二年前の日記 9/20

2017/09/20

 フィリピンでは相変わらず麻薬戦争が続いている。ついでにIS系テロリストとの戦いもまだ続いている。北朝鮮のミサイルばかり報じられて、これらがまったく無視されているというのは、正直何とも怖い気がする。

 さてそんなフィリピンの麻薬戦争で、ここ最近相次いで十代の若者が警察に殺害されたのだという。何とも悲惨な話である。そのことをフィリピン国内の人権団体のトップが非難したのだが、それに対しドゥテルテ大統領は、

「なぜそれほど十代の若者に興味がある?ずっと疑問に思っている。お前は同性愛者か幼児性愛者なのか?」

と罵倒したとAFPの記事は伝えている。

 まず間違いなく言えることは、『同性愛者』とか『幼児性愛者』などという穏便な単語は絶対に使っていない。そんな丁寧な言葉を使う大統領ではないからだ。もっとキツイ、汚い、書くこともはばかられるような表現を使ったに違いない。それを何とか意味を違えることなく読者に配慮しながらAFPの記者が選んだ言葉が『同性愛者』と『幼児性愛者』なのだ。もしアメリカやイギリスでこのときの映像が報道されるとしたら、ピー音でぶつ切れの発言となるはずだ。まあそんなマスコミ側の都合など、ドゥテルテ大統領は知ったことではないのだろうが。

 警察が市民に銃を向けるというのは、考えるだに恐ろしい状況である。もし日本でそんなことになったら、など考えたくもない。だがそれでも、自分はドゥテルテ大統領を全面的に非難はできない。かつてのコロンビアや、現在のメキシコのように麻薬組織が国家を支配しているかの如き状態は、今のフィリピンよりさらに悲惨ではないかと思うからだ。

 フィリピンでは大統領を非難しても罵倒されるだけだ。麻薬に手を出さない限りは基本的には殺されない。もちろん例外は山のようにあるのだろうが、それでも麻薬組織の実態を報道しただけで記者が殺されるメキシコが、フィリピンよりマシな国だとは思えない。そうなりたくないのなら、何かをしなくてはならない。

 ドゥテルテ大統領のやり方は満点の正解ではないのだろう。だが一つの方法論を世に示したことは間違いない。犯罪をなくすためには悪い奴らを皆殺しにする、それは極めてシンプルな発想である。シンプルすぎるのが問題であると言えるほどにはシンプルであろう。贅肉のない、一切の無駄をそぎ落とした抜き身の思想。危険だが、簡単。誰にでも理解できる。国家が何を許可し、自らが何をなすべきかを遅滞なく広く国民に知らしめられる魔法の言葉。

「麻薬犯罪者は殺せ」

 人の命は重い。それは嘘ではないと信じたい。だが麻薬組織の人間の命と、麻薬組織に殺される人の命は同じ重さなのか。それは違うと思いたいではないか。ならば比較的重い方が、軽い方を殲滅するのは許されるのではなかろうか。そんな風に思ってしまったとしても、それを一概に罪とは言えまい。

 ただここに宗教とか民族が絡むと一気に歯止めが効かなくなり、民族浄化だジェノサイドだという話になる。そういう極めて危うい細い細いロープの上をゆらゆら揺れながら歩いているのがいまのフィリピンである。それは怖い、危険だ、失敗する、という声が出るのも当然というものだ。しかしだから何もしない、手をこまねいて見ている、という選択肢が許される状況では既にないのではないか。

 批判は批判として許されるべきだ。言論の自由は守られるべきだし全国民が大統領に迎合する必要なはい。しかしそれでも、ドゥテルテ大統領に希望の光を見出したいと願うフィリピン国民の気持ちもまた、大事にされるべきではないのかな、と自分は思うところである。


 第二次世界大戦末期、沖縄では日本で唯一地上戦が行われ、アメリカ軍と、そして本来味方であるはずの日本軍から追い詰められた――投降が許されなかった――沖縄の民衆は、いくつかの場所で集団自決に追い込まれた。天然の洞窟『チビチリガマ』はそんな場所の一つである。

 今月12日、そんなチビチリガマの内部が荒らされ、千羽鶴が引きちぎられたり遺品が壊されたりした。この件で16歳から19歳の少年4人が逮捕されている。調べに対し少年らは、「悪ふざけだった」「歴史について詳しく知らなかった」などと述べていると言う。これを聞いた沖縄の大人たちは悲嘆に暮れているそうな。

