カタツムリ

たしか小学5年生のころ。
図工の時間に粘土で好きなものを作りましょうという授業をやったのだが、ひとりずつ完成品を発表するくだりで、わたしの後に発表したクラスメイトが「さっきの子(わたし)と同じ!どっちがパクったの?」と先生に怒られた。

先生は若くて、その1年で退職してしまったと記憶してるので、今思えば先生に向いてなかったんだろうなと思う。

教室はシーンとなってしまって、当時おとなしめの生徒だったわたしはいきなり問題の当事者にされたことにビックリして何も言えなくなってしまった。
教卓の前で発表していたクラスメイトの顔も引き攣っていたが、その場をどうにかしようと発表に戻ろうとしたら「勝手に進めるな」と更に怒られてしまった。

どっちがパクったのかハッキリさせろという流れになり、おとなしかった幼少期のわたしは何も言い出せなかった(大人になった今でもなんて言えば良いのか困ると思うけど)のだが、当時わたしは図工が得意な人というイメージで通っていたからか、クラスメイトたちがぽつりぽつりとわたしの方が先だったと思うみたいなことを言い始め、結果わたしがオリジナルということになり、パクった方は「残念ですが今回は0点です」みたいなことを言われて終わった。

いかんせん子どもの頃の記憶だから、今さら詳細に答え合わせをする術はないのだが、わたしはこれを苦い思い出として長い間封印しており、最近になってふと人に話したのをきっかけにそういやこんなことあったな、と思い出した。

正直な話、パクられたのは事実だと思う。席も近かったし、作りながら話していた気もするし、良いなと思って真似することはふつうにあると思う。子どもなら尚更。

ただ、わたしはあのときアイデアをパクられたことに怒りも悲しみも何も感じていなかった。
わたしの心が壮大だったとか、クラスメイトに同情していたとか、そういうわけではない。

たしかわたしはウサギやクマやネコなどさまざまな動物が集まる学校をテーマに、動物たちが教室で朝礼をしているところを作った(クラスメイトは朝礼を帰りの会に変えたようなかんじの作品を作っていた)。
それを聞いただけではいかにも小学生女児らしいかわいい内容に聞こえるが、わたしにとってその作品のキモは動物たちの首から下が全員カタツムリになっていることだった。

何故かわたしはあの頃カタツムリにハマっており、自由帳にも背中にカタツムリの殻がついた人を描いたりと、とにかくカタツムリを良いものとして扱っていた。
たぶん、殻のうずまきを可愛いと思っていたのと、ドラえもんのまんがででんでんハウスという道具を見てめちゃくちゃ良い!と思ったのが理由だと思う。

今になってあの頃の考えを言語化するのなら、具体的にはカタツムリそのものが好きだったわけではなく、背中にパーソナルスペースを確保していて好きなときに入れるというカタツムリの概念を好いていたのだと思う。だからいろんな動物にうずまきの殻をドッキングさせ、特に学校というパブリックな場においてはそれがあったら良いなーと思って作っていたんだと思う。

ただ、わたしはこんな突飛な発想をするわりに変に要領の良いガキだったので、当時はそれを上手く話せる自信もないし、理解されないだろう(そうなると嫌なことを言われるかもしれない)ということがわかっていたため、発表ではそのことについては触れず「動物の学校で、みんなが朝の会をしているところです」とだけ言った。

今思えばいちばんクレイジーな選択をしていると思う。
頭部はウサギやクマなのに首から下はカタツムリのキメラたちが雁首揃えて朝礼をしている特異な作品を作っておきながら、カタツムリに触れない。
いちばん狂っている。
小学生なのだから、何その動物キモい!などと野次られてイジメが始まってもおかしくないのだが、いかんせんわたしは図工が得意なキャラクターというのもあったし、地元の友人いわく「世界観が強すぎて、何か間違ったことを言ったら呪い殺されそうな迫力があった」とのことで、何も言われなかった。
わたしは「よし、みんな気づいてないな、良かった」と思っていたのだが、もしかしたら怖すぎて触れられなかったのが正解だったのかもしれない(でも実際気づかれてなかったと思う、いまだに)。

ということで、わたしの作品は"動物たちの学校"じゃなく"カタツムリっていいな"だったので、クラスメイトに対して何も思わなかった、が正解でした。


最近この一連の話を思い出したので、当時同じクラスだった友人に話してみたところ、そのことは覚えていないがそういう授業があったことは覚えていて、「懐かしい!飼ってた犬を作ってしばらく玄関に飾ってた!」と言われたのだが、そのときに実在するものを作って飾るという発想はなかったなと思った。
わたしは昔からずっと空想のものを作り、作ったら捨てていた。

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