Happy Helloween, my buddy!

暗くなるにつれ、町は賑やかさを増していきました。
今日は10月31日、ハロウィン。
年に一回訪れるお祭りの日。
町の広場には仮装をした子どもたちの姿が見え始めていました。
その広場の目の前の小さな家。その2階でマシューは窓から広場の様子を眺めていました。

マシューは言葉が話せませんでした。
昔、マシューのお父さんはいなくなりました。
マシューのお父さんはお酒が大好きで、よく夜にお酒を飲んでは人の嫌がることばかりをしていました。
お母さんは、マシューのためにそれをすべて受け止めていました。
そしてある日、お父さんはお酒に酔っていて車に轢かれてしまいました。
お母さんは、マシューが苦しまないように、それをすべて黙っていました。
でも、マシューは全部知っていました。
友達ができないのも、お母さんがいつも悲しそうにしてるのも、それのせいだと気づいていました。
それらが原因で、マシューは話せなくなったのではないか、とお医者さんは言いました。
こうしてお母さんとマシューは気を新しく暮らすためこの家に引っ越しました。
しかし、マシューは家にいてばかりでした。
話せない自分は、きっと友達を作ることはできない。
お母さんも悲しい顔をするのに、他の子と楽しく話せるわけなんてない。そう思っていました。
「…」
マシューは傍にあった黒猫のぬいぐるみを抱きしめました。
お母さんの手作りのぬいぐるみ。マシューの宝物です。
「マシュー、いるわよね?」
ノックが聞こえました。入ってきたのはお母さんです。
「はいこれ。ハッピーハロウィン。」
かわいく包まれたクッキーの袋を受け取ると、マシューは頷いた。
頭を優しくなでて頬にキスをすると、お母さんは下へ戻っていきました。
お母さんは悲しそうな笑顔をしていました。

マシューは引っ越してきてからハロウィンに参加したことはありませんでした。
お母さんに「トリック・オア・トリート」も言えないし、一緒にお祭りを楽しむ友達もいません。
だから、毎年ハロウィンの日は布団を頭までかぶっていつもより早くに寝るのです。
その賑やかな声を聴いていると、いつも涙が出てくるのでした。

マシューはこの日も早くから布団をかぶってベッドに横たわっていました。
お母さんに「トリック・オア・トリート」ということができない悔しさで、もう目が潤んでいました。
ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて、マシューは眠りにつこうとしました。
そのときです。
「マシュー、マシュー!開けて!」
男の子の声が聞こえたのです。
恐る恐るマシューは布団から頭を出しました。
すると、今度は窓を叩く音が聞こえて、マシューは窓に目をやりました。
「マシュー!」
自分より少し大人っぽい、男の子。
その男の子が外の窓枠のわずかな隙間に足をかけて窓に張り付くような状態でいたのです。
このままだと落ちてしまう、とマシューは急いで窓を開けて男の子を中へあげました。
「あはは、助かったよマシュー!」
男の子は部屋に上がると、マシューの顔をじっと見つめました。
「なんで僕の名前を知っているの?みたいな顔をしてるね。僕は君のことなら何でも知ってるよ。」
男の子がにっこり笑ってそう言いました。
マシューは驚きましたが、なんだかその男の子がとっくの昔から友達だったような気がして、すっかり受け入れていました。
男の子は、マシューの左手を握って言いました。
「ところでマシュー、君はお祭りに行かなくてもいいの?」
マシューは戸惑って、俯きました。
そして、手を振りほどいてから、机の上の小さな黒板とチョークをつかみました。それを男の子に見せてから、またぎゅっとぬいぐるみを抱きしめました。
「…うん、そっか。」
『僕には仮装の衣装がないから。』
黒板にはそれだけ書かれていました。
「衣装は僕が用意してあげよう。…どうかな。」
マシューは少し時間をおいて、頷きました。
「よし決定だマシュー!さあ、自分の着たい衣装を思い浮かべて、いいね?目を瞑って…」
マシューはそう言われると、目を瞑って頭に思い浮かべました。
「それじゃあいくよマシュー、さあ、目を開けて!」
マシューが恐る恐る目を開けると、
「…!」
マシューは黒猫の衣装に身を包んでいました。
目を輝かせてくるくると動くマシューに、男の子は言いました。
「じゃあマシュー、行こうか!」
マシューは慌てて黒板に文字を書きました。
「え、僕が誰かって?そうだなあ、…」
男の子はしばらく考えてからマシューの手を取ると、窓枠に足をかけました。
「僕はハロウィンの魔法使い、君の一番の親友さ!」
そう言って、男の子はマシューの手を引いて、夜の広場へ飛び込んでいきました。

