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若さと美貌

 女性ばかりでぎゅうぎゅう詰めのエスカレーター付近で、ふと思う。
「私は明らかに周囲の女性より若いし、ある程度美人な自信はある。でも、みんながそんな顔をして歩いている。いつか私のこの自信がなくなったとき、私は何にすがって生きていくのだろうか。」
 私は都心の通勤中、人混みに紛れている訳ではない。何を隠そう、宝塚歌劇団の宙組公演を観劇し、劇場から出るまでの道を進んでいる。
見た感じ二十代から六十代くらいの年齢層だろうか。もっと年輩もいるかもしれない。九割型着飾った女性と、あとは数少ない男性で構成されている。
 まるで少女漫画のような夢を与えてくれる宝塚はいつだか百周年を迎えたらしい。いつの時代も女性は夢を見る。でも、たまに思う、さっきのように。本当にここにいる皆が自己顕示欲も一切なく、純粋に舞台を楽しんでいるのだろうか。少しでも舞台に立つ側になってみたいとか、誰々に似ているとか、誰々と同じ年だとかそんなことを考えているのではないだろうか。周囲を見ては自分と美醜を比較して、若さを比較しているのではないか。
そんな風に思ってしまうことが、もう吐き気がするほどの自己顕示欲と承認欲求の塊なのだ。なんでもない普通のサラリーマンである私は、こんな自分が嫌になる。

 女ばかりの空間を抜けて、比較的空いた地下鉄の車両の席にもたれこむ。自分が演じているわけではないが、3時間ほどの観劇はいつも疲れる。高揚と興奮による夢に浸っている間は幸せなのに、終わってしまうと疲れた余韻になる。周りの観客に揉まれて劇場の外に出るのもまた疲れる。素敵な舞台を観たのにこんな風に思うなんて罰当たりだろうか。ま、なんというか、基本的にいつでも疲れている。
 帰ったら一人暮らしの城。一人暮らしの部屋は最高に居心地が良い。明るすぎる白い照明が苦手で、電球色の間接照明を使っている。ラグはふわふわ、ソファもベッドも一人には十分大きい。おまけにお気に入りの背の高い本棚まである。自分だけの部屋で何をしようか。あまりお腹も空いていないので、夕飯はお弁当でも買って帰るか。
 こうして週末に充電と呼べるか曖昧なチャージをして、月曜日からの仕事に備えるのであった。

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