本気の誠意
先日、Huluでポケモンの1話を見た。
初代無印の1話、つまりガチの1話である。
リアルタイム放送時、自分はたぶん5〜6歳で、例に漏れずわりとしっかりめにハマっていた方だと思う。
なのでガチ1話も既に見たことはあったのだが、大人になって見返すとやっぱり違う視点から感じることもあり、改まって大いに感心する点があった。
サトシのデカさである。
サトシはポケモンマスターになるための大事な旅立ちの朝に寝坊をし、夢にまで見た“最初の3匹”を全てライバルたちに取られてしまったため、見たことも聞いたこともない黄色いピカチュウをパートナーにするという悲しいスタートを切る。
サトシは10歳ということもあり、まだギリギリ気持ちまかせに公道で全裸になっても許されるくらいの年頃なので、並みの子どもなら大泣き不可避だろうが、サトシは文句のひとつも言わないどころか全ての原因が自分の至らなさ(寝坊)にあると理解しており、その上でピカチュウも良いじゃんと言ってのける。
人間が出来過ぎている。正直、大人でもここまで出来れば優秀な方だと思う。
さらに、見送りにきたサトシの母も、これから危険がいっぱいな野生の旅に出るという息子(しかも10歳)に対して寝坊は自分の責任だと説いた。
この親にしてこの子ありというかんじだ。
現実世界でも、なんかこの人は骨の髄まで洗練されているぞ…と感じさせる人は、たいてい生まれ育ちが違う。
親がめちゃくちゃどっしりしているというのは、サトシがすごい奴であるということを裏付けるのに充分過ぎるスパイスだった。
(それでいて庶民的な雰囲気もあって、世間一般の母親像をはみ出ないのだから、サトシがポケモンマスターになった暁にはどこに出しても不足がないどころかおつりが来る親だと思う。)
ポケモンマスターになる、、コイツならもしかしたらもしかするかもしれない。
そう思わせるだけの材料は既に出揃ってはいた。
さらに例のピカチュウだが、もうとんでもない暴れ馬であった。
サトシに対してとことん非協力的で、いっそいやがらせすらしてきた。
しかもまだサトシに慣れていないとか、慣れ親しんだ環境から離されて不安になっているとか、そういう動物的本能から反発してくるわけではなく、完全にサトシを困らせてやろうという意図のもと行動する生粋のへそまがり、まるで可愛げのないポケモンだった。
しかしサトシはピカチュウに対しても終始「そういう時もあるよな」「そういう奴もいるよな」というスタンスを貫き、一切の愚痴もこぼさず付き合い切る。
これがほんとうにすごいと思った。
大人だって立派な態度は取れても実際にのしかかるストレスからは逃げられないし、ストレスが溜まれば正しい判断もできなくなり、無理を続ければ体調にしわ寄せがくるようにできている。
いくら自己責任とはいえ、夢のポケモンマスターへの第一歩がこんなにも理想とかけ離れていたら…しかも初対面の異種族から単純な悪意でいやがらせを受けていて、親もいない、家もない、、、
わたしは昔「寒い」という理由で大泣きしながら家に帰ったことがあるので、ただただ感心するばかりだった。
そのあと、遂にサトシは野生のオニスズメの攻撃からピカチュウを守り、ズタボロになる。
こういったサトシの態度と行動が伴った本気の誠意で、最終的にはピカチュウもサトシに心を開いたわけだが、その関係はまるで引きこもりと夜回り先生みたいだった。
これがわたしの心に引っかかったのは、たいていのアニメって主人公が弱いからだと思う。
ガチ1話を見た数日後、たまたまつけた名前も知らない少年向けアニメ(たぶんヴァンガードか何か)の主人公も「できない」だの「知らない」だののたまい続け、大人の懇切丁寧な励ましでようやく「俺が…?」みたいなかんじになっていた。
いかんせん名前も知らないアニメだったのであの少年にどういった事情があるかは知らないけど、途中で大人もちょっと優しすぎるんじゃないか?と思うほどゴネていたし、ゴネ方がナヨナヨしていて鬱陶しかった。
器のでかいサトシなら根気強く付き合うんじゃ?と思うかもしれないけど、嫌がらせに精を出す元気いっぱいなピカチュウと、出来ない知らないと泣きわめく子どもだったら、ピカチュウの方が断然根性があると思う。
そして、もし出来ない知らない坊やとサトシが組んだら、途中で坊やはサトシの強すぎる誠意に耐えられずに失踪すると思う。
だけどたぶん坊やには特別な何かが宿っていて、“俺にしか出来ない”という状況がお膳立てされてるんだろうな。だから大人も優しいんだと思う。
わたしは断然サトシ&ピカチュウの方が好きだし、坊やみたいな奴は全然好きじゃないのだけど、坊やみたいな主人公が多いということはああいったものが多くの人に支持されるということだと思う。
そしてこの支持は“共感”だし、自分もああなれたらな〜という“逃げ”なんだと思う。
ほんとに嫌。
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