マシューが目を開けたころには、2人は広場に降り立っていました。
「あはは、どう?驚いた?」
男の子が隣で笑ってマシューの頭を撫でました。
「どう?実際に降りて見てみて。」
マシューは感動しました。
広場はたくさんのジャック・オ・ランタンの灯りに囲まれて、たくさんの人たちが賑やかにお祭りを楽しんでいました。
「…!」
「はは、すごいでしょ。」
マシューは広場の中心に向かって駆け出しました。
男の子もそれを追うように駆け出しました。

マシューは気づけば男の子とはぐれてしまっていました。
夢中で走っていろんなところを見て回っていたので、男の子とはぐれたことに気が付きませんでした。
マシューは困っていました。
すると、
「やあ、そこの黒猫の君、何か探し物?」
マシューが振り返ると、マシューと同じくらいの背たけで、首から大きな箱のようなものをさげた、オオカミの衣装の男の子が立っていました。
「おいらはオリバー。君は?」
マシューは黒板を取り出して、名前を書きました。
「マシューか。君、しゃべれないのかい?」
マシューは一瞬目をそらした後、頷きました。
「そうかあ、じゃあ、君の声を想像して弾いてあげよう。」
マシューが何のことかわからずきょとんとしている中、オリバーは首に下げた箱の両端を持って、伸ばしたり縮めたりしました。
すると、箱は綺麗な音を出し始めました。
マシューは驚いて、オリバーと箱を交互に見つめました。
「アコーディオン、知らない?」
演奏を止めたオリバーがマシューに聞くと、マシューは首を横に振りました。
「そっか。おいらはこれで人がしゃべっている真似をするのが好きなんだ、みんな喜んでくれるし。どう?面白いだろう?」
マシューは首を縦に振りました。
「オリバー、何やってるの?」
そこへ女の子が2人やってきました。2人は顔がそっくりで、衣装もおそろいの魔女の衣装でした。
「だあれ、その子」
「マシューっていうんだ!あ!そうだ!君何か探し物してたよな?」
マシューもはっと思い出し、黒板に書きました。
「魔法使いの男の子を探してる…?」
「魔女ならここにいるのにね?」
マシューは首を横に振りました。
「なあに、私たちじゃないっていうのはわかってるのよ」
「あ、また書いてるわ。仮装じゃなくて、本当に魔法使いの男の子…?」
女の子は顔を見合わせて首をかしげました。
「ハロウィンは本物の幽霊とか精霊とか魔女がくるような日なんだし、魔法使いが来ててもおかしくないだろ!」
「まあ、そうね」
「そうなんじゃないかしら!だったら素敵よ!ねえエリカ、私たちその魔法使いの弟子になって本物の魔女になりましょうよ!」
「モニカってば、いつもこうなんだから…」
エリカとモニカのやりとりを見ていると、マシューはなんだか楽しい気持ちになりました。
オリバーが隣で言いました。
「エリカとモニカはおいらの幼馴染なんだ。双子の姉妹でさ。モニカははのんびりしてるからいいんだけど、エリカはちょっときつくって昔から頭が上がんないんだよ」
「オリバー、何か言った?」
「べーつにー?」
マシューは3人といるのが楽しくなりました。
しかし、また男の子のことを忘れていたのに気づいてマシューはモニカのドレスの裾を引っ張りました。
「どうしたの、マシュー?あ、魔法使いさんのことね!どんな見た目をしているの?」
マシューは男の子の姿を頭に浮かべました。
黒い髪で、自分のと同じチョーカーをつけていて、瞳は綺麗な琥珀の色。黒いマントを羽織っていたから、すぐにわかるはず。
「…うーん、ごめんね。残念だけどそんな男の子は見てないの。エリカも見てないわよね?」
「私たち、さっきまで向こうでパフォーマンスしてたじゃない。見てないわ。」
パフォーマンス?と、マシューが首をかしげました。
「2人はな、ダンスが得意なんだ。すごいんだぞ、見せてあげなよ!」
「しょうがないわね。」
「いいわよ!」
オリバーがアコーディオンで曲を奏でると、2人は踊り始めました。
綺麗で、大人っぽくて、息もぴったり。
そしてたまにどっちがどっちかわからなくなったり。
マシューは初めて見たパフォーマンスに圧倒されていました。
アコーディオンの音が止み、2人がお辞儀をすると、マシューは手が痛くなるくらいの拍手を送りました。
