ヴィンテージの参入への道しるべ

 これからヴィンテージを始めようという強い意志を持ったプレイヤーの方向けに、デッキをくみ上げるための遥かな旅路の指標となるべく書くことにしました。ヴィンテージはルールスが永久マナを生み出す環境ではありませんし、1ターンキルが高い確率で成功するようなバランスのない環境でもありません。しかし、物見遊山気分で参入するとやけどをするのもまた事実です。某マンガっぽくいえば「あなた、覚悟してきている人ですよね?」という記事です。

ああ、どうか誤解のないように。この記事の中には「きつい言葉」が散見されるかも知れません。しかし、このフォーマットは遊べるようになるまでに多くの犠牲を払わなければなりませんし、遊び相手を見つけるまでにも時間のかかるものですから、言うなれば警告のようなものです。
 大切なことですが、マジックは娯楽です。身の丈に合わないと感じたら、引き返すのが最善です。その選択をしたあなたを笑う人は、だれもいません。

1.マネーゲームと孤独との戦い.

 解決しなければいけないことのひとつはお金の問題です。前職の車好きの同僚は「趣味に生産性を求めてはいけない」と言いながら、どう好意的に見ても日本の公道には必要の無い車にお金をつぎ込んでいました。
 現在のヴィンテージのデッキをゼロからきちんと作ろうと思ったら、適当なレクサスは買えてしまうのではないだろうかという出費を強いられます

 そんなヴィンテージの参入障壁のもう一つは遊び相手が少ないことです。遊び相手については、SNS隆盛の昨今、Twitterで「#MTG #ヴィンテージはじめました 」などと呟けば自然と見つかるでしょうが、デッキがないことには遊べません。
 肝心のデッキがあっても、近くに毎月ヴィンテージの大会を開いてくれる奇特な店でもあれば別ですが、そうでなければ、全国各地で行われる極めて珍しい大会に行くために遠征費を確保しなければならなくなります。Magic Onlineで済ますというのが一番手っ取り早い手段ですが、これは沼の入り口です。いずれ紙が欲しくなるのは目に見えています。

 これからの話は、あくまで個人的な見解です。また、私が参入した当初と相場やメタゲームが大分変動しております。将来に関する予測について、本記事中で述べることもありますが、最終的な参入・カードの取引等の判断は読者の判断に委ねます。

2.デッキは数百万円、その価値があるか.

 ないです。(原価的な意味で)
 黒枠のBlack Lotusの1gあたりの価値は、世界で最も有名なスーパーカーメーカー、フェラーリのフラッグシップ1gあたりの価値を悠々に超えてしまうでしょうが、そんな比較には意味がありません。フェラーリの車は自動車です。イタリアで職人が手で作っていて、生産台数も少ないため、一台あたりのコストが膨大になり、値段に反映されているから高いのでしょう。しかし、どんなスーパーカーであっても、V12エンジンを積んでいて、100km/hに3秒で到達しようが、走行中に燃えてしまうリスクがあろうが、日本の暑さに耐えきれないプラスチック製の内装が溶けようが、自動車であることにかわりはありません。本質的には軽自動車とかわらず、実用に供される立派な道具です。

 しかし、マジックのデッキは違います。それ自身は、CYMKインクをしみこませた紙です。ここにWotCが「この紙をこういう条件下でだしたらこういうことになるぞ」と定義したおかげでその価値が保たれるのです。例えばWotCが「ゴメン明日からこのカード、スタンで禁止な」と言ったら、次の日からカードの値段は下がり続けるわけです。殆どのカードの値段は、WotCの決めた性能、ユーザーの需要、セカンドマーケットの供給のバランスによって成り立っています

 こういう点で、マジックのカードは現代のお金によく似ています。現代の貨幣は政府の信用によって価値が担保されています。マジックのカードの基本的な価値は、(コレクション性などの性質を無視すれば)WotCの信用によって担保され、カードショップが需要と供給を見ながら価格を判断しています。カードの価値に影響を与えるのは、ローテーション環境の存在、再録禁止カード、そして古いカードほど印刷枚数が少ないという3つの要素です。

