二年前の日記 8/24

2017/08/24

 天花粉という言葉はすっかり聞かなくなったが、ベビーパウダーのことである。滑石(タルク)とデンプンを主原料とするこの白い粉は、赤ちゃんの汗疹止めとしてよく使われる。だがそれ以外にも、大人の汗止めや化粧にも使われることがある。

 21日、アメリカ・ロサンゼルスの上級裁判所の陪審は、製薬・日用品大手であるジョンソン・エンド・ジョンソンに対し、同社のベビーパウダーが原因で卵巣がんを患ったとして、原告の女性に4億1700万ドル(日本円で約460億円)を支払うよう命じた。

 今アメリカでは滑石の発がん性が大きな問題になっているようで、ジョンソン・エンド・ジョンソン社に対しては幾つもの訴訟が起こされているらしい。その危険性を周知してこなかったと非難されているようだ。しかしジョンソン・エンド・ジョンソン社の広報は「当社のベビーパウダーの安全性は科学的裏付けがある」として、上訴すると表明している。

 本当のところはどうなのか。滑石に発がん性はあるのか。もしあるのなら、これは日本でも大問題になるだろう。もっとも、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は大口のスポンサーであろうから、日本のマスコミがまともに報道するかは微妙である。

 これは薬害ではないかと一瞬思ったが、薬害の定義とは「医薬品による害」であるのは間違いのないところであるようなので、日用品である天花粉による害は薬害とは言えない。では公害か? それも違うだろう。日本で問題となったとき、何と呼ばれるようになるのか、今から期待しておこう。おそらくはジョンソン・エンド・ジョンソン社に可能な限り気を遣った穏便な表現となるのだろうが。


 スポーツ仲裁裁判所は、裁判所と名が付いているものの、厳密には裁判所ではない。つまり明文化された法律に基づいて判断を下す機関ではないのだが、その裁定には強制力を持つ。比較的最近の話題としては、ロシアの陸上選手がリオデジャネイロオリンピックに参加出来なかったのは、このスポーツ仲裁裁判所の裁定による。

 さて、ノルウェーのクロスカントリースキーの選手にテレーセ・ヨーハウグという選手がいる。今年2月、ノルウェーのオリンピック・パラリンピック委員会は、彼女に対し、13か月の出場資格停止処分を科した。ドーピング検査で禁止ステロイドに陽性反応を示したことが理由である。しかし国際スキー連盟はこれに抗議をした。処分が重すぎる、と言ったのではない。軽すぎるとして、スポーツ仲裁裁判所に、処分の延長を申し立てたのだ。これに対してスポーツ仲裁裁判所の出した裁定は、18か月の出場資格停止処分。5か月延びたのである。その結果、彼女は平昌冬季オリンピックに参加できなくなってしまった。

 まあ禁止ステロイド使ったんなら仕方ないんじゃない、そういう声はあるだろう。ただ彼女の主張によれば、ステロイドが含まれていたのは日焼け止めのために使ったリップクリームであり、実際スポーツ仲裁裁判所も、「パフォーマンスを向上させるに十分な量ではない」とし、彼女が故意に違反行為を犯した可能性については排除している。なのに出場資格停止処分が延長されたのは、「リップクリームのパッケージを確認する注意義務を怠った」ことに過失があるというのだ。

 何かそれおかしくないだろうか。仕事で薬剤師でもやってるのならともかく、一般的なスポーツ選手がリップクリームのパッケージの成分表示を見て禁止ステロイドが使われているかどうかなど判断できるものだろうか。飲み物食い物になら気をつけるだろうが、リップクリームにまで気をつけなければならないというのは、ちょっとやり過ぎのような気がする。公平を期するというのもわかる。しかし、ロシアのように国家ぐるみでデータを誤魔化していたとかいうのとは訳が違うだろう。出場資格停止処分を5か月延長したことに妥当な理由は本当にあるのだろうか。

 テレーセ選手はノルウェー国内ではこの10年間トップクラスの選手であり、バンクーバーオリンピックではリレーで金メダルも獲得している。国内にも国外にもライバルは多い。彼女がいなくなれば自分の順位が一つ上がると喜ぶ者もいるのではないか。スポーツ界もまた魑魅魍魎の行き交う世界なのだろう。何とも怖い話である。


 先の東京都議選で圧勝した都民ファーストの会であるが、その内側から不満の声が漏れ聞こえてきているという。簡単に言うと、議員がSNSなどで自由に発言することを、会が禁じているらしい。転ばぬ先の杖ということだろう、まだ政治家としての経験の浅い1回生議員ばかりを抱えている都民ファーストの会としては、無駄なこと、余計なこと、馬鹿なことを勝手に発信されて他党から揚げ足を取られてはかなわないというのはよくわかる。

 とはいうものの、議員は都民の負託を受けている。もっとわかりやすく書くと、都議会議員の給料は都民が払っている。都民ファーストの会が自力で金を儲けて傘下の議員に給料を支払っている訳ではないのだ。ならば都議会議員が都民に向けて情報を発信することを、いかに所属政党だからといって全て禁止するというのはやり過ぎではないか、という声が出て来るのは当然と言えば当然である。

 このまま締め付けてばかりいれば、いずれどこかに穴が空くだろう。そうなれば蟻の穴から堤の崩れ、ボロボロと問題点が次々に噴出することになるかも知れない。いずれかの段階で緩める必要はあるのではないか。しかしその為にはまず党内ルールを作る必要があろう。都議会議員の皆が納得し、厳格に守れる党内ルールを作れるかどうか、それが都民ファーストの会の今後を占うのではなかろうか。

 小池都知事は果たしてどうするのだろう。口出しせずに現場に任せていられるだろうか。難題は山積みである。日本ファーストの会も動きが見えない。都政も国政も、しばらくは小池都知事の顔色を見ながら流動的な状況が続くような気がする。


※ 日本ではジョンソン・エンド・ジョンソンの裁判は、ほとんど知られていないのではないでしょうか。ベビーパウダーの危険性が議論されたなんて話は、まるで聞こえてきません。マスコミが商売なのはわかりますが、政府は商売ではないでしょう。厚生労働省はどう考えてるんでしょうね。

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