ドメスティック・バイオレンス父

綿矢りささんの「ひらいて」を読んだ。
個人的に恋愛を原動力として人に迷惑をかけまくる話が好きじゃないので、ゲ〜となるか、それとも純度の高い本気に触れて感動するかどっちかかな?と思っていたのだけど、後者だった。

そもそも読もうと思ったきっかけが映画にHiHiJetsの作間くんが出演するということだったのだけど、彼が昨年末に出演したラジオドラマ『オートリバース』と似たものを切り取っているように感じて、そこもおもしろかった。
この2作をひとりの人で繋いで並べられたというのは貴重なことだと思ったので、せっかくなのでそこにフォーカスを当てて感想を書こうと思う。


わかりやすく同じ点は、作間くんが演じるキャラクター・高階とたとえが父親からDVを受けているという点で、これは高階とたとえの根本的な薄暗さに関係する。

それから、高階とたとえは両作品を比較したときに似たポジションにいて、どちらも主人公の内側に触れる物語のトリガー的な存在である。

直と愛の恋心は"自分だけが知っている"という感覚で焦がれる点が共通していて(わたしはオートリバースを本気のBLだと思ってるのでしれっと恋心と表記します)、その対象となる怖いもの知らずの高階と大人しくてミステリアスなたとえという、"理想の男の子像"の時代的な変遷も納得できる。
(作間くん、高階は声だけの演技だったとはいえどっちもハマってるのがすごいですよね。)

そもそもわたしは『オートリバース』を読んで結構ハァ?と思ったのだけど、その理由が、直は自分の内側で葛藤するばかりで高階の苦しみを一切救おうとしないから。
挙句、高階が直に残した最後の言葉が「泣くなよ」という、呪いみたいな言葉だったから。
正直、辛いときに素直に泣ける方が本当の強さなんじゃないかな?と思った。

『ひらいて』の主人公・愛は真逆で、タイトルの通りたとえに自己開示を迫った。

簡単にまとめてしまうと、昭和の男の子・直と、令和の女の子・愛(ひらいて出版時は平成だけど内容的に令和っぽいと思う)に理想の男の子が現れる。
そしてその男の子がDV父という家父長制的な支配に苦しんでいたとき、それぞれどうする/したいのか。
そういう比較が成り立つと思う。

わたしはあまり男だから偉いとか女の方が優性とかって考えはしたくないタイプなのだけど(男女関わらず強い人は強いし弱い人は弱いという所感なので)、わたしが女だからなのか、断然『ひらいて』の方がわかるし気持ちが良いなと思った。

あと決定的に何が違うって、愛がたとえの父親をぶん殴ったこと。
DV父に何も触れられることなく、ただ「泣くなよ」と遺して死んでいった高階と比べたら読んでいてスカッとしたし、そう!そうだよな!わたしだってそうしてやりたい!と思った。

たとえの父親を殴るとき、"私は恋をして自分のふがいなさを味わうまえは、怒りと自信に満ち溢れた女の子だった。私はまだ失っていない。この向こうみずな狂気があれば、なにも恐くない。私はだれにも、負けたりしない。"という独白が入るのも、個人的にはすごくしっくりきた。
暴力的価値観から抜け出せず、高階からの「泣くなよ」という呪いを欲しがった直にイライラしたことを考えると尚さら。
女だからこその"向こうみずな狂気"ってのは、体感としてわかる。

他にも筆舌つくしがたいシーンがたくさんあってめちゃくちゃ面白かったけど、結構ガールズエンパワメント的な側面が強かったと思う。


『ひらいて』に対しての感想としては、"女の子"の感覚が当たり前に描かれ過ぎていて、この感覚がない人はよくわかんないんじゃないかな?と思った。

わたしなりに言語化するなら、
①女って自分を含む"女体"が結構好きだったりする。
②好きじゃない人以外の男にあんまり興味がない。なんならちょっと軽蔑している。
③弱い(と感じた)ものを守りたいと思ったときに芽生える母性は自分を食いちぎるくらい強くて痛い。
この感覚がないと感情や行動の流れがわけわからないんじゃないかなーと思った。
(もちろん当てはまらない女もたくさんいると思うけど、わたしの所感としては結構多くの女にある感覚だと思う)

この感覚、あまり説明されてきていないというか、それこそようやく今こうやって映画化されたり、カルチャーとして公になってきているのかなと思う。
この作品自体にも説明がないからわかりにくいけど、反対にこの感覚を持って生きている人はぬるぬるっと理解できて、あまり読書体験のない人でもめちゃくちゃカタルシスを得られるんじゃないかなと思った。

わたしは冒頭に書いた通り恋愛を原動力に周りに迷惑をかけまくる話が苦手なので、まんま愛のような人間ではないのだけど、感覚としてはかなりわかる…というところが多くてゾクゾクした。

あと自己開示を迫る的なところはかなり身に覚えがあるのでめちゃくちゃわかる。
(オートリバースにもハァ?と思うタイプだし…)

貞淑な母親との対比もおもしろかったな。

最後の書評が光浦さんってのにも痺れた。内容もすごく素直でじーんとした。
(わたしは母性という言葉を安易に使いたくないのだけど、この作品に対しては恐れずに使っていいな!と思えたのは光浦さんの書評のおかげ)

総評として、すごくおもしろかった!


良い体験だったのであえてオートリバースと比べてみたけど、どっちがダメとかじゃなく、物語は正解不正解関係ないからおもしろいのが当たり前で、未だに血管に直接オートリバースを注入してくれ!と思う日はあるし、ほのかにキラキラと輝いているのはどちらかと言われればオートリバースを選ぶ。やっぱり弱さって愛しんでナンボだし。
己に走る血をたぎらせるのはひらいてというかんじかな。


とにもかくにもどちらもおもしろかったし、ふたつそろって尚おもしろかったのでhappyだった。
役者を追ってこんな体験ができるのって素敵なことだ!
映画も楽しみ。
それに、現代でよりいっそう輝く作品にリアルタイムで出会えるととてもうれしい😃✨

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