明晰夢
Against the Reality
「適合者が見つかったかもしれない」
「次に夢を見るときは、僕は夢の中にいる」
「僕はヘイター。あんたのメントーアだ。助言者って意味だけど、まあ、ヤクでいうところの仲介人みたいな役割だ」「俺はヤクはやらない。仲介人?誰との?」「夢の世界とあんた。橋渡し役ってとこさ」
明晰夢というのは、夢を見ていて今自分は夢のなかにいる、と自覚すること。
そして、何度も明晰夢を見る癖がつくと人は夢をコントロールできるようになる。しかし、大抵の場合自我が強くなり思考が明瞭になると、意識がハッキリしてコントロールする前に夢から醒めてしまう。
そこでオーストラリアの脳科学者達が、明晰夢を自覚しコントロールする装置を開発した。
初期段階では、外部の装置から脳波を調節し、脳の外部皮質領域の低周波活動を減少させ、明晰夢に入りやすい脳の状態をたもつ効果が期待された。
次に、明晰夢だ。
背側前頭前野などの特定の脳の領域を活発化させ、当人に明晰夢を自覚させ、コントロールさせるというシステムだ。
しかし、誰でも明晰夢を操れるようになるわけではない。これは危険なプログラムだ。
体質や強い意志の力、雑念や煩悩に打ち勝てる人間など、適合する人間は極めて少ない。明晰夢を操れる人間は限られている。慎重に選ばなければ、本人の後の人生や人格を永遠に狂わせる事態になってしまう。なぜなら、ファンクションには致命的な欠点があるからだ。
(ファンクションが可能になる以前から明晰夢の臨床研究は進められていて、統合失調症のような心因性障害や、心理的トラウマ、またナルコレプシーのような睡眠障害がある人たちは、明晰夢のなかでネガティヴな経験に繋がることが多いという調査結果が出ている。つまり、ファンクションは夢の中でほぼ現実体験のように感受性を刺激し、現実の記憶にも多大な影響を及ぼすため、精神的に問題を抱える人間にとってはかなり危険な経験になりかねない。悪夢治療の場合、大半が精神的に問題を抱えている患者が多く治療法としてはリスクが高すぎるため、ファンクションはほとんど不可能な治療法としてタブー化されている)
ファンクション・・・明晰夢に入り込んで夢のコントロールを可能にするプロジェクト。
ファンクションの意味は関数。
関数とはy=3xという式に対するyのこと。
xの値を決めたことにより、yの値が変化する。明晰夢も関数に置き換えることができる。
y=数字x
現実=夢x
この場合、xは明晰夢中の行動、体験ということになる。つまり、明晰夢で起きたことはシーカーの頭の中では事実と変わらない記憶として残り、現実に多大な影響を及ぼす。
「トラウマなんてもんじゃないだろうな。なんせ、生涯共にする潜在意識に不信感や虚無感を植え付けられちまうんだからな」
つまり、そういう意味で、この実験は危険な関数(ファンクション)と呼ばれている。
「ファンクションの目的」
一つ目、明晰夢はクリエイティブな問題解決に応用できる。
二つ目、明晰夢で練習することによって、身体能力が向上する。イメトレで身体能力が上がる原理と同じ。脳が筋肉に信号を送る反射速度と処理能力が向上する。(一秒で出せる命令の数が増える)
三つ目、悪夢障害の治療
「ファンクションまでの過程」
適合者テスト→一週間
訓練期間→一週間
ファンクション→一週間
計三週間。
明晰夢に入り、夢を操縦(コントロール)するために一週間の訓練が必要だ。
インダクションの効果が最も現れるのが一週間目から二週目にかけての一週間。その一週間の間に記録された明晰夢の確率は47%。一週間を経過すると、自己暗示の効果が急激に衰え、8%まで落ちてしまう。(つまり一人につき与えられるチャンスは一回、その一週間の間に目的を達成しなければならない。)
「ルーティン(一週間の訓練)」
1. FIND ACT 一日8回、自分はいま夢の中にいるのか?を確認する簡単な動作(ファインド)を行う。重要なのは必ず同じ動作(ファインド)を行うこと。それが日常の癖として定着し、夢の中でその動作を偶発したとき、夢か現実かの判別が成功する。たとえば指折りで指の数を数えたり、部屋の照明をつけたり消したりする。夢の中では照明をつけたり消したりできないはずだ。
2. AGAIN ACT 毎日入眠から5時間後に目を覚まし、数分間起きてから、ベッドに戻る。これにより入眠後すぐに起きるレム睡眠へと誘導しやすくなる。
3. INDUCTION 入眠から5時間後に目を覚まし、ベッドに戻るまでの数分間、夢を自覚する旨の強い意思を持つ。「次に夢を見るときは、夢のなかにいる」と自己催眠をかける。
他、
・入眠前の15分間のマインドフルネス瞑想。
・睡眠後起きがけに夢を思い出し、忠実に日記に記していく作業。思い出せる限りで構わないし、最初は書けなくて構わない。重要なのは、習慣づけることだ。
・ゆりかご作り。毎日同じ場所に行って記憶に焼きつける。つまり自分の安定地となる場所を一時的に記憶に焼きつけて、インダクタンスが起きた場合の応急処置でその場所を使う。精神安定。
「ファンクションのルール」
明晰夢での時間概念
現実では80分の睡眠だが、明晰夢の中での体感時間は4時間ぐらいに拡大する。しかしこれは、当人の錯覚である。
この仕組みを説明すると、
脳には、現実の時間よりも遥かに短時間で、同等の内容を認識することができるからだ。
明晰夢はあくまでも認識の世界であって、時間は存在しない。単純にできごとだけを順番に収納したファイルが夢で、「このファイルの量は、だいたい一時間分だ」と後から自分の感覚を頼りに時間の概念を結びつけてるにすぎない。
なぜインダクタンスが起こるのか?
