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あり得ない日常#67

 へえ、前に来た時よりずいぶん発展している気がする。

 地表よりは随分深い場所に位置するはずのシェルターに数年ぶりに訪れることになった。

「そりゃ、少しは何か進んでてもらわなくちゃ、俺らの苦労が報われねえじゃねえか。」

 天井まで伸びる新たな構造物に目を輝かせていると、部隊のおっちゃんが口元は笑いながらも目は真剣そのものでそっと語り掛けてくれる。

 あれからまず父に相談し、それから集落の長へ、さらにはシェルターとのやり取りを通じ、今集めてある資料や資源と共に部隊を編成したうえで、こうしてやってきたのだ。

 そんなに距離は遠くはない。
歩いて一日もかからないくらいだ。

 正直、生き残りがどのくらいいるのかは把握されてはいない。

 今もどこかで生き延びている人たちはいるだろうが、海に沈んだかつての文明の遺構を辿るには、今の我々にはあまりにも力不足だからだ。

 もしかしたら、ここのシェルターよりもはるかに進んだ基地があるかもしれない。

 そう思わせてくれるのは、円筒形の天井まで高々と伸びる支柱にしては、何か様々な機械が埋まっているものを目の当たりにしているからだ。

 かつて人間は宇宙にいるどこかの誰かと通信を試みようとしていたらしいが、今はこの地のどこかに生存しているはずの誰かと通信を試みようとしている。

 かつて人工知能が存在していたことも書物からわかっている。電力と部品の研究が進めば、再び叶わないものではないはずだ。

 そういえば、ユカがずいぶん静かだな。

 今回は女性4名を含む、合計10名でやってきた。

 シェルターには個室というには少々狭い、大人一人ならゆっくり横になれる居住、宿泊スペースがある。

 キャビンと表現した方が伝わりやすいだろう。

 多人数だとどうしても大部屋で生活を強いられることになることから、あらかじめ定員を決めておくことにより、それぞれがストレスなく滞在できるようにしているのだ。

 そのため、このシェルターに訪れることをちょっとした旅行のように楽しみにする人たちも少なくない。

 もし、他の場所にだって小さいながらもシェルターを建造できれば、もっと多くの人が心安らかに生活することができるだろう。

 絵本で見るような、青空の下でのびのびと生活できるのであれば、そもそも必要がないのは言うまでもないが。

 残念だけど、今のこんな世界じゃどうしようもない。


 さて、シェルターには様々な物資や情報がまた集まっているはず。

 今回はどんな滞在になるだろう。楽しみだ。


※この物語はフィクションです。登場する人物や団体は架空のものであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。創作物語です。

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