「またか」
二日連続徹夜した刑事の厚真は嘆きながら惨たらしいソレを見た。二日間で五件の連続怪奇殺人事件。
否、もはや殺人鬼というべきだ。遺体と呼べない死者の姿は遺族には申し訳ないが連絡出来ない。
「おい、目撃者もいねぇのかよ!」
「それが……俺だって信じたくはないけど。獣だと思いますよ!だけど住民が言うには、人間が人間食らってたらしいっすよ」

なんだそれ。私はただただ口をぽかんと開けて、頭の話を聞くしかなかった。こいつ、寝てないから寝言言っているんじゃないかな?とさえ思えた。
「知恵を貸してくださいよ、雅さん」
「探偵事務所じゃないんだ。帰れよ厚真」
「おらぁ帰りません!寝れない日がいつまで続くかがかかってんだああ!!」
鬼気迫った厚真の叫びにあの女も起きてしまった。
私はあの女は起きてはいけてない、関わらせたくないから帰れと言ったのにと溜息をつきながら頭に指を指して事情を飲み込むように促す。
無駄だが、女は全てを把握した上でニヤニヤしてこう言った。

「殺し屋家業は私の分野じゃないの、厚真」

雅さんのお使いは、よくわからない!僕は愚痴を零しながら走って走って事務所に駆け込む。
きっと、歩は寝てると思うけど……なぁんか今日は嫌な予感がするんだ。
「雅さん!歩はあれ?厚真さんいらっしゃい。厚真さんがいるってことは……」
「私のせいじゃない」
「す、すまない!松君!歩ちゃんが刀を持って出ていっちゃったのは、10分前だ。止めたんだが……お、俺も女房と子供がいるから!」
二日前から五件の殺人事件が起きている、どれも獣が食べたような惨たらしい遺体。内臓がなく肉は残っていた。
「ちょっと、厚真さん。簡単じゃないですか」
「え?」
「犯人は、内臓にしか興味が無い。つまり、移植に使うための内臓を取り出したに過ぎないんです。獣のように食べてるよう装えば確かに怪しまれないから」
「松、お前。ちょっと凄いな」
「雅さん、それどっちですか?」

馬鹿らしいヤクザ共だ、獣を舐めている。
獣は骨以外を食べるんだよ、どうして肉を残しちまったんだろうな?私が捌いてやろう。
歩の刀はキラリと光る、血が滴ったことのない処女のような刀だ。
「っ!だ、誰だテメェ!」
「精肉店の人間だよ?」

止めなくちゃ。歩はいつも無茶をする。か弱くない、あの子は強いけど。だから何だ!
「歩!歩!どこだ!殺したら許さない!どこだ!」
「うるさいなぁ」
「あっ!」
「殺す価値がなかった。だって、刀背打ちでビビるヤクザなんかに、殺す必要ないだろ?」
「歩のバカ、心配したよ」
やっぱり、この子は優しかった。無茶ばかりするくせにか弱くなくない強いのに、殺さない。
そんな君だから、僕は君を光を灯したいんだ。

「い、一件落着!」
厚真は冷や汗が止まらない。松の圧力が止まらないからだ。事務所の出禁が出た。二度と歩に会うなという通知だ。
「入り口で何してんだ。アルバイトの分際で」
「だって!!」
「愛してる女に手を出されたくない気持ちは分かるけどな、違うところでやれ」
「ま、雅さん!ちが!違いますよ!?僕は!ぁあ!厚真さん逃げたな!」

うるさい連中だが、それを受け入れている私がいる。そうか、私は殺したいのではない、光に入りたいから殺したいんだ。生を実感するための殺し。
歩はそこまで思考し、眠りについた。

終わり