二年前の日記 2/28

2017/02/28

 テキサス州で行われる学術会議に出席するためにアメリカを訪れたフランス人の学者アンリ・ルッソ(Henry Rousso)氏が、ヒューストンの空港で拘束され、強制送還寸前まで行ったのだそうな。それは彼がエジプト出身だったからであるが、先般トランプ大統領が大統領令で名指ししたイスラム圏7カ国の中に、エジプトは入っていない。しかもその大統領令も連邦裁判所で差し止めをくらっているので、ルッソ氏を拘束する理由は別にないはずなのに、実に10時間に渡って身柄を拘束されたという。ルッソ氏を拘束した空港職員は「経験不足だった」と述べてはいるものの、謝罪はなかったそうだ。まあ、ルッソ氏にはお疲れさまでした、と言いたい。

 で、何でこの件を取り上げたかというと、空港職員の差別的姿勢に立腹したからではない。このアンリ・ルッソ氏、AFPの記事によれば、「エジプト出身のユダヤ系フランス人」だという。ややこしい。実にややこしい。エジプト系フランス人ではダメなのか、と思ったのだが、画像検索してみると――かなり著名な人物らしい――白人の男性の写真が並ぶ。つまり人種としてエジプト系ではない(というかそもそもエジプト人とは、というのがまたややこしいので、ここでは書かない)。ならばユダヤ系というのは人種を指す言葉であり、宗教を指しているのではないようだ。

 元々「ユダヤ人」というのは「ユダヤ教徒」のことである。だから白人のユダヤ人はもちろん、黒人のユダヤ人もいる。アラブ系やアジア系のユダヤ人もいるのだ。しかしナチスドイツがヨーロッパに住んでいた「いわゆるユダヤ人」を迫害したことにより、ユダヤ人の定義が変わってしまったようである。現在のユダヤ人の定義はよくわからない。いろいろ読んではみたのだが、読めば読むほどわからなくなる。

 厳密に考えれば考えるほどユダヤ人はユダヤ教徒――ユダヤ教徒の母から生まれた、自身もユダヤ教のみを信仰している者――のことなのだが、実際にはかなり曖昧な、白人の中の人種の一つとして捉えられていると言って良いだろう。映画『プライベート・ライアン』で、連行されて行くドイツ軍捕虜に向かって、アメリカ兵の一人が「俺はユダヤ人だ」と言うシーンがあるが、あえて言わなければ他の白人と見分けがつかないくらいの差異しかないのが実情なのだろう。だったらユダヤ系という説明は要るのか? と思ったりはするのだが、今回のアンリ・ルッソ氏はホロコーストの専門家だというから、そういう意味で必要だったのかもしれないな、などと思った次第。

※ そうそう、2年前と言えば、トランプ大統領の入国禁止令が話題になった頃ですね。すったもんだの挙げ句、結局は昨年6月に連邦最高裁で支持されて、イラン、リビア、ソマリア、シリア、イエメンの5カ国の人は原則アメリカ入国禁止です。差別的、と言ってしまえばそれまでですが、正直なところ、トランプ大統領の主張を全否定はできない自分がいます。好きか嫌いかで言えば嫌いなのですが。

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