二年前の日記 11/23

2017/11/23

 アジア最大の映画の都と言えばインドのボリウッドであろう。実際にボリウッドという地名があるわけではないが。ムンバイ(旧ボンベイ)に映画産業が集まっているのをハリウッドに見立てて、ボンベイのハリウッドという意味でボリウッドである。

 さてそんなインド映画のある新作が公開間近になっていた。タイトルは『パドマーバティー』、過去に実在したヒンドゥー王朝のパドマーバティー王妃の運命を描く歴史大作だという。しかしその公開が延期された。ヒンドゥー系の右翼団体から「歴史を歪曲している」として、執拗な脅迫を受けたためであるという。どんな脅迫かといえば、主演女優の鼻をそぐとか、首を切り落とした者に賞金を出すとか、どこの未開蛮族だと言いたくなるような酷いものである。また、映画館を襲撃したり、撮影現場に押しかけて監督やスタッフに襲いかかる騒ぎもあったのだそうな。

 そもそも右翼団体の連中は何をいったいそこまで怒っているのか。歴史上のパドマーバティー王妃はイスラム勢力に攻め込まれたとき、身を守るために焼身自殺したのだが、今回の映画の中ではイスラムの君主と恋愛する夢を見るシーンがある、という『噂』が流れた。監督側はそんなシーンはないと明言しているのに、右翼団体側は聞く耳を持たない。そして執拗な脅迫と抗議活動を続けた結果、「問題のシーンを削除するまで公開は認めない」という州が出てくるまでになってしまった。もう政治まで巻き込んだ大騒ぎになっている。まったく法律より先に宗教が出てくる連中は度しがたい。ただ。

 公開を認めないと言い出した州はインド人民党が多数派を占めている。女優の首を切り落とせと言い出したのも、実はインド人民党の党員だという。インド人民党はインドの国政与党であり、当然それを率いるのはモディ首相である。そしてモディ首相はヒンドゥー至上主義者である。

 今回の騒ぎにモディ首相が関わっているかどうかは定かでないが、何らかの政治的な思惑があるのではと邪推されても仕方あるまい。ボリウッドの映画関係者には政治家に連なる者も多数いるだろうし、中にはこの映画が公開されてほしくないと思う者もいたかもしれない。右翼団体が勝手に勘違いして、勝手に騒ぎ立てただけならば単に間抜けな話だが、そんな単純な話でもないのかもしれない。闇のない国も業界もない。ああ怖い怖い。


 核という言葉に拒絶反応の出る人がいる。核とか原子力とか、とにかく生理的に全部駄目と言う人は、これから遠雷に怯えねばならないのかも知れない。

 雷が起きると、ガンマ線が発生する。このガンマ線が大気中の窒素の原子核に衝突し、核反応を起こすらしい。京都大学、東京大学、北海道大学などの研究チームがこの反応を検出したと発表した。

 自分の頭ではついて行けないレベルの話なので詳細は割愛する。興味のある方は「雷 ガンマ線」で検索していただきたい。まあとにかく、核反応というのは自然現象であり、身近なところに転がっているものであるということだ。十把一絡げに怖がっても仕方ない。

 確かに核ミサイルを向けられるのは怖い。原発も事故を起こせば怖い。しかしだからといって、核兵器配備論や核エネルギーの研究開発も全部否定してしまうのは違うだろう。それは「放射能がうつる」といって転校生をいじめる子供の思考と大差ない。それはそれ、これはこれで考えなければ、雷が鳴るたびに防護服を着なければならなくなる。

 面倒臭いのは理解できるが、「全部まとめて全否定」という姿勢は、いい加減やめた方が良いのではないか。感情論では世の中は動かない。ひとつひとつ個別に対応することが、結果的には世の中を動かすことにつながるのではないかと思うのだが。


 ジンバブエのムガベ氏は、なんだかんだすったもんだの挙げ句、大統領を辞任した。流血の事態が避けられたことはまあ良かったのではないか。後任には先般第一副大統領を解任されたムナンガグワ氏が就くらしい。

 これでムナンガグワ氏が良心的で有能であれば、ジンバブエは無事新しい時代を迎えられることとなる。ただこのムナンガグワ氏の渾名は『クロコダイル』と言うのだそうだ。あまり優しげな呼び名ではない。ジンバブエが民主国家となるためには、ムガベ王朝の打倒は必須であったのだろうが、このまますんなり行ってくれるかどうかはまだ不明である。とりあえず、「ムガベ時代よりはマシ」と国民が思えるような国になることを祈っている。


 我々は肉を食う。それは当然牛や豚を殺して食っている訳だ。ではこんな企画があったらどう思うだろう。

「みんなで牛に石をぶつけて楽しみましょう。そして牛が死んだら、それを解体して焼き肉パーティを行います」

 結果的に殺して食うのだから、スーパーで肉を買うのと同じだ、と言う者もいるだろう。だがかなりの割合の人々は、それを不快に思うのではないか。

 神戸港開港150周年を記念して、メリケンパークに高さ30メートルのクリスマスツリーを立てるらしい。クリスマスツリーならばモミの木を使うのかと思えば、樹齢150年のあすなろを使うのだそうな。それも根から掘り出し、いわゆる生きたままの状態で移植して飾り付けをするという。そしてクリスマスが終わったら解体してバングル(腕輪)にする計画であると報じられている。

 我々の周囲には木材製品があふれ返っている。爪楊枝、割り箸から家に至るまで、木を切って切って切りまくって使い倒している。だから今更一本のあすなろを可哀想だと言うのはおかしいのかも知れない。ただ、だからといってこれが悪趣味だと理解できないのはどうよと思う。こんなことで阪神淡路大震災犠牲者への鎮魂とか言われても、鎮魂された方も困惑するだろう。やるのなら、これは最低のセンスだと理解してやるべきだ。

 凄いキモイことを、露悪趣味的なことを目立つためにあえてやるというのなら別に止めはしないが、まるでオシャレなことをやっているかのように催されても困る。自分は神戸には縁もゆかりもないが、「神戸の人って感覚おかしい」と言われるのを端で見ているのは悲しいものがあるのだ。

 まあこの木がどんな結末を迎えるのか、現時点では未定であるが、あまり格好の悪いことはやらない方が良いように思うところである。


※ 映画「パドマーバティー」は「パドマーワト」にタイトルを変更し、翌年1月に公開されると、年間興行収入3位となる大ヒットを飛ばしたそうです。声がでかい連中のいい加減さがわかります。
「世界一のクリスマスツリー」に使われたあすなろは、その後神社の鳥居になりました。なんじゃそら。

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