ファンティエットの海に春は来ない2
2話「俺たちの敵とは」
入隊後は毎日体育の授業だけの学校にいるようでとても楽しかった。
遠い村のやつとも友達になれたし、そいつらとも夜にお喋りするのも楽しい。
時々母のことが心配になるが、家へ帰りたいなんて思わなかった。寂しくてもテトの時に会えるから。
ただ、そんな俺も嫌なことはあった。
月曜日に革命精神についての「ありがたい話」を聞くことだった。
今の国の現状とか、国のあるべき姿とか。頭のいい奴らの話は本当に疲れる。俺たちの目的は「独立すること」だ。
そんな一言で済むことを難しい言葉を使い、時にはなにかに例え、長々と説明してくる。
その日も俺は他のことを考えながらその「ありがたい話」を聞いていた。その時だった。
解放戦線士官「君たちの敵はなんだと思う?」
そんな馬鹿げた質問を聞いてしまった。
しばらく間があき。
同期「ベトナム共和国政権です!」
同期の1人が答えた。
解放戦線士官「違う!君たちの敵は『世界』だ!」
同期たちが急に顔をしかめた。
解放戦線士官「君たちは国際的に言うとテロリストだ。国を潰すために抵抗運動をしている。これは立派なテロ行為だ。」
どよめきが走った。
こいつは何を言っているんだ?
解放戦線士官「君たちが戦えばもちろんベトナム共和国軍だけではなく世界の一部であるアメリカ軍と戦う。イギリスも日本も、世界を敵に回すことになる。君たちは世界敵に回す覚悟ができているか?自信のないやつは荷物をまとめて帰るといい。以上だ!」
とんでもない話だった。
俺は夜になってもそのことばかり考えていた。俺は敵について考えたことがなかった。
考えてもベトナム共和国だけだと思っていた。
よく考えてみれば田舎者の寄せ集めの抵抗組織が国を相手に戦うんだ。
分が悪すぎる。
ましてや世界なんて....
数日後、俺の部隊が決まった。
突撃チームのある分隊に配属された。
俺はもうすぐ世界に銃を向けることになる…