 デッキの価値はあくまで「積まれたカードの現在の評価額の集合」でしかありません。当然、価値の変動によって安くなることも十分にあり得ます。

 再録禁止カードはずっと高いままというわけではなく、上位互換や亜種の登場によって価値を下げることがあります。たとえば火薬樽/Power Kegは、ウルザスディスティニーに収録されており、再録禁止カードに指定されていますが、亜種に仕組まれた爆薬/Engineered Explosives(フィフスドーン), 漸増爆弾/Ratchet Bomb(ミラディンの傷跡)があります。「蓄積カウンターにより」というところだけ見れば、最近の灯争大戦にも爆発域/Blast Zoneというのがありました。火薬樽/Power Kegが弱いというわけではありませんが、多様性が生まれることでカードの価値が下がることもあります。

 価格変動のリスクについては後段で解説します。一般的に古いカードは刷られた枚数が少なく、どうしても再録禁止カードでよく使われるものは高額になりやすい傾向があります。黎明期のカードは発売後、かなりの年数が経過していることもさることながら、現在当たり前のように使われているカードスリーブが当時は存在しなかったこともあり、状態の良いものは数が少ないのです。

3.青を使うか、それが問題だ.

 ヴィンテージを始めるには、まずメタゲームを知り、アーキタイプを把握することからスタートすることがよいと思います。私が2014年秋頃に参入を決めたときはRavager shopsがTier1の一角でしたから、まずこれを目指すことにしました。

 なぜこれにしたかというと、当時は黒枠のAncestral RecallとTime WalkのEX以上を2枚とデュアルランドを揃えるより、Mishra's Workshopを4枚揃える方が安く、冬の賞与を含めてなんとか決済可能だったからです。(計画通りに行けばこうなるはずでしたが、実際は洗濯機の故障により、こうはなりませんでした)

 つまり、まずPower9のうち、Mox全種とBlack Lotusを入手することにしたわけです。しかし、実際にPower9の収集を始めてからヴィンテージで紙デビューするまでに年単位の時間を要しました。現在のPower9はその当時より高額ですから、もっと余分にかかるでしょう。

 そんなわけで、まずPower9を揃える上で、「青を使うか」というのは重要な要素になります。青を使うデッキの場合、もれなくデュアルランドとフェッチランドにかかるコストが発生しますから、土地カードにかけるコストが高くなります。一方で、必ずしも全色分のMoxを揃えなくても機能することが多いので、MoxにかけるべきコストをAncestral RecallやTime Walkにまわすことができるようになります。

 青を使わない選択をした場合、アーティファクト主体のデッキか、墓地利用を主体とするデッキのいずれかが現状のゴールになります。コスト的には墓地利用主体のデッキが割安です。どちらもアーキタイプとして完成されており、積まれるカードも使い回しが効かないものが多いですが、MoxとBlack Lotusを積める点でどちらかといえばアーティファクト主体のデッキのほうが発展させやすいと思います。

 作るデッキのアーキタイプを決めたら、MTG goldfishなどのサイトでメタを監視しつつ、format staplesで使用率の高いカードを見て、カードを集める順序を決める指針にしましょう。ヴィンテージのデッキの殆どはデッキリストを見てもどのような動きをするのか想像しにくいので、youtubeなどで動画を検索して実際にプレイしているのをみておくことをオススメします
 ただし、ここで気をつけておかないといけないことがあります。現代マジックでは、デッキリストがインターネットを通じて速やかに公開されるため、プレイングが重要です。ヴィンテージではプレイ人口が少ないため、サイドボードを含めてそのままデッキリストがコピーされることが少なくありません。したがって、カード採用率を鵜呑みにしてカードを揃えると不要な出費になることがありますので、土地カードの採用配分などは、ご自身の経験や、既にプレイしている人の意見を聞くのがよいと思います。

※ 2020年5月25日18時55分追記:
 ここでは「Power9の収集が終わって、はじめてスタートラインに立つことができる」と捉えられるような書き方をしていますが、あくまでトーナメントでそれなりの結果を残すのに必要なものだと私が考えているからです。
 トーナメントで結果を残しているごく一部のデッキにPower9やBazaar of Baghdadなどの高額カードが詰まれていないことがあるのも事実です。
 Power9をデッキに採用しないことを電源系ゲームに例えるなら、「ラストダンジョンに中盤装備で挑む」ようなものでしょうか。何らかの縛りプレイや、それなりの理由が無ければ、そのような選択はしないはずです。
 仮にPower9がなくてもヴィンテージに参戦することは可能ですが、Power9を積んだ「平常運転」のヴィンテージのデッキと互角に戦えるかどうか、もし、そうするなら参戦する前によく考えたほうがよいと思います。(プレイヤーとしては、こういったデッキで挑んだ結果惨敗し、「ヴィンテージはぶっ壊れ環境」と誤解されたくないのです)

