この胸の穴はあなた

※オートリバースのディレクターズカット版を聴いた後に勢いのまま書いた感想文が残ってたのでアップします😕

今はもうちょっとクールダウンしてるし、感想も変わってるかも。








HiHi Jetsの猪狩くんと作間くんがラジオドラマをやると聞いて、面白そうだな〜と思っていたらやたら美しいビジュアルポスターが9種も公開されたりして、なんか…大人がマジじゃね?と思ったので心して聴いた。
最初、聴き方がよくわからなくて、ダイジェスト版のようなものを聞いてしまい、それだけでかなりお腹いっぱいなってしまったのでフルの方に手が伸びず、そのまま配信期間は終了してしまった。
その段階でもうご勘弁を…てかんじだったのだが、まだ激情冷めやらぬ数ヶ月後に「あれで終わるはずがないと思っていた皆さん‼️」とかいう狂った切り出し方(あれ以上の終わりがあるか)でディレクターズカット版の再配信が決定し、もう観念してフル?で聴いた。
やっぱりフルの方が喰らう箇所も深さも段違いだったということで、良くも悪くもひさしぶりにかなり面白いものを聴いたと思う。
なのでせっかくだからしっかり感想を残しておく。

『オートリバース』は、高崎卓馬による青春小説。
アイドル全盛期となった1980年代を舞台に、親友となった二人の男子中学生が当時無名時代だった小泉今日子の親衛隊に入ったことを機に親衛隊の暴徒化などの様々な出来事に直面していく青春群像劇である。(Wikipediaより)


まず、大きく抱いた感想は「男、嫌だ〜!」と「直の夢小説じゃん…」と「めちゃくちゃBLだな」だった。
50代男性の嫌なところを真正面から切り取った非常に純度の高いBL、そして夢小説だったと思う。


直は、親の離婚が理由で福岡から千葉へ引っ越してきた転校生。
一見おとなしい少年だが、複雑な家庭の事情や持って生まれたナイーブな感性のおかげからか、内心はちょっと尖っていて斜に構えているところもある。
時代なのかなんなのか学校はヤンキーだらけで、先生はそんな生徒たちを猿と呼び、直は漠然と世界に対する"居心地の悪さ"を感じていた。

そんな直の目の前に彗星の如く現れたのが高階で、彼は直と同じ境遇で同じタイミングで同じ学校へ転校してくる。
「遅れました!今日転校してきた高階です!高階ヨシヒコ。親が離婚したばっかで、まだこの苗字慣れてません」
高階はあっけらかんと話し、ザワつく教室を一瞥すると、
「この学校、クソみてーなやつしかいねーな」
と直に耳打ちする。

似たものを抱えた2人は仲良くなるのだが、大人しくて繊細な直に反して高階は常に堂々としていて、喧嘩を売られれば返り討ちにするし、女子にもモテる。
そんな2人のチグハグさから、直は"高階のパシリ"だと揶揄されるが、当の高階はもちろんそんな風には思っておらず、直のことは「ダチだ」と言う。

なんだかんだあって2人は小泉今日子の親衛隊に入るのだが、当時のアイドルの親衛隊というものは血気盛んな若者たちがアイドルを守るという名目で暴力行為を正当化し、暴走族に姿を変えていったりする面もあったらしく、元々カリスマ性のある高階は己の拳でどんどんトップへのし上がっていく。
直は暴力行為に馴染めず、変わっていく親衛隊と高階を終始儚んでいるのだが、その心優しさに胸打たれた元トップの彼女、通称・姫に想いを寄せられる。

要するに、直と高階は親衛隊を通して居心地の悪かった世界に"居場所"を得る。


まずこの時点でわたしの「男、嫌だ〜」があった。
居場所を得るために栄誉を必要とする点。
わかりやすく暴走族のトップになった高階はもちろん、直の元トップの彼女を自分のものにするというのもトロフィーワイフ的なものだと思う。
むしろ、個人的には自分の実力で栄誉を掴み取った高階より、内気で繊細で物事を儚んでいるだけの直に元トップの彼女(しかもあだ名が姫)という最高のトロフィー女が心を寄せてくれるというのがなんていうかラノベ臭いなと思った。

