2021/12/12悪夢

雨が降りそうで降らなくて、湿度だけが高い。
太陽は分厚い雲に隠れているけど強烈な光は確かに伝わるようなヘンな天気で、辺りはグレーに滲んでいた。

それなりに栄えてはいるがどこか垢抜けない地方都市のような街だった。
最新のカルチャーに追いつこうとする活気は感じるものの、広過ぎる土地を持て余し、ただ大きなショッピングモールとそれに付属する見晴らしの良い駐車場が途切れ途切れに鎮座している。

そこに繁殖し過ぎた鳩のように人が溢れていて、ひとりひとりが自分勝手に動き、まさにウジャウジャという効果音が似合って気持ち悪かった。
更にそのほとんどが制服を着た学生という奇妙な状態で、彼らが発する若さ溢れるエネルギー、裏を返せば何をしでかすかわからないギラギラが渦を巻いてまた気持ち悪かった。

何故かHiHi Jetsの作ちゃんが歩いていた。
ひどくぼんやりしていて、それでいて薄っすら笑っていて、格好もパジャマで、足取りもふらふらしていて、明らかに様子がおかしかった。
どういうわけなのか彼にはひとりも友だちがいないらしい。

歩道橋に張り付く黒い頭の学生カップルの群れを見上げ、「いいなぁ」と思っているようだった。
妬みや葛藤は一切なく、ほんとうに素直にただ羨ましいなあといったかんじで、むしろ違和感を抱くほど無垢だった。

歩道橋の隣の茶色い建物にも学生たちは張り付いているが、その中に1人、おじさんがいた。
おじさんはハリーポッターのハグリッドを日本人にしたような、髭モジャで小汚い、体格はハグリッドに少し負けるくらい…いや、身長はもしかしたら150cmくらいかもしれないが、横には大きく存在感のあるおじさんだった。

おじさんは何故か歩道橋を眺めて薄っすら笑う作ちゃんを見て、「自分と同じ人だ!」と直感した。
おじさんは生まれてからずっと孤独と劣等感に苛まれ、もはや心は溶けて小さくなり、わずかな感情しか感じないよう麻痺しているはずだった。
その心が突然カッと熱くなり、彼と話がしたい!友だちになりたい!と脈を打つ。
急いで作ちゃんのもとへ駆け寄ろうとした。
しかし、おじさんは何者かに"出てはいけないエリア"を制定されており、歩道橋より向こうへ行くことが出来なかった。

もつれた足を見つめ、生まれてはじめてこんなに前向きな気持ちになったと、おじさんはドキドキした。
そして、エリアから出るにはどうしたらいいのかを考え始めた。
頭がそんなふうに動くのもはじめてのことだった。

おじさんは、生まれてこの方とにかくみんなから見下されている気がしていた。
誰もが自分には熱のない態度を見せる。
当然好かれてはいないけど、嫌われてすらいない。事務的な顔しか向けられたことがなかった。自分は価値のない生き物なのだと刷り込まれてきたし、実際に人の心を動かすほどの偉業を成し遂げたこともない。

そこで、とにかく仕事を頑張って関心を集めようとひらめいた。

おじさんはさっそくエリア内にあるゲームセンターへ行き、店内にいた全員を殴った。

このゲームセンターはいわゆるコロッセオのようなもので、そこにいる人は全員殺してもOKとなっていて、むしろたくさん殺した人には栄誉が与えられることになっている。
おじさんにも出来る仕事だった。

手当たり次第に全員を殴ったおじさんは、どこからかやって来た職員に誘導され、奥にあるスタッフ専用の出入り口のような地味な扉の前に立たされた。

扉を開けると、下りの階段だけがあった。
階段も、圧迫するような壁と天井も、何から何まで灰色のコンクリートで出来ていて、窓はなく、埃っぽく、安っぽい白熱灯一本だけがジージーと呻きながら照っている。

言われるがまま階段を降りると、進むほど空気がどんよりと濁っていった。
窓がないのだから当たり前だ。換気されず、悪いものがこもっている。
コンクリートの冷たさと白熱灯の鋭い熱が混ざって温度はぬるく、洗っていない温水プールに潜ってゆくようだった。

最後の一段の目の前に、ステンレスの扉が現れた。
ドアノブを回し開けると、そこは壁も床もコンクリートの、四角く穴を掘っただけのような部屋だった。
壁づたいにずらりとロッカーが並び、まるでプールの更衣室のような造り。
奇妙なのが、部屋中にボロボロの薄いカーテンが垂れ下がり、人ひとり立てるくらいのスペースに仕切られ、とびとびに20人くらいが押し込められている。
全員水木しげるが描いたような素っ頓狂な顔で、まばらに開いたカーテンからいっせいにおじさんを見た。