4. カードの価格変動のリスクを呑めるか

 どのカードから集めれば良いのかわからない、という疑問はもっともです。ましてや高いカードは数十万円です。年単位でデッキをくみ上げるのは非常に強い精神力を要求されます。それを補強するひとつのネタとして、価格変動リスクの話をしておきます。

 新しいエクスパンションの発売がリスクになることが多いです。最近あった中でカードの採用に大きな影響をもたらしたカードは、灯争大戦の覆いを割く者ナーセット/Narset, Parter of Veilsです

Narset, Parter of Veils / 覆いを割く者、ナーセット (1)(青)(青)
伝説のプレインズウォーカー — ナーセット(Narset)
各ターン、対戦相手はそれぞれ、カードを2枚以上引くことができない。
[-2]:あなたのライブラリーの一番上からカードを4枚見る。あなたはその中からクリーチャーでも土地でもないカード1枚を公開してあなたの手札に加えてもよい。残りをあなたのライブラリーの一番下に無作為の順番で置く。

 これは制限カード入りしましたが、このナーセットの存在から青系デッキでのLibrary of Alexandriaの採用率がガタ落ちし、現在では殆どみられなくなりました。

Library of Alexandria
土地
(T):(◇)を加える。
(T):カードを1枚引く。この能力は、あなたの手札にカードがちょうど7枚あるときにのみ起動できる。

 Library of Alexandriaの価格も右肩下がりに転じており、Power10とも言われたLibrary of Alexandriaですら、一枚のカードによって値下がりの憂き目に遭ってしまうのです。
 いくらなんでもLibrary of Alexandriaクラスのカードの採用率がガタ落ちすることなど、そうそうないことだと信じたいものですが、こういうリスクがありうるということは知っておくべきです。

 大会の成績によってカードの価値が変動することもあります。同じArabian Nightsのカードですが、Bazaar of Baghdadが激しい値動きをしました

Bazaar of Baghdad
土地
(T):カードを2枚引き、その後カードを3枚捨てる。

 このカードはもともとドレッジと呼ばれるアーキタイプの主体になるもので、大きな値動きは2016年春頃に古いカードが全般的に値上がりしたとき位しかなく、かなり安定した値動きをしていましたが、2018年頃から値段がじわじわ上がり始めました。2018年9月のエターナルウィークエンドで結果を残したHollow VineにBazaar of Baghdadが搭載されていたことと、Dredgeがモダンホライズンの発売で強化された影響が考えられます。現在は若干下げましたが、それでも2016年春以前に比べればかなり高い水準です。

 他のフォーマットの変動により、価格が変動することがあります。最もあり得るのがスタンダードで強いカードがローテーションで使用不能になり、価値が下がるケースです。Twitterでバズったウルザの後継者, カーン/Karn, Scion of Urzaは一時5000円台を付けていましたが、執筆時点では1000円を割る勢いです。

 このように、価格変動のリスクは常にあります。特にヴィンテージでしか使用できないカードもあるため、「どのカードから揃えるか」というのを決めるのは非常に重要なことです。どれから集めるのか意思決定をするのは非常に難しく、リスク資産への投資を思わせます。

 私は普遍的な価値を持ったカードから集めることにしています。例えば、Power9が禁止になることはヴィンテージというフォーマットがなくならない限りないでしょうし、例えば、デュアルランドはレガシーというフォーマットがある限りは、ある程度の価値を保つと考えているからです。

5. 予算を守って楽しくヴィンテしよう.

これは蛇足ですが——
 一ヶ月にいくら使って良いかとか、配偶者をどう説得するかとか、そういうのはマジック以前の問題です。「売れば大丈夫」という考えは危険です高額なカードほど買ってくれる店は少なくなります。当然、買値と売値で差額があるわけですから、買ってすぐに手放しても購入金額の全額は取り戻せないかもしれません。

 くりかえしますが、マジックは娯楽です。マジックのカード自体は何も生み出しません。売買で利益を得たりするのはオマケです。ヴィンテージはマジックを通じて、人と出会い、同好の士と交流するフォーマットのひとつに過ぎません。

どうか、そのことを忘れずに、こちら側に来てください。

※ 2020年5月26日 16時50分
スプレッドの表現について訂正し再送しました。

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