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あり得ない日常#18
いってきます。
ほんとうは学校になんか行きたくないけど、行かないといけない。
昨日も登校して、ようやく終わったと学校の敷地を出るときほど心が軽くなる瞬間を私は他に知らない。
中学生からは自転車で登校する事も可能だ。でも、うちは他の子のようには余裕が無いので、自転車が欲しいなんて言いにくい。
違う、言えない。
お母さんはほぼ毎日、夜中に帰ってくるので今は寝ている。
仕切りのようにある襖を開けるとほぼ一部屋のアパートの一室に母娘二人暮らしだ。
寝ているお母さんを起こさないように、毎朝家を出るのが私にできる数少ない事のひとつだ。
小学生の頃は制服が無くて、ほとんど毎日同じ服を着て学校に行くものだから、よくからかわれていた。
男子は子供だから、からかわれても仕方がないと思えても、女子からもからかわれるのは本当につらかった。
よく6年間も通えたなと自分でも思うほどだ。
食事も給食があるのが救い。
まともな食事と言えばお母さんの親、おばあちゃんがたまに様子を見に来てくれる時くらいだ。
洋服を買ってもらえるのも、部屋が片付くのも、おばあちゃんが来てくれないと大変だった。
たまに区役所の人がやってきて、様子を見にくる。
学校の事を相談しても良いかいつも悩むが、後の仕返しが恐しい。
逃げ場所なんてない。言えるわけがない。
最近は、特に学校がしんどくなってきたので、いよいよ相談しようかと毎回思うが手が震えて声も出ない。
どうしたらいいんだろうか。
おばあちゃんに言えたらいいのに。
先生に言えたらいいのに。
区役所のおばさんに言えたらいいのに。
中学校に入るときに、おばあちゃんがお世話してくれたおかげで制服を買う事ができた。
お金は区からもらえるらしく心配はいらないらしいが、お母さんがほとんど構ってくれないので、おばあちゃんと制服屋さんに揃えに行ったのだ。
私はお母さんにとって要らない子なんだろう。
直接ぶたれたりとかしたことはないが、小学生の頃は何かを叫んでいるような記憶しかない。
違うかな、私がもう覚えていないだけかもしれない。
中学生になって、区からお金が入ってくるという銀行口座のキャッシュカードをおばあちゃんから預かった。
お母さんの名前がカタカナで書いてあるカードだ。
近くのコンビニで引き出すことができる。
ただ、絶対にこの金額を下回らないようにしないとだめだよと教わった。
そうしないと、水道やガス、電気も使えなくなって、最悪アパートに住めなくなるという。
私はそれを聞いた時、恐くてしかたがなかった。
出来るだけ使わなければ、そんなこともないんじゃないかと思うと、お風呂でさえ入るのもおっくうになる。
冬ならそんなに入らなくても、目立たないからいい。
困るのは暖かくなってからだ。
学校まで歩いて30分ちょっとくらいの距離を毎日。
夏だと最近は特に暑いから困る。
またからかわれるのかな。臭うって後ろの子から言われるのかな。
嫌だな。行きたくないな。
なんで、学校なんか行かなくちゃいけないの。
なんで、みんなと一緒に同じ部屋で勉強しなくちゃいけないの。
勉強ならまだいいかもしれない。
別にわからないわけじゃない。
でも、あの空間にいると、他の子の目が気になる。
またなんかコソコソ悪口言ってる。
スマホなんか持ったことが無いけど、タブレットが学校から貸し出される。私のタブレットがゴミ箱に入れられていたことがあった。
誰の仕業だろう。居すぎてわからないや。
私に味方なんていないから。
あと1年ちょっとも通わなきゃいけないのか。
考えただけで吐き気がする。
その先は?
高校?いけるの?
冗談じゃない。
おばあちゃんも膝を悪くしてからなかなか来られない。一緒に住むとそれはそれで苦しくなるという。
お父さんという人はどこで何をしているのか知らない。
顔なんて知らない。
おじいちゃんは、かつてお父さんという人の家でけんかをしたらしい。
私が産まれる前の話だ。
そして暴れた末、火をつけた。
よくなかった。
地域に噂なんてあっという間に広がる。
おじいちゃんは結局、ついに帰ってこなかったらしい。
おばあちゃんとお母さんは逃げるように住んでいた家を離れ、今のように別々に暮らすようになった。
私のためだと聞いたことがあるが、いったい今のすべての何が私のためなんだろうか。
誰か私のことを辛かったねと言ってくれないだろうか。
そんな人どこにいるかな。おばあちゃんだってきっと私の事を邪魔だと思っているんだろうな。
学校のみんななんか嫌いだ。
家に私の事をいじめたやつの名前とされたことを書いてきた。
先生だって知ってるくせに。
今日はいつも行く道を外れる。
学校に通うたびに高いところはないか探してきた。
警察に行けば、そんな怖い思いをしなくてもいいかもしれないとタブレットでニュースを見て知ったが、そもそも警察に行くこと自体がこわい。
古いマンションのビル。
エレベーターもあるが、そんなに早く上に行きたくない。
でも、学校に行くくらいなら早く楽になりたい。
足が震える8F。
遠くに山が見える。
へえ、この町ってこんなだったんだ。
高さゆえの西風が、前髪を吹きつける。
もういいや。
どうせ私の事なんか誰も見てやしない。
私が思い切り何かを叫んで、
鳥のように高く飛べたのは生まれてはじめてだった。
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この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。
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