「そんな目で見られると照れるじゃない」
「そんなによかった?」
こくこくと頷くマシューに3人は顔を見合わせて喜びました。
「マシュー、おいらたちもう友達なんだ、いつでもみせてやるよ!」
マシューは目を見開きました。
そして、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめました。
「そういえばマシュー、その子はなあに?その子もお友達?」
モニカがぬいぐるみを撫でながら言いました。
『この子は僕の一番最初の親友』
「親友か!それはいいな!」
「このぬいぐるみ、手作りなのね、よくできてるわ。」
エリカもモニカと同じようにぬいぐるみを撫でました。
『お母さんの手作り。もともと一緒に住んでた猫で、ジャックっていうんだ。』
引っ越して間もなく、お母さんが家にばかりいるマシューに友達をと連れてきた猫がジャックでした。ジャックとマシューはすぐに仲良くなり、親友になりました。
『でも、今年いなくなっちゃったんだ』
マシューにはその理由はなんとなくわかっていました。
お父さんみたいに死んでしまって、お父さんの時みたいにお母さんがそれを隠しているということ。
お母さんはこのぬいぐるみを作って、「ジャックはぬいぐるみになっちゃったの」と言いましたが、その日マシューはそのぬいぐるみを抱きしめながらわんわん泣きました。。
「ふふ、素敵なお友達ね」
「あ!いたいた!探したよマシュー!」
マシューが振り返った先にはあの男の子ともう一人、ドラキュラの仮装の女の子がいました。
こっちに走ってきた男の子はすぐにマシューに飛びつきました。
「もう、どこに行ってたんだい、心配したんだからね?」
マシューはごめんごめん、と言うようにその背中を撫でました。
「その子が魔法使いさんなのね!」
モニカがその2人の輪に入っていきました。
その様子を眺めつつ、吸血鬼の仮装の女の子はその場を離れようとしていました。
「えっと、じゃあ、私はこれで…」
「えっ、待ってよ!」
慌てて男の子が止めました。
「わあっ、もう案内は終わりましたよ!?」
「違うよキキ、さっきの、マシューにも見せてあげてほしいんだ。」
「うう…わかりましたよ…」
キキと呼ばれたその女の子は、渋々マントからトランプを取り出しました。
「占いですか?マジックですか?」
「マジック、お願いするよ」
「…わかりました。じゃあ、…マシュー…」
マシューはキキの方へ、一歩足を踏み出しました。
「このトランプ、何の変哲もないトランプです。ここから1枚、選んで取ってそのカードを覚えてください。私には見せないでくださいね。」
マシューは恐る恐るカードを引きました。引いたのはスペードのジャック。
それをみんなにも見せて、後ろを向いていたキキの肩を叩きました。
「…覚えましたね。じゃあ、そのカードを好きなところに戻してください。」
そう言われて、マシューがカードを戻すと、キキはそれをシャッフルしました。
「いいですか、あなたの選んだカードが今から一番上に出てきます。見ててください…。」
そう言ってキキは指を鳴らして、一番上のカードを捲りました。
「…ハートのエース…」
「なあんだ、失敗じゃない。」
「そ、そう言わないでください!あなたの帽子、よく見てください!」
「私の帽子…?」
エリカがそう言って魔女帽子を脱ぐと、なんと、
「何か落ちてきて…あっ!」
「スペードのジャックだ!」
「帽子の中に!?」
マシューもみんなも目を丸くしてカードと帽子を見つめました。
「ど、どうでしたか…」
「すごいわ、あなた!さっきは悪かったわ…!もっといろいろ見せてちょうだい!…あ、さっき占いもできるって言ってたわよね!?」
「わ、わわわ…」
「はは、さっきのモニカみたいだ」
オリバーが笑って言いました。
マシューは男の子に尋ねました。
『ここにいるってなんでわかったの?』
「キキが占いで教えてくれたんだ。ね、キキ。」
「あなたがむりやり聞いてきたんじゃないですかあ…」
キキはそんなことを言いつつも、照れくさそうな顔をしていました。
「そうだ魔法使いさん、あなたはなんてお名前なの?」
モニカがきらきらした顔で聞きました。
「僕は、…そうだなあ、魔法使いだし、ウィザードって呼んでよ!」

