二年前の日記 12/24

2017/12/24

 1989年の6月4日、中国において民主化を求める学生たちを中心とした運動を軍が武力弾圧した、いわゆる天安門事件が起きた。その当時の駐中国イギリス大使が本国に向けて打った外交機密電報が公開され、AFPがその内容を確認したところ、天安門事件で殺された一般市民の数は、「少なく見積もっても1万人」と書かれてあったそうだ。

 もちろん公文書であるからといって、その数字が正しいと思い込むのは早計である。そのイギリス大使が死者の数を自分の目で数えたわけではあるまい。だから不正確な数字であることは前提として置きつつ、しかしこういう説があるという事実は頭に入れておいても良いだろう。

 AFPによれば最近機密が解除されたアメリカの文書にも同様の記述が見られる、とフランスの中国研究家が述べているらしい。それが事実なら、多少数字の信憑性は上がる。

 なおAFPと同様に、公開されたイギリスの機密情報をソースとするニュースとして、共同通信と時事通信は「英国の研究部門」が北京での死者数は「1000~3000人と見積もっていた」と、「香港紙の明報が」伝えたと報じている。イギリス大使の電報については触れていない。イギリスまで確認に行く余裕がなかったのかも知れない。みんな貧乏暇なしで大変だ。もちろん嫌味である。

 とはいえ、共同通信や時事通信の情報に見るべきところがない訳ではない。共同通信によれば、「鎮圧は4段階の作戦で行われ、武器での威嚇など最初の3段階が失敗したため、最終的に山西省から来た人民解放軍の27軍の装甲車が出動、武力鎮圧した。27軍の兵士は6割が非識字者で、演習参加のため天安門に行くと伝えられていたという」と、変なところが詳しい。

 時事通信も、「広場にいた学生は1時間以内に退去するよう通告を受けたものの、5分後には装甲車の攻撃が始まったという」と書いてある。軍による勇み足であったのか、単なる伝達ミスなのか、それともすべて承知の上での行動だったのか、これだけではわからないが、とりあえずバランスを取ろうとしているように見える記事ではある。

 まあ当時の報道では死亡者は数百人から1000人余りだったというから、3000人でもショッキングな数字ではあるのだが――Wikipediaによれば当時のソ連は「3000人の抗議者が殺された」との情報を得ていたようだ――1万人に比べれば随分と印象が柔らかい。中国の人口を考えれば誤差のような数字である。香港の明報はともかく、共同通信や時事通信がどういうつもりで3000人と報じたのかはわからないが、自分的にはあまり良い印象はない。いったい何のための配慮なのか、誰のための気遣いなのか、中の人に聞いてみたいところではある。


 先日の国連総会でエルサレムの首都承認を世界から否定され、「アメリカを馬鹿にした奴らは忘れんぞ、覚えとけ(意訳)」と言い放ったアメリカであるが、22日にアメリカ国防総省が発表したところによると、中東の国カタールにF15戦闘機を36機売却することを決定したのだそうな。

 総額60億ドル(約6800億円)に上る大きなビジネスなのだが、カタールは先の国連総会の採決で、決議案に賛成票を投じている。つまりアメリカのエルサレムに対する首都承認を非難したのだ。ならば武器売却の話はなしだ、と卓袱台をひっくり返しても良かったようにも思うが、アメリカは結果的にそうしなかった。それは目先の金に目がくらんだというだけの話ではあるまい。

 カタールはいま、テロリストに援助しているという疑い、およびイランに接近しているという疑いをかけられ、サウジアラビアを中心とする他の中東諸国との関係が険悪になっている。周辺諸国からの陸路での物資は国境を越えられず、兵糧攻めに近い状態に置かれているのだ。いずれサウジアラビアが軍事侵攻するのではないかという噂もある。ならば今回アメリカがカタールに売ったF15戦闘機は、サウジアラビア軍を攻撃することになるかもしれない。そのサウジアラビアはアメリカの同盟国であり、その軍の装備はほとんどがアメリカ製である。F15も多数保有している。

 現在アメリカはシリアやイラクでのIS掃討作戦、およびアフガニスタンでのタリバン掃討作戦のため、カタールの空軍基地を利用している。これを失いたくないという考えはあるだろう。それにただでさえイスラエル寄りの立場を取っているのだ。いま中東が不安定化すれば、これまで保持していた中東におけるアメリカの影響力を手放すことになりかねない。そんなことになれば、ロシアが大喜びで駆けつけてくるはずだ。それだけは避けたい。だからこそ、カタールに武器を売って軍事的な均衡を生み出しているのではないか。

 もっとも、F15戦闘機を36機、今日明日に引き渡すなどできる訳がない。全機引き渡すには数年かかるだろう。その数年のうちにサウジアラビアが侵攻しないとも限らない。そう考えると、アメリカの対応は少々泥縄的であるとも言える。危ない橋を渡っている感もある。天下の超大国も落ち目になったと言わざるを得ない。だがそれでも、腐っても鯛である。まだまだアメリカには頑張ってもらわねばならない。苦しいところもあるかとは思うが、なんとかひとつ。


※ 世間はクリスマスです。家に閉じこもっているので、まったく実感が湧かないのですが。もういくつ寝るとお正月ですね。ホントにまったく実感が湧かないのですが。
 カタールと、それを包囲するアラビア半島諸国との断絶は、現在も続いています。当初は簡単に干上がってしまうのではないかと思われたのですが、どっこいいまもカタールは健在です。いかに天然資源に恵まれているとは言え、それだけが理由ではないでしょう。この地力の強さは参考にすべきかも知れません。

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