こういったトロフィーでアイデンティティを得る価値観にはじまり、俗に言う昭和的価値観は物語の随所に散りばめられていて、心優しい直がトップの浮気に落ち込む姫に投げかけた励ましは「どうせブスだよ」だったし、そもそも舞台設定がしっかり昭和なので当たり前にそういうものが描かれた話なのだけど、長らく女の子を苦しめてきた暴力的な価値観を前提としたストーリーを、若い女の子をターゲットに活動している令和の男の子アイドルに演じさせ、令和を生きる若い女の子に聴かせるのは悪趣味だなと思った。

でもその古めかしくも確かに存在した(する)生の価値観と、それによって奔走する少年たちの焦れったさが完璧に物語へ昇華されていて、完成度はマジでめちゃくちゃ高い。
これは本当に重要なことで、クオリティがこんなに高くなければわたしだってくだらね〜の一言で終わらせられた。
物語のクオリティの高さのおかげで、思い出すたびにいろんな感情が割り切れずに混ざり合いクソ…となってしまう、それがオートリバースなのだ。
これから最後までずっとそういう話をする。

もう一つの感想「直の夢小説じゃん…」なのだが、
なんだかんだあって暴走族のトップに上り詰めた高階は白血病を発症し衰弱して死ぬ。
死に際、高階は何気ない日常を脳裏に浮かべながら後悔と未練と諦念を胸に抱き、最後の最後に

ーチョク、チョクにもう一度会いたい。
あいつはなんでも自分のせいだと思う優しいやつだから損ばかりするんだ。
俺がいないと何もできないんだ。
ああ、ウォークマン借りたまんまだ。

と思う。

これを聞いたとき、高階って直に対してこんなこと思ってたの!?!?とめちゃくちゃビックリした。
たしかに直は繊細な奴だった。暴力行為にも馴染めない。暴走族にもならなかったし、なれなかった。
でも高階だって義理の父親に虐待されたり辛いことはたくさんあって、居場所がなかったのは同じで、それでも負けずに拳ひとつで居場所をもぎ取ったってのに…
それなのに「あいつはなんでも自分のせいだと思う優しいやつだから損ばかりするんだ」なんて思いやる余裕あるかね!?

そう、こうやって異常に直を理解している高階といい、前述した通り儚んでいるだけで心を寄せてきた姫といい、オートリバースは全体的に直に都合が良すぎる。もはや直の夢小説といっても良い。
なので、夢小説として読んだとき、死に際の高階にこう思ってもらいたい直の業の深さヤバくない!?!?!?と二段階でおったまげた。

オニヤンマのくだりといい、イカロスの翼のくだりといい、直はやたらとポエミックなことを言いたがる(この文学への感度の高さも自作夢小説感を高めてくる…)。
それに対して、高階はいつも「知らねえ」「何それ」だったじゃないの。高階は強くてかっこいい豪快な男だからポエムはやらないんだよ。
なのにどうして最後の最後に「あいつはなんでも自分のせいだと思う優しいやつ」なんてドンピシャの解釈になってるんだよ。
高階の境遇を考えたら、なんでもかんでも儚んでばかりでなんにもしない意気地なしという解釈になってた方が自然じゃないか?
あと姫もふつう好きになるなら高階だろ。浮気されて傷心だからって直に行くなよ。暴走族トップの彼女になった実績を持つ女だぞお前は。あだ名姫だぞ。もっと上いけるし、どうせすぐ飽きるだろそんなポエミック陰キャ。

前提として、わたしは夢小説やラノベがかなり苦手である。
その理由のひとつがまさに主人公(直)以外の苦しみが透明化され過ぎていて全然納得がいかないからである。
高階も直もこの世界の居心地が悪かったから、高階は暴力の道へ走り栄誉を目指した。これは昭和の暴力的価値観の上では王道のグレ方であり、居場所を得るための正規ルートなのだと思う。
直は王道を走れなかった。
違うのはそれだけで、結局どこを走ろうが根本を解決しなければ人は癒やされないんじゃないかと思っている。