 だが自分の住んでいるところの歴史を知らないのは沖縄の人間に限った話ではない。そもそも人間は『地元』にあまり興味を持たない。興味を持つのはいつも遠く離れた地である。隣に住んでるオッサンの人生に興味が持てないのと同じく、自分が生まれ育った場所を特別視などなかなか出来ないものだ。

 例えばこのあいだ岸和田のだんじり祭について取り上げた時、岸和田岡部藩の名前を出したが、江戸時代の岸和田の領主が譜代大名の岡部家であったことを知っている岸和田市民はそれほど多くないと思う。そもそも岡部家が岸和田城の主となったのは徳川家光の懐刀として紀州徳川家を監視するのが目的であったとの説が有力なのだが、それを知っている岸和田市民もそう多くない気がする。そういうものだ。自分がそれを知っているのも岸和田市民ではなかったことが理由としてあるのではないか。岸和田市民ではなかったからこそ岸和田の歴史に興味を持ったのだろう。

 まあそんな所まで考えるまでもなく、東京都民は東京タワーには上らないし、大阪府民は『くいだおれ』や『かに道楽』で食事をしたりしない。繰り返しになるが人間とはそういうものなのだ。だからといってチビチリガマを荒らしたことが許される訳ではないが、大人たちが頭を抱えねばならんほど特殊なことでもないのではないか。本人たちが反省しているというのなら、これから教えてやれば良い。それだけの話である。


 19日、国連総会の一般討論演説において、トランプアメリカ大統領が登壇、日本の拉致問題を取り上げるとともに、「米国と同盟国を守らなければならない時、北朝鮮を完全に破壊するほか選択肢はない」と述べるなど、北朝鮮に対して強硬な態度を見せた。北朝鮮の国連大使は演説の途中で退席したという。

 果たしてどこまで本気なのか、トランプ大統領の腹の内は不明である。北朝鮮側もまさか額面通りには受け取らないだろうが、何の反応も示さないという訳にも行くまい。挑発がエスカレートする可能性もある。そしてその挙句、ついうっかりどこか人の居る所に本当にミサイルを落としてしまうかも知れない。もしかしたらアメリカはそれを望んでいるのだろうか、というのは考えすぎか。

 拉致問題に触れてもらえたというのは、日本としては喜ばしい事なのだろうが、さりとてこれで拉致問題が解決に向けて前進するとはとても思えない。まあ当面は北朝鮮の出方待ちである。


 メキシコは最近地震ばかりだな。今月7日にもメキシコ沖でマグニチュード8.1の地震があり、98人が死亡したとされている。その傷もさめやらぬ昨日19日、今度は内陸部でマグニチュード7.1の地震である。これを書いている時点で139人の死亡が確認されているという。

 震源が浅かったのかも知れない。震源から120キロ離れた首都メキシコ市でもビルが倒壊し、現時点で36人の被害者が出ている。さすがに地球の裏側である、日本が出来ることも限られていよう。それでも出来る限りの支援をしてもらいたい。

 メキシコには日本企業も進出しているし、何よりいま安倍首相はニューヨークにいる。決して近いとは言えないが、日本にいるよりはずっと近い。現地に乗り込めとまでは言わない。けれどメディアを通じて何らかの支援を表明するくらいは出来るだろう。あまり期待はしていないが、日本政府には頑張ってもらいたい。


※ ドゥテルテ氏はいまだフィリピンの大統領であり、麻薬戦争はいまも続いています。2016年の就任以来、麻薬戦争で死んだ人の数は、公式には約5000人。これだけでも物凄い数ですが、大統領を批判する団体は2~3万人が殺されたとも主張しています。ただ、麻薬組織が大きな勢力を持つメキシコでは1年間の殺人事件が3万件を超え、その大半が麻薬がらみだと言われています。さらにはまだ判明していない、死体の見つかっていない殺人が無数に起きているとも。メキシコでは警察どころか軍隊まで注ぎ込んでいるのに、麻薬組織を壊滅できていません。また麻薬を資金源としていた反政府武装組織と50年に渡って内戦を戦ったコロンビアは、先般内戦が終結し、武装組織も武装解除したのですが、その平和が再び脅かされています。その背後には麻薬で得られる金があります。麻薬とはそれほどまでに厄介な物なのです。欧州諸国や人権団体はドゥテルテ氏を非難しますが、EUに麻薬汚染から清浄化した国はありませんし、麻薬組織の壊滅方法を知っている人権団体もありません。誰も正解を知らないのです。その中でメキシコやコロンビアのようにならないために行動しているドゥテルテ氏に対しては、一定の評価を与えるべきだと思うのですが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?