それから、6人は一緒にいろんな家を回ってお菓子をもらいました。
「トリック・オア・トリート!」
マシューもたくさんお菓子をもらいましたが、マシューは家を回れば回るほど、なんだか元気のない顔になっていきました。
そして、残った家はとうとうマシューの家だけになりました。
「マシュー、どうしたんですか…?具合、悪くありませんか?」
キキが声をかけましたが、マシューは首を横に振るばかりでした。
「…マシュー、もしかして、『トリック・オア・トリート』って言えないのが嫌なの?」
ウィザードが尋ねると、マシューは肩をびくりとさせました。
「マシュー…」
「…仕方ないや。ちょっと待っててね」
ウィザードはそう言うと、どこかへ去っていき、すぐに見えなくなってしまいました。
「ウィザード、どこに行ったのかしら」
「仕方ない、って、何か解決の方法でもあるのかな」
「きっと素敵な魔法でマシューを話せるようにしてくれるのよ!そうに違いないわ!」
「本当にそんなこと、できるんですか…」
4人が口々に話していると、マシューが黒板を見せてきました。
「…ごめん、って、どうしたのマシュー…」
『僕はトリック・オア・トリートって言ってないのに、みんなと一緒にお菓子をもらって、ごめん』
「別にいいじゃない、そんなこと!」
「声は出せなくっても、マシューはちゃんと言ってるでしょ?」
マシューはうつむきました。
そして、また一言黒板に書き込みました
『ごめん』
「…マシュー…」
そこへウィザードが戻ってきました。それもまた、ローブを被った女の人を連れて。
「その黒猫のお坊ちゃん?」
「そう、…いいかな。」
「ふん、生意気な小坊主ね。まあいいわ。ただし条件はあるわよ。」
女の人はマシューの目の前まで来ると、その顎をくい、と上げさせました。
「あんた、本当に話せるようになりたいの?」
マシューは頷きました。
「本当に?何を犠牲にしてでも?」
ぞくり、とマシューの背筋が凍りました。でも、マシューにはこれ以上の願いはありませんでした。
お母さんに「トリック・オア・トリート」と言えたらどんなに嬉しいか。天国に旅立ったジャックにお礼を言えたらどれだけ救われるか。自分の声で今日できた友達とも話せたらきっともっと楽しいだろう。
マシューは思い切って頷きました。
「わかったわ。でも、まだあなたを話せるようにはできない。どれだけあなたが話せるようになりたいか、
ここで話してみなさい?」