わたしは人ってみんな弱い筈でしょと思っているし、強くなるためには弱さを認めるところからだと思っている。
だから最後の最後、高階に貸したウォークマンが直の手元に返ってきた時、そこに吹き込まれていた「もう泣くなよ」という言葉がまったくしっくり来なくて、最後に伝えたいのがそれなんだってビックリした。
別に辛いときは泣けば良いと思うし、辛いときに辛さを認めて泣ける人の方が強いと思う。
自分の弱さや苦しみを受け入れられない人は基本的に他人のソレも受け入れられないし、それでは何も救えないから。

暴力の道へ走って、自分は強いと信じ切ってそのまま死ねたらそれはそれで気持ちいいだろう。
そして「あいつは俺がいないと何もできないんだ」と思いながら死んでいくこと、裏を返せば自分の強さを過信して更に他人に託すこと、それが男の幸せなのだとしたら、わたしはそれを弱いと思う。
黙って託されておけば都合良く守ってくれるのかもしれないけど、昔からそれがほんとうにつまらなくてイライラしてしまうし、弱いと感じる人に身を預けることはできない。
なのでわたしはこういった価値観にはケチをつけないと気が済まない。

気が済まないんだけど、ただ高階と直だけの世界の話をするならこんなにデッカい感情ないだろと思う。
ここで3つ目の感想「めちゃくちゃBLだな」の話になるんだけど、「俺がいないと何もできないんだ」ってそんな感情、友だちに抱きますか?
わたしは友だちってあくまで対等な関係だと思ってるんだけど違います??
高階も高階で直にめちゃくちゃ夢見てるよね。業まみれもいいところだよ。
結局高階も男なんだよね。強くてかっこいい俺、そして俺がいないと何もできないスーパーメルティ直ちゃん。そして最強にかっこいい親友に愛され過ぎて困っちゃうぼくこと直ぴょん。
めちゃくちゃBLだろこんなものは。
いいのか?それで。いいんだよな。男同士、外では意地張って、内心では傷舐め合って、それがいちばん満たされるんだよな。
死に際に親友のことを考えながら女神(小泉今日子)にKissされるってどういう状況だよ。極限かよ。
高階も直もほんとにバカだな。お前らがkissしろふつうに考えて。何どっちも女とkissしてんの?女とkissしたときいちばんデッカく胸に巣食ってたのは誰だ?自分の心に聞いてみろよ。
大好きなのは高階、そして直だろ。お前らがkissしろっつーの。
そして2人で花を育てろ。世界一美しい花をな。

そして何度も言うけどわたしはオートリバースを直の自作夢小説だと思っているので、つまり直ってBLしたいんだと思った。
かわいい女の子からキスされるより、本当は強くてかっこいい理想の男の子に「俺がいないと何もできないんだ」って思われたいし、「もう泣くなよ」なんて遺言で呪ってほしい。
繊細で何もできないぼくちんのくせにホモソーシャルに憧れてるんだよね。
都合良すぎて何だそれって思うけど、ソレ女の世界じゃBLって呼ばれて食い物にされてるよ。win-winで良うござんしたね。腐女子にモテてろ!(わたしは腐女子にモテてろ!という悪口が大好き)

とまあ、これだけ言っておいてなんだけど、こんな正論(しかも自分主観の)ばかり言い続けるのも野暮だと思う。
これも繰り返すけど、ほんとうにものすごくクオリティの高い物語だと思う。
物語に対して、妥協や手抜きを感じると怒りだけで終われるのだが、オートリバースは妥協や手抜きを感じなかった。陰キャのホモソーシャル夢BLとして2000点を叩き出している。
こういう価値観は確実にこの世に存在するし、直の情けない自意識もすごく正直なものだと思うし、誰の都合にも左右されない確かなリアルがものすごい純度で詰まっていた。
これぞ物語のあるべき姿だし、持論として、共感できない物語こそ摂取した方がいい(納得できないものは別)と思っているから、聴けてよかったと思う。

人間は誰しも正しくないし、弱さや歪みが文学なり恋なり萌えなりそういうものを作る。
実際こんな長文を書くほどの熱を己の内に宿してしまったし、最近、特別疲れた日の帰り道はドラゴンフライを擦りまくってるし、直接血管にオートリバースを投与してくれ!と思うようになった。
あえて書かないけど、猪狩くんと作間くんの声もほんとうにすごく魅力的だったし、演技も素晴らしかった。
オートリーバスは宝物だよ。
高階と直は巨大なBL、美しい花、クソジジイの夢。


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