二年前の日記 12/22

2017/12/22

 アメリカがエルサレムをイスラエルの首都と承認した件について、18日に安全保障理事会でその撤回を求めて採決が行われたが、アメリカが拒否権を行使し採択はされなかった。しかし今度は国連の総会の場でエルサレムの地位変更無効決議案の採決が行われた。総会にはアメリカであっても拒否権がない。結果、圧倒的多数の128カ国の賛成で決議案は採択された。反対は9カ国、棄権が35カ国だった。

 とはいえこの決議に拘束力はない。だからアメリカは無視しても特段困ることはないのだ。ただ世界からこういう眼で見られているという現実を見せつけられ、嫌な思いをするだけである。

 だがその「だけ」が相当嫌だったらしい。アメリカのヘイリー国連大使は決議に先立ち、次のような言葉を口にしている。

「アメリカに敬意を払わない国を私たちは忘れないだろう」(NHK)

「主権国家として権利を行使したことを巡り国連総会から攻撃を受けた日として、アメリカがこの日を忘れることはないだろう」(ロイター)

「この採決は米国民の国連に対する見方と、国連でわれわれを軽視した国々に対する見方を変えるだろう」(AFP)

 国際連盟を脱退する前の日本を彷彿とさせる激しい反応である。もっともこの件が直接的な理由となってアメリカが国連を脱退することはない。というか、舌の根も乾かぬうちに、アメリカは北朝鮮問題で国際社会の同意を得ようとするだろう。国際政治の世界とはそういうものだ。

 ただ、今回のこの結果をアメリカ国民がどう思うか。「世界がアメリカを攻撃している!けしからん!」と怒る人もいるかもしれない。だが「世界がアメリカを攻撃している。情けない」と思う人もいるはずだ。もし後者が前者を圧倒的に上回るようであれば、将来的にはトランプ大統領の弾劾ということにも繋がりかねない。そういう意味では、アメリカ政府の反応は決して過剰ではないのだろう。

 なお、日本は安保理での採決に続き賛成に回った。多少アメリカの機嫌を損ねても、中東諸国との関係を壊したくなかったのだと思われる。賢明な判断ではないか。何事につけ是々非々というのは大事である。まあ何が何でも日本政府を評価しない人たちは無反応なのだろうが。


 スペインのカタルーニャ州が独立を問う住民投票を実施したのは10月のこと。結果投票されたうちおよそ9割が独立賛成だったと州政府は発表したものの、スペイン政府はそれを認めず、カタルーニャから自治権を剥奪、州議会を強制的に解散させた。そして新たなカタルーニャ州議会を作るための選挙が昨日行われたのだが、どうやら独立賛成派が議席の過半数を占めるようだ。

 しかし第一党となったのは、独立反対派の政党であるという。投票率は80%に達したそうなので、この選挙結果はカタルーニャ住民の総意であると考えて良いのだろう。なんとも複雑な総意である。

 自分はカタルーニャの独立をどうこう言える立場ではないので、その是非について語るべき言葉を持ってはいない。ただ普通に考えて無謀だと思う。だが無謀は必ずしも悪ではない。無謀な挑戦が実を結ぶ可能性だってあるだろう。何が正しいのかは、実際のところやってみなければわからないのだ。

 とはいえ独立するにせよ、独立をやめるにせよ、カタルーニャの先に待つのは困難な道のりである。血を見ることなく平和裏に、とは行くまい。なるべくなら暴力沙汰は避けてもらいたいところであるのだが。


 南アフリカ共和国の政権与党、アフリカ民族会議(ANC)の党首選挙が18日に行われ、現職のズマ大統領を破って、ラマポーザ副大統領が勝利した。つまり順調に行けば、ラマポーザ氏が次の大統領になる訳だ。

 しかしANCは近年どんどん支持を失っており、ラマポーザ氏が大統領の職を譲り受けられるかどうかは不透明な状況だ。その主な原因はズマ政権内にはびこる汚職と3割に近い失業率である。この二つを何とかしないとANCへの支持は戻ってこないだろうし、それはすなわちラマポーザ氏が大統領の座に就けるかどうかということに関わってくる。

 そのラマポーザ氏が21日、党大会で演説した。その中で突然彼は、白人の所有する土地を収用――つまり取り上げるということだ――し、黒人貧困層に分配する方針を表明した。しかも白人地主には補償金を支払わないつもりだという。頭が痛い。

 白人富裕層からの土地収用というのは、先般クーデターまがいの政変で大統領の座を追われた、ジンバブエのムガベ氏が行った施策である。その結果農地は荒廃し、白人富裕層はジンバブエを脱出し、欧米からの投資は途絶え、ジンバブエ経済は崩壊したというのに、それを繰り返そうというのだ。

 もちろん、ラマポーザ氏は「経済や農業に悪影響を与えないようにする」と言っているのだが、政治家の「あいつらよりも上手くやる」という言葉が信用できれば誰も苦労などしない。これは失敗する。間違いなく失敗する。鉄板である。

 南アフリカの人口において黒人は8割を占め、貧困層も失業者も大半が黒人である。そこに白人から取り上げた土地を分配すれば、そりゃ黒人は喜ぶ。選挙でも票に繋がるだろう。だがその先はどうするのだ。

 土地は無限に湧いてくるものではない。一度分配してしまったら、二度目はない。それに農業を営むにせよ、不動産業を営むにせよ、知識も経験も必要だ。土地をもらっても大半の貧困層はそれを売ってわずかな金に換える事しか出来ず、貧困から脱却する手段にはならない。結局現金をばらまいているのと同じなのだ。効果など一瞬で終わる。国の将来にはまったく役に立たない政策である。

 選挙の票目当てにこんな馬鹿なことをするという時点で、ラマポーザ次期大統領のレベルも知れたものである。南アフリカ共和国はしばらくの間沈み続けるだろう。これまではアフリカ大陸の例外であったのだが、じきに例外ではなくなるに違いない。困った話だ。


※ ラマポーザ氏は無事に南アフリカ共和国大統領の座に就きましたが、白人の土地収容はまだ行われていません。そう簡単な話でもないのでしょう。今年7月に「大統領土地改革・農業諮問評議会」が作成した最終報告書によれば、「補償なしの土地収用」が可能となるのは、放棄された土地、投機目的で所有されている土地、非公式な居住地、所有者がいない都市部の建物などくらいであり、大規模な土地収用は無理だとのこと。まあこの件に関してはアメリカのトランプ大統領が「白人差別だ!」と噛み付いていますし、内政干渉だと主張しても欧米から距離を取られるのは確実です。強行してもメリットはない気がするのですが。

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