ざわ、としてみんな驚いた表情をしていました。
「そんな、マシューは話せないのに!」
「あなた、誰だか知らないけれど人間が悪すぎるわ!」
「ふん、黙ってなさい小娘。私は人間じゃないから当たり前だわ。」
女の人がふん、と鼻で笑ってエリカに言いました。
「人間じゃ、ない…?」
「そうよ。ああ、まだ名乗ってなかったわね。名はアリス、本物の魔女よ。」
「…!?」
みんな大きく口を開けて驚いた顔をしました。
「…マシュー、ごめんね。でも、頑張って…!」
ウィザードが困り顔で言いました。
どうすればいいか、マシューはわかりませんでした。
自分は話すことができないのに。
マシューはだんだん気が落ち込んでいきました。
そんなときです。
「マシュー、頑張れ」
ふと隣を見るとオリバーがまっすぐこちらを見つめていました。
「マシューならできるよ、きっと。ウィザードが頼んでるんだろう?だったら絶対無理なことなんてさせないって。」
「そうよ、マシュー!お母様に『トリック・オア・トリート』って言うんでしょう?」
エリカがマシューの傍で手を強く握りしめました。
「私、マシューの声、聴いてみたいわ!ねえマシュー?」
モニカもにこにこと笑っています。
「じゃあ私は、マシューさんに新作のマジック手伝ってほしいです。話せないとダメなんですけど…、いいですか?」
キキが控えめに、それでも強く心のこもった声で言いました。
「…!」
マシューはさっき自分が力強くうなずいた時の気持ちを思い出しました。
「…ぅ、ぁ…」
「マシュー!」
ウィザードが叫びました。
それがなんだか暖かくて懐かしくて、そして強くて。
「…ぁあぃゔぁぃああ!!!」
それはマシューが数年ぶりに発した《声》でした。
言葉にはならないけど、力のこもった声。
それを聞いて、みんな安心しました。
「ふうん、案外簡単に話せるじゃないの。よくてよ。あなたをちゃんと話せるようにしてあげる。…目を瞑って。」
マシューが目を瞑ると、アリスはまたマシューの顎を上げて、喉に息を吹きかけました。
「…じゃあ、私はこれで。あとはあんたたちで楽しみなさいな。」
そう言って、アリスはすぐに姿を消したのでした。
目を開けたマシューはしばらく喉を触っていました。
「…マシュー」
ウィザードがマシューの目の前で優しく微笑みました。
「声、聴かせてくれるかな。」
「…!」
マシューは、深呼吸をしてから、もう一度息を吸って、
「ウィザー、ド」
「…!マシュー!!」
ウィザードは大喜びでマシューをハグしました。
マシューもウィザードも嬉しくて涙が止まりませんでした。
「マシュー、おいらたちの名前も呼んでくれよ!」
「うん、オリバー、エリカ、モニカ、キキ…!」
「…すごいわ!マシュー、ばんざーい!」
「ばんざーい!」
マシューは4人ともハグをして、「ありがとう、ありがとう」と言い続けていました。

しばらくして、マシューは気が付きました。
ウィザードがいません。
周りを見渡すと、家の裏側にウィザードが向かっているのを見つけました。
「ウィザード!」
マシューは慌てて追いかけました。

「ああ、ばれちゃったか。」
ウィザードは笑って言いました。
「君にばれないように行くつもりだったのになあ。」
「ねえウィザード、どういうことなの?」
マシューが聞くと、ウィザードは気まずそうに視線を下げました。
「もう、行かなくちゃいけないんだ。」
「…そうなの?」
「うん」
「じゃあ、次はいつ遊ぼうか。僕ならいつでも大丈夫だよ、ウィザードは…」
「そうじゃないんだ!」
突然の大声に、マシューはびくりと肩をこわばらせました。
「…ごめん、マシュー。僕はもう君には会えない。」
「え、そんな、ウィザード!?」
「大丈夫、大丈夫。僕がいなくても君はもう大丈夫なんだから。」
ウィザードは泣いていました。
「僕のことは心配しないで。僕は今までもこれからも、ずっと君の一番の親友だから…!」
マシューはあることに気がつきました。
「…一番の、親友…!?まさか!?」
「はいそこまで。」
そこへ2人の間を割って入ってきたのはアリスでした。
「…なんだい、君が言うから僕の魂が消えることになったんだろう、別れの邪魔することないじゃないか」
「えっ、魂が…!?」
「その話なんだけど、無しにしたのよ。」
アリスは淡々と言いました。
「…どういうことだい?」
「だって私、魔法なんてかけてないもの。」
「えぇっ!?」
2人が同時に叫びました。
「坊ちゃんは自分の力で話したのよ?話せるかどうか試したのは魔法がいるかいらないか見るため。」
「え、ってことは…」
「だからさっきも言ったじゃない。あんたの魂を犠牲にするって話は帳消しよ。面白いからここまで見てたけど。」
ウィザードはぽかん、と驚いた表情をしていましたが、次第に怒ったような呆れたような表情に変わっていきました。
「本当に人間が悪いな君は!」
「ふふ、人間じゃないもの。」
「ねえ、ミズ・アリス。っていうことはさ…」
マシューがアリスに向かって叫びました。
「ジャックとずっと遊べるってこと!?」
「…マシュー!?」
「あらあんた、正体ばれちゃってるじゃない。」
そう、ウィザードは幽霊の姿のジャックだったのです。
「なんでわかったの!?」
「だって、一番の親友だ、って言ってたから。そうでしょう?」
「はは、マシューには敵わないや。」
ジャックは困ったように笑いました。
「でも坊ちゃん、この小坊主とずっと遊ぶのは無理な話ね。」
「えっ!?」
「だってこの小坊主は死んでいるのよ?普通無理でしょう」
「…そう、だね…」
マシューがうなだれると、ジャックがすかさずマシューの肩を叩いて言いました。
「でも、来年のハロウィンになったらこうやってまた来ることができるんだよ!もちろんその次の年も、またその次の年も!」
「本当!?」
もう会えなくなるのは覚悟していたけれど、一度再開してしまってはまた一緒に居たい気持ちが強くなっていたマシューにとって、二度と会えなくなる、というのはあまりにも耐えられないことでした。
それがそういうわけではないのです。
マシューは飛び上がって喜びました。
「本当さ!…というかアリス、君は何でこういうことをちゃんと言わないんだい…?」
「いいじゃない、別に?下げて上げた方が喜びは大きくなるものでしょう?」
そこへ4人が戻ってくるのが遅いマシューとウィザードを心配してやってきました。
「ふふっ、…ねえみんな聞いて!」
6人は再びマシューの家の扉の前へやってきていました。
「さあ、マシュー、今日はこれでラストだ。」
ジャックが言うと、マシューは頷きました。
「じゃあ、僕がせーの、って言ったらみんなで揃って、だよ。」
「オーケー。」
みんながそう言って一斉に頷くと、マシューは思い切って扉を開けました。
「お母さん、ただいま!…せーの、