おじさんは、おそらくここはコロッセオの控室なのだと察した。
暗くて、汚くて、良くない空気が充満した不気味な場所。
しかし、不思議と怖くはなかった。怖いどころか、ここにいる全員にシンパシーを感じている。
外にいた学生たちより異常な生き物だということはわかるのだが、本能的に恐れを感じない。
きっと自分はこの人たちと同じなのだと、おじさんは思った。
特に胸の高鳴りも何もなく、ただ冷静にそう感じた。

だが、心がシンと落ち着いていくのを、頭が違うと叫ぶ。
自分は外に出たかったんだ。
心がドクドクと脈打ち、足の裏まで熱くなったあのときの気持ちを忘れられるわけがない。

「ここから出ませんか」

おじさんは言った。
大きな声を出したつもりはなかったが、よく響いた。

20人は表情を変えないままおじさんをまじまじと見つめ、やがて1人が
「300万だ」
と言うと、
「300万を足して1000万だ」
「3と7を足したら10になる」
「ちょうど1000万円だ」
と、つられて数人が喋り出した。

なんのことかわからなかったが、数人がやけに嬉しそうな顔でおじさんにヒョコヒョコと歩み寄り、思い切り殴りかかった。
拳を避けた先でロッカーにぶつかり、間髪なくまた拳が飛んできて、ガン、ガン、と金属製のロッカーが凹む音が止まらない。
学生同士の喧嘩では到底見られない、無遠慮な、生命を全て預けたような力強さだった。

嬉しそうな顔でロッカーを殴り続ける彼らを見て、もしかしたらここから抜け出したやつを殺せば報酬がもらえることになっているのかもしれないとひらめいた。
しかし、ちょうど1000万とか、3+7は10とか、ブツブツと数字を唱えているその姿は、勝手に作り出したキリのいい計算に脳が喜びを感じ、それに高揚しているだけのようにも見える。
よく考えれば、ここに押し込められた生活のどこでお金を使うかわからない。そもそも自分はお金の話など何も聞かされていない。

おじさんはもう、やり切れないほど悲しくなってしまった。
何に対してなのかわからない。強いて言うならぜんぶが悲しい。

悲しみは強い衝動になって、控室にいた全員を殺してしまった。

扉を開き階段を昇ろうとすると、目の前に先ほどとは違う職員がいて、おじさんの目を塞いだ。
職員はゆっくり何かを喋っているが、何を言ってるのか聞き取れない。
しかし、諭すような声の抑揚に、だんだんと心が落ち着いてゆく。

すると、真っ暗な視界の中にひとり、白黒の女の子が現れた。
髪型…体型…見たことがある。
ひみつのアッコちゃんだ。

アッコちゃんは服を着ていなかった。
乳房も陰毛も丸出しで、床にペタリと座り込み、目を瞑って歌を歌っている。
まるですべてを包み込んでくれるような穏やかで優しい空気が漂い、とても魅力的だった。

ああ、この人が自分の恋人だ。

おじさんの心にドクドクと温かいスープが溢れ、指先までじんわり温めると、腕や脚が軽くなったように感じた。
身体中に血液が循環している。
はじめての感覚に脳が痺れ、涙が出そうだった。

脳の奥底には、ヒンヤリとした冷静な自分が確かにいた。
これは本当の恋人じゃない。自分はずっと孤独で、ずっと悲しくて、恋人も欲しかったけど、こんなハリボテは望んでいなかった。何かやってみたかった。外に出たかった。本当は人も殺したくなかった。

おじさんの心はどんどん実在しないアッコちゃんで埋め尽くされ、次第には視界も明るくなり、空気も爽やかに感じ、腹の底から笑っているような解放感で身震いした。
アッコちゃんの可憐な歌声が、耳の奥で鳴り続ける。
涙が出るほど幸せで、こんな幸せははじめてで、自分にもこんな気持ちになる時が来るのかという戸惑いとくすぐったさで身悶えた。

最後の最後まで残った冷静な自分は、たぶん本当は地下から出ていないし、このまま一生閉じ込められて死ぬんだろうなと考えていたが、幸せを感じるほどに小さな自分に大きな悲しみにのしかかり、ビリビリにちぎれるほど辛くなって、はやくいなくなりたいと思った。









という夢を見て、4時間くらいしか寝ていない状態で中途覚醒した😭

起きたときは心臓がバクバクで、頭の中に聴いたことのないアッコちゃんの歌がずっと流れていて、控え室の人々の顔を鮮明に覚えていてめっちゃ怖かった😭

生理前なの関係あるのかな?

とにかく怖かった!😭😭😭


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