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あり得ない日常#17

 高校2年の冬、明日はクリスマス・イブだ。
今年はこれから寒い冬になるらしい。

 窓の外を見るとちらほらと雪が舞い始めたようだ。大きなブラウン管のテレビに映る左上の数字は19時を過ぎたことを示す。

 学生はすでに冬休みに入って数日経ち、クリスマスと太陽暦で年越しを控えるという事もあって、慌ただしくも賑やかで、私もその空気感を楽しめている中のひとりになったのだろう。

 生まれて初めてのこの下腹部の鈍痛、悪い痛みじゃない。

 なかなか言えなかったが、先輩は気づいて驚いたようだった。

 私は一体、どんな風に見えていたのかな。


 祝日の金曜日の夜だが、明日こそこんなカップルが多いだろうな。
特別な日、今の私にとっては今日がその特別な日で間違いない。

 先輩は、明日と明後日は別のバイトがあって忙しいという事で、遊びに行こうという流れから今日になったのだ。

 まさか、こんな日が来るとは思っていなかった。

 てっきり彼女がいて、この一年間バイト先で和気あいあいとしながらも、時に理不尽な客もくる中、みんなで乗り切ってきた仲間で、どちらかと言えば私は妹のように見られているんだとばかり思っていたから。


 先輩の横にこうして一緒に横になれている事が、いまだに信じられない。

 頬をつねるまでもなく、もう少しは立ち上がって歩きたくはない鈍痛がその事実を証明している。

 痛いだけでちっとも良いことなんて無かったが、目の前にいるのが先輩だという光景だけがせめてもの救いだった。


 これから、電車で帰る必要がある。
でも、もう少しだけこうしていたい。


 先輩がおもむろにゆっくりと床に足をつけて立ち上がる。なんだか同じ時間を、家族として一緒に過ごしているような気分だ。

 あの時、遠出して雑貨と一緒に下着もそろえておいて良かった。

 一緒にいた友達にはバレていないと思う。

 トイレに行って、離れているその間にすかさず買い、元の場所にみんな居なかったから、メールで連絡しつつ合流するという、流れるような身のこなしだった。


 「何か飲む?」冷蔵庫を開けて先輩が言ってくれる。お茶は胃が痛くなりそうなので、水をもらう事にした。

 21時には家にたどり着けばいい。

 あと1時間はこの幸せな時間に浸れる。

 シャワーを浴びたいが、この繁華街の派手なホテルのアメニティを使ってしまうと、強い香りがして家に帰った時にバレそうだ。

 せっけんなら問題ないだろう。

 出る前にさすがに一緒にシャワーを浴びることにした。


 アルバイト先や普段の制服では見せない姿を見て、また求めてくれる先輩が嬉しくて、かわいいとさえ思うのだった。


 この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

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