の1人の死の方が悲しいというのは特別おかしな感覚ではない。今回ローマ法王は、キリスト教徒の妻を過激派に殺されたイスラム教徒の難民に同情して発言し、その中に強制収容所という言葉が含まれていた。ローマ法王がその難民の中に、その言葉を使うだけの悲しみを見たのだとすれば、いちいち単語をあげつらって非難する意味など何処にあろうか。それはそれ、これはこれなのだ。


 アフガニスタンのマザリシャリフ近郊の陸軍基地がタリバンに襲撃され、約150人が死亡した。死者数はまだ増える可能性もあるという。もの凄い事件だと思うのだが、相変わらず日本のマスコミではほとんど取り上げられない。まあ今は仕方ないのかもしれないが。とにかくお悔やみを申し上げる。

 中東はどこもかしこもややこしい国が多いが、中でもアフガニスタンは一際ややこしい。中東の国で内戦になっているといえば、だいたい大雑把に言うと、イスラム教スンニ派とシーア派の対立か民族対立、そこにISが絡んでくるというのが基本である(ほら、この時点でややこしい)。ところがアフガニスタンの場合は様子が違う。

 アフガニスタンは多民族国家なのだが、その中心となる多数派民族がパシュトゥン人である。宗派はスンニ派が多数を占める。対するタリバンもそのほとんどがパシュトゥン人だと言われている。そもそもムハンマド・オマルが開いたイスラム教の神学校で学んだパシュトゥン人の集団が、タリバンの母体となっている。宗派はもちろんスンニ派である。つまり今起きているアフガニスタン国内の戦いは、同じ宗教、同じ宗派、同じ民族同士の殺し合いなのだ。

 それなら何故戦う必要があるのか、普通の日本人的感覚ならばそう思うのだろうが、それはざっくり言ってしまうと、イスラムの教義を厳格に守るかそうでないか、その勢力争いなのである。現在のアフガニスタン政権は、「比較的それほど厳格にイスラムの教義を守らなくてもいいだろう派」であり、欧米が支援している。対するタリバンは「イスラムの教義をとにかく厳密に守らねばならない派」であり、パキスタンの支援を受けている。世俗主義対原理主義とも言えるが、アフガニスタン政権は言うほど世俗主義ではないらしい。「比較的穏やかな原理主義」対「極めて厳格な原理主義」と言うべきか。

 だがタリバンの主張する原理主義は、あくまでも「パシュトゥン人にローカライズされたイスラム教」に基づくものであって、必ずしもコーラン(クールアーン)に忠実という訳ではないのだそうな。ホントややこしい。

 そしてそのややこしいところに一枚かんでくるのが、どこにでもいるISである。先日アメリカが非核通常兵器では最大級の威力を持つと言われるMOABを投下し、94人が死亡したというニュースがあったが――ISは死亡者など出ていないと言っていた――あれがアフガニスタンのIS勢力だ。

 大きなくくりで見ればISもタリバンも同じスンニ派であるが、スンニ派の中でも細かく宗派が分かれており、厳密には同じ宗派とは言えない。らしい。もうここまで来るとさっぱりわからん。とにかくISとタリバンは敵対しており、政府軍との間で三つ巴の戦いが繰り広げられている。その辺はシリアやイラクでも見受けられる通り。ISはどこの国でも事態の混迷化に拍車をかける役割しかしていない。それはそれで大変に鬱陶しいのであるが。

 あ、あとアルカイーダってあったな。今どうなってるんだろう。

 とにもかくにも、アフガニスタンは混迷の極みである。ちなみに外務省の海外安全ホームページでは、アフガニスタン全域が真っ赤っか、レベル4の退避勧告が出ている。この混迷が収まる日は来るのだろうか。

※ フランスの大統領選挙は、大方のマスコミの予想していた通りの結果になりました。まあそれだけ面白味のない選挙だったのかも知れません。
 何食わぬ顔でアフガニスタンを中東って書いてますが、厳密にはアフガンは中東ではない、という話もあります。でも、それじゃどこからどこまでが中東なのかと言うと、それも諸説あるようです。ホント、あの辺はいろんな意味でややこしい場所です。

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