トリック・オア・トリート!!!」


次の年のハロウィンの日。
広場にはマシューの姿がありました。
もちろんオリバー、エリカ、モニカ、キキ、そして、他の大勢の友達の姿もありました。
マシューにはこの一年でたくさんの友達ができたのです。
マシューの話す真似を演奏しながらオリバーが言いました。
「もっと早くから外に出てたら、もっといっぱい友達できてたのになあ!1000人とか!」
「それはさすがにないわ。でも本当、話せなくたって友達は作れたのに」
「まあ、そこは気の持ちようだったわよ。ねえ、マシュー、今年もいっぱいお菓子もらいましょ!」
「マシュー、今年の仮装は魔法使い、ですか?」
マシューは元気に頷きました。
「いいでしょ、ほら、おとものジャック!」
「ほんとだ、ぬいぐるみのジャックもおしゃれしてる!」
「お母さんの手作りなんだ!僕もちょこっとだけ手伝ったけど…」
「すごーい!」
「さすがお母さんだなあ、ところで僕がおともってどういうことだい、マシュー?」
はっと振り向くと、そこにはジャックの姿がありました。
「…やあ、久しぶり、マシュー。」
「ジャック!もう、冗談だよ。ジャックはずっと僕の一番の親友さ。」
マシューはジャックの胸に飛び込んでいきました。
「やだもう、会って早々この2人は…」
「ミズ・アリス、あなたも来てたんだね!一緒にお菓子をもらいに行こうよ!」
マシューが尋ねると、アリスはため息をついて、
「ま、いいけど?」
と笑いました。

今年の一件目はマシューの家です。
「じゃあ、去年と一緒で、僕がせーの、って言ったら、だよ!」
「……………………せーのっ!」           



現在のゆずとものひとりごと

我ながら可愛い話と思いつつ残酷な話だと思ってる。
話せない人間に話すことを強要する恐ろしさはある。
でも、この主人公の場合、それをプラスに受け取って話す力に変えてみせた。とりあえずこういうことで。
自分が主人公の立場なら怖くて泣いてると思う。
多分メンタルが弱りまくってるからか皮肉なことしか言えないくらいやさぐれたかでこんなこと言ってるだけだけども。」

ここの文章があまりにも蛇足なことに気づき始めた(今更)
いい評価貰いたくてこれアップしてるのに何故自分の作品をdisるあとがきをいちいち書いてるんだろう…不思議……

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