夢をコントロールする方法は、たったひとつ。イメージだ。
人は常に次に起こることを直感でイメージして生きている。
夢では、その想像がそのまんま具現化して現実になるという仕組みだ。
これが成功すると、夢を自由自在にコントロールすることができる。目の前にフルーツの山が盛られた皿を出すこともできるし、背中に翼を生やして空を飛ぶことだって可能だ。
しかし、人は目的を思い描くとき、同時に「もしもそれが上手くいかなかったら…」を無意識的にイメージしてしまう生き物だ。マイナス思考というやつだ。
インダクタンスとはイヤな予感の具現化だ。
例えば、
目の前にフルーツ皿が置かれ、それを全部独り占めして食べようと目的を決めたとき、同時に「もしも、誰かがやってきてこのフルーツ皿を横領してしまったら…」というイヤな予感をイメージしてしまうことはないだろうか。夢の世界では、それがプラスだろうがマイナスだろうがお構いなしにシーカーのイメージがそのまま具現化されてしまうため、イヤな予感も現実になってしまうのだ。
イヤな予感が的中し、シーカーは不安になる。イヤなことが続くと、次にやってくるイヤなことを無意識的に想像をしてしまう。負の連鎖の法則で、ネガティブは更なるネガティブを呼び寄せるからだ。「このままフルーツを巡って争いになり、俺は殺されるんじゃないか…?」
夢を完全に操縦不能になり、シーカーの手に負えなくなる。
これが科学者たちがもっとも危惧する、インダクタンスの連鎖反応だ。
「夢のコントロールは、完全にシーカーの人格やマインドに依存する。人類規模の既成価値観を超越し、ネガティブを克服した人間でないと、ファンクションは不可能だ」
「シナリオの用語説明」
ファンクション
→明晰夢を自覚し、夢をコントロールするミッションプログラム
ランディング
→着陸(グライダー用語)の意味。夢に入り込む作業。
テイクオフ
→離陸(グライダー用語)の意味。夢から醒める作業。
ファインド
→夢を自覚するきっかけになる動作
インダクタンス
→直感的な嫌な予感が具現化してしまうこと。明晰夢が操縦不能になり、悪い方向へ進んでしまう。一度悪い方向へ向かうと、シーカーの精神状態は不安定になるため、更なるインダクタンスを引き起こす悪循環になる。三つ目のインダクタンスが起きると被験者にとって非常に危険な状態と判断される。
ゆりかご
→シーカーの精神状態を安定させるきっかけとなる場所。思い出深い場所や、好きな景色とかだとなおいい。
シーカー
→明晰夢に入り込む人物。ハングライダーで例えたときの操縦士。
ドウェラーorアクター
→明晰夢に現れる夢の住人。
メントーア
→助言者。シーカーに声を送ることができる。夢の橋渡し役。
オブサーバー
→外部にいる夢の観測者。言語や理解を司る脳の領域、顔の認識を司る脳の領域、それぞれを外部から観測することで、シーカーが人と遭遇した時間や会話をした時間を確認できる。しかし、夢の中の細かい状況までは把握できない。「シーカーが住人と接触しました」
アソシエイト(主観)
→自分視点で夢を見ている状態。
ディソシエイト(解離)
→客観視点で夢を見ている状態。
↑ ファンクションでは、この二つの状態を使いわけることが肝になる。基本はアソシエイトで夢を探索していくが、シーカーにとって危険な状況や異常事態が起きたとき、解離して冷静な精神状態を保たなければならない。
DILD(Drag Induction of Lucid Dreams )
ダイルドの葉っぱ
→大麻に近い新薬。効き目は80分。思考や感受性が活発化し、自我や意識は覚醒しているのに同時に瞑想をしているような状態をつくりだす。これがないと明晰夢に入っても、コントロールする前に夢から覚めてしまう。
しかし、致命的な副作用がある。思考と感受性が活発化しているため、一旦ネガティブに陥るとどんどんネガティブになってマトモな判断ができなくなる。精神崩壊を引き起こす。
大麻のバッドトリップと同じ副作用。
深層回廊
→潜在意識の奥深く。メントーアの声が届かない。深層回廊はいわば穴だ。一旦落ちると、ゆりかごには戻れなくなり、ディソシエイトができないため、インダクタンスが起きた場合精神崩壊は免れない。
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