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あり得ない日常#49

 自分の人生があと1日だとして、どんな過ごし方をするだろう。

 少なくとも気持ち悪いと思う人物に割く時間など1秒たりとも無い。
そう考えるのが自然だろうな。

 人によって自分の人生の残り時間は実に様々だ。
もしかしたら100歳まで生きるかもしれない。

 かと思えば来年の今頃は、もうこの世にいないかもしれない。

 これらには共通点があって、今自分でこの世からドロップアウトすることを選ばなければ成立する条件に過ぎない。

 現代の文明での人間の寿命は生まれてから、お正月をせいぜい80回迎えられるかどうかだ。

 そんな貴重な限られた今の時間を、何に使うかは人それぞれで自由だが、少なくとも嫌だと思う事に関わる時間はできるだけ無いに越したことはないだろう。

 もしかしたら、嫌いな人物でも知らない面を知ることによって、万や億に一つはその認識が変わるかもしれないが、そもそもそこに、それもわざわざ時間を割く価値があるかどうかは徹夜で寝て考えたいものだ。


 「彼らの事件があって株公開は未定になったけど、彼らに退職金諸々は支払わなくて済んだんだよね。」

 今日は藤沢さんと二人で社長が詰める新しい事務所に呼ばれている。


 過去の法や労働契約に従って、長年積み立ててきた退職金を支払わなくてよくなり、その額は合わせてなんと億を超えていたという。

 会社として広く悪い宣伝になってしまったが、全員懲戒解雇処分に出来たことで不本意ながら、自由に使える資金を得ることができたようだ。

 もちろん、被害者の存在は忘れてはならないだろう。


 あれからずいぶん経つこともあって、事件報道を覚えている一般人はもうほとんどいないと言っていいだろう。

 わたしもその関係者のひとりだと知られているわけはないが、こっそり言われていたらどうしようという思いはどこかにあった。

 被害者なのにそうなるのは、冷静に考えると特殊な社会だなと思う。


 もしかして、こんなにきれいな事務所に移転したのは、そういう事か。
つい、そう社長に突っ込みを入れる。

「それは無いと言えば噓になるかもしれないけど、前に来てもらったマンションが再開発で取り壊すことになったんだ。」

 海面上昇と気候変動でまとまった平地が貴重になる中、利便性と安全性を求める人は充実した都市に集まる。

 どんな建物ができるのかな。

 ああそれで、この2階うえが自宅になっているのか。


 もともとあったビルなので、外目からは少々古く感じるが、内装は依然と比べるとかなりしっかりしており、来客用の事務所としても十分だ。

 「新しい拠点を作ろうと思ってさ、今までのスタイルでもいいけど藤沢さんと受け持ってもらいたいんだよね。」

 詳しく聞くと、インフラ事業だけではなく別にもうひとつ会社として事業を持ちたいという。

 もうあんな事件は起こらないとは思うが、もし何かあった時に一つの事業しかないのに契約を切られる騒動が起こると、事業が維持できないからだ。

 「今ある会社の資産を使って、何か考えることが出来ないかな。」

 二人して考え込むが、以前も話した通り、例えばゲームにしても何を作っていいかさっぱりわからない。

 「ひらめいたら、何かとにかくやってもらっていいから。」

 そんなことを言っていいのだろうかと思うが、資金に余裕がある今だからこそだろう。

 そしてこの際、社長も会社にいる人材を整理しようとしているらしい。


 自分にとってもそうだが、会社にとっても関わる人間は選ぶ必要がある。

 人間関係の断捨離、それは残酷なようだが、限られた時間という貴重なリソースをより有効に、充実したものに振り分けるための重要な作業なのだ。

 必要な人なら切り捨てることは出来ない。

 そうか、そうではないかだけ。

 自分は誰かにとって価値があるだろうか。


 この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

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