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あり得ない日常#34
やっぱり、ゆみさんに怒られてしまった。
軽くおバカと怒られるのかと思ったら、予想していたよりも本気で怒られて、青菜に塩をかけたようにしゅんとしているところだ。
女性は、人間で唯一命を産むことができるが、場合によっては自分も、そして生まれてくる子供の人生さえどうにかしてしまう。
男はそこまで考えていないと思え、そう言われた。
いつものゆみさんとは思えない。
まるで人が変わったかのようで驚いている。
そうそう知る事の出来ない一面を持ち合わせているらしい。
ただ、ゆみさんは引っ張らない性格の持ち主なので、怒るときは怒る、喜ぶ時は喜ぶ、甘えるときは甘えるというメリハリが効いた人でもある。
ひとしきり怒られた後で、どうしても聞いてみたかったことがあった。
ゆみさんならどうしたのだろうかと。
「そうだねえ、私なら信用できる人に同行してもらえなかったら断るかな。
そんなことにも気が回らない会社なんて、後々どうなるかわからないよ。
だいたい、辞めても困らないじゃない。」
最低給付保障制度さまさまである。
「知ってるかな、まだ都心があった頃の時代ね。
お金に困った女性が夜の繁華街で立ち待ちしてたって話。」
そんな危ないことをしてたのと尋ねる。
「家出した子とか、ホストに貢いで借金つくっちゃった子とか、事情は様々だったみたい。」
めちゃくちゃじゃないか。
「実は私の母も危うくそういう目に遭いそうになった、というか遭ったのか、あまりはっきりしたことは知らないんだけどね。」
えええ。
「ずっと死ぬまで気に病んでたみたい。
だから、女性たちがお金よりも自分の身体を優先した生き方がちゃんとできるようにならないと、親も子も死ぬまで苦しむことになっちゃう。」
そうか、ゆみさんはその線のフリーライター、コラムニスト、だからあんなに怒ったのだとようやく理解した。
「今はネットがみんなの情報源だよね。
昔はテレビっていう一方通行のメディアがあったんだよ。」
へえ、今でもラジオはある。
有事や災害時に備えたものだがその映像放送版のようだ。
「ネットって無料で見れる情報は、だいたい広告があるじゃない。
うちのウェブサイトだってそうだけど。」
なるほど、やたらと広告しか目につかないものもあるのはそのせいか。
鬱陶しいので、あまりにもひどいサイトはブロックしている。
「あれって視聴数に応じた報酬のタイプもあるんだよね。
似たような事をテレビがやってたんだよ。
でも、テレビが先だから発祥はテレビかなあ。」
一方的な発信なら、コンテンツの中に広告が含まれてそうで、時間が余計に嵩みそうだ。
「だから、視聴数を稼ぐために誇張していたり、ずっと同じ話題を擦ったり、ミスリードも結構あったみたい。」
情報源がそんなんなら、自分で調べる方法が無いと簡単に洗脳されてしまいそうな気がする。
驚くことに、新聞などの紙媒体も同じようなものだったが、記者としてのプライドがちゃんとあった時代はまだマシだったようだ。
ゆみさんが何を言いたいのか大体わかってきた気がした。
それは「自分の頭でちゃんと考えろ」だ。
周囲が言うから正しい。
自分が従事する上役が言うから正しい。
広く支持されているから正しい。
そうとは限らない。
そして、ちゃんと交渉することだ。
そう考えると、給料に依存していた昔は、さぞ厄介だったんだろうなとどうしても思えてならない。
下手にそんな社会を受け入れたばっかりに、それらが当たり前になっていき、異を唱えようものならば村八分にされる。
まるで先の大戦の末期、連合軍に追い込まれて物資が不足した時代の日本のようだ。
今は、近代史もある程度履修しないと卒業資格がもらえない。
ゆみさんは、自身のお母さんの話を、お父さんであるおじいさんがたまに話してくれたことをきっかけに今、活動をしている。
だから、いろいろなことを知っている。
でも最後にこう言われた。
「私が言ったからって鵜呑みにしちゃだめだよ。
それはそれで、ちゃんと自分で調べて考えなさい。」
なんでって聞こうとしたら「さっきの話聞いてた?」とまた怒られそうになったので、そういうことかと、ちゃんと理解したと伝えてなんとか抑えてもらった。
ここまでゆみさんに叱られるという事は、
おじいさんにも叱られかねない。
時計を見ると午後4時を回ったあたりで、カラスがそろそろ夜が来ることを伝えるかのように鳴いている。
どうする?うちで晩ご飯食べてく?と聞かれたが、今日は遠慮しておいた方が良いだろう。
これ以上は私がもたない。
ゆみさんにニヤッとされたので、わたしの考えていることはどうやらお見通しのようだ。
「私は手伝ってくれると嬉しいけどなあ。」
話を聴いてくれたおかげで心は軽くなった。
そのお礼を告げると、おじいさんから叱られることはもう間違いなさそうなので、別日にしてもらおう。
まだ具合が本調子ではないから、もう帰って寝るねと伝えると、わかったと了承してくれた。
帰り際にありがとうと伝えるのを、わたしは忘れなかった